E1678 – ERDB-JP:共同で構築する電子リソース共有サービス

カレントアウェアネス-E

No.282 2015.06.04

 

 E1678

ERDB-JP:共同で構築する電子リソース共有サービス

 

 図書館の検索サービスで日本語雑誌の所蔵を確認し,図書館でコピーした後,その雑誌を発行している学会のウェブサイトで公開されていることに気づいた……このような経験はないだろうか。

 通常,オンラインで資料が利用可能であれば,電子リソースのタイトルリストであるA-Zリストやリンクリゾルバ,ディスカバリーサービスなどを経由して電子リソース本文を発見できることが多い。しかし従来,このようなサービスの中核となるナレッジベースに国内の電子リソースのデータが不足していた。このため,国内外の大学図書館を始めとする学術機関では国内の電子リソースを利用者に対して適切に案内できず,また,その問題に対応しようとして,同じようなデータを各機関が個別にナレッジベースに登録するという非効率な作業が発生していた。

 この問題を解決するため,「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」の下に設置された「これからの学術情報システム構築検討委員会」の電子リソースデータ共有ワーキンググループは,国内の電子リソースに関する情報を集約・管理するデータベース“ERDB-JP”(Electronic Resources Database-JAPAN)を構築し,2015年4月に公開した。

 本データベースは,主に編集・発行責任の主体が日本にある電子リソース(例えば,学会誌,各大学の機関リポジトリ収録タイトル,紀要類,広報物,政府機関の報告書,白書など)のタイトル情報を収録している。現在は,国立情報学研究所(NII)の電子図書館事業であった“NII-ELS”,その他J-STAGE等,メタデータの管理主体が別に存在し,パッケージとして一括で情報取得が可能なものは収録対象としていない。データ形式は英国逐次刊行物グループ(UKSG)と米国情報標準化機構(NISO)の共同プロジェクトで制定された,電子リソースのメタデータ交換のための推奨指針であるKBART(CA1784参照),KBART2にタイトルのヨミ,NACSIS-CAT書誌レコードIDなどの独自拡張フィールドを追加したものとなっている。

 ERDB-JPでは,データの流通を促進するため,ライセンスには最も制限条項の少ないクリエイティブ・コモンズのパブリックドメイン(CC0 1.0 Universal)ライセンスを採用した。このため,誰でも自由にデータを出力し,利用することが可能である。また,ユーザからのフィードバック(登録・修正・削除依頼)も受け付けている。

 データの活用事例として,現在,ERDB-JPに登録されたデータにJ-STAGEなどのパッケージ情報を加えてCiNii Booksと連携させるサービスを試行している。また,一部の商用ナレッジベースにもデータの提供を行っており,当該ナレッジベースの導入機関はこのデータを利用してOPACや契約データベースから国内電子リソースへのナビゲートを実現している。今後も国内外のサービスで,ERDB-JPの提供するデータが広く活用されることが期待される。それにより,特に日本のオープンアクセス誌の発見可能性が向上し,日本の学術文献の国際的な競争力強化にもつながると考えられる。

 一方,海外でもオープンなナレッジベースの構築・共有の動きが広がっている。米国Kuali OLE(E1003参照)と英国Jiscが運用する“Global Open Knowledgebase”(GOKb)は,図書館,出版社,ベンダー・代理店が参加するコミュニティによるナレッジベースのデータ更新モデルを掲げ,2015年1月にテストサイトを公開した。また,英国Jisc Collectionsが進める“Knowledge Base+”(KB+)では,電子出版物のパッケージのタイトル情報を,KBART等の形式で,CC0ライセンスにより提供するほか,コンソーシアムの契約条件やライセンス情報(ウォークイン・アクセス(注),同時アクセス数,キャンセル後の利用条件等)を共有している。また,東亜図書館協会(CEAL)では,東アジア言語の電子リソースに関する情報流通を改善するため,KBARTのCJK言語への翻訳やCJK言語で必要となる項目の推薦を行う動きがある。

 ERDB-JPの公開は,上記のような世界の動きに参加するための一歩である。今後は,大学図書館等のパートナー機関拡大のほか,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE;E1189参照)とも連携して,JUSTICEが契約交渉の対象とする電子リソース情報についてもデータ共有を進める予定である。また,将来的にERDB-JPがKBARTやGOKbのような国際的なプロジェクトと連携できれば,世界規模でのオープンな学術情報流通を推進する一助となるはずである。

京都大学附属図書館・塩野真弓

注:ウォークイン・アクセス(Walk-in access)とは,資料の所蔵・契約機関の構成員以外による利用のこと。

Ref:
https://erdb-jp.nii.ac.jp/
http://www.nii.ac.jp/content/cpc/
http://www.niso.org/workrooms/kbart
https://www.kbplus.ac.uk/kbplus/
http://gokb.org/partners
CA1784
E1003
E1287
E1189