E1685 – アラブ諸国の機関リポジトリの評価<文献紹介>

 

カレントアウェアネス-E

No.283 2015.06.25

 

 E1685

アラブ諸国の機関リポジトリの評価<文献紹介>

 

Scott Carlson. An Assessment of Institutional Repositories in the Arab World. D-Lib Magazine, 2015, 21(5/6)

 アラビア語圏であるアラブ諸国の機関リポジトリは,「未熟な段階」(infancy stage)にあるといわれる。それは,この地域特有のトピックに関する文献があまり公表されてないこと,アラブ諸国の研究者の多くが機関リポジトリについての知識や経験をあまりもってないこと,長期保存の方針がないこと,などが要因である。本文献は,このようなアラブ諸国の機関リポジトリを,外部利用者の視点からアクセシビリティや透明性などの点で評価する。評価対象は,11か国の25のリポジトリである。

◯評価基準
 評価基準は,リポジトリの透明性に焦点を当てた北米の研究図書館センター(CRL)の指標を基礎とし,ウェブ上での可視性(visibility)も評価指標としている。またこの評価では,米国,カナダ,英国等で2002年から2007年の間に運営を開始した,比較的長期間運営されている18のリポジトリ(以下基準リポジトリ)を基準として設定し,それらのデータと比較している。

 評価の結果と基準リポジトリのデータは,Google Sheetsから自由に利用可能である。

◯ウェブ上のプレゼンスとアクセシビリティ
 各機関の図書館のウェブサイトからリポジトリにたどり着くまでのプロセスを評価したところ,基準リポジトリはすべて図書館のウェブサイトからたどり着くことができた。

 一方,アラブ諸国では,15のリポジトリ(60%)が図書館のウェブサイトから直接アクセスできた。また,4のリポジトリは,図書館のウェブサイト上で検索可能であった。残りの6のリポジトリは,図書館のウェブサイトからは直接アクセスできなかった。

 また,リポジトリの管理者への連絡先の掲載の有無を評価したところ,基準リポジトリにはすべて連絡先が掲載されていた。一方,アラブ諸国では,管理者への連絡先となるメールアドレスが掲載されていたのは11のリポジトリ(44%)であり,フィードバックのためのフォームを設置しているものを含めると,その数は18(72%)となった。残りの5のリポジトリでは,連絡を取れる手段が確認できなかった。

 なお,調査前には25としていた評価対象のアラブ諸国のリポジトリのうち,2のリポジトリでは長期間接続エラーが発生してアクセスできなかったため,実際に調査が可能なリポジトリは23となった。

◯ポリシーの透明性
 登録される研究成果の提出,保存,メタデータ,ファイル形式などのポリシーが,図書館やリポジトリのウェブサイトで参照あるいは提供されているかどうかを評価した。

 基準リポジトリでは,提出,コレクション,セルフアーカイブに関するポリシーが提供されていたのはいずれも14(78%)であり,ファイル形式に関するポリシーについては10(55%)であった。メタデータと保存に関するポリシーは,基準リポジトリでも提供されているところは多くなく,それぞれ6(33%)と4(22%)であった。

  一方アラブ諸国のリポジトリでは,これらのポリシーがほとんど提供されておらず,4のリポジトリでのみこれらのポリシーが提供されていた。とくに,メタデータとファイル形式に関するポリシーを提供しているリポジトリの数は,それぞれ1であった。また,保存方法に関するポリシーを提供しているリポジトリはなかった。

◯オープンアクセス(OA)とOA義務化に関する情報
 基準リポジトリでは,すべてのリポジトリがOAに関する何らかの情報を掲載しており,11のリポジトリ(61%)では機関のOA方針を提供していた。

 一方アラブ諸国では,機関のOA方針を提供していたリポジトリはただ1であったが,4のリポジトリでは,OA義務化に関する方針の存在をうかがわせる文言が掲載されていた。

 しかし,OAジャーナルのディレクトリであるDOAJ(Directory of Open Access Journals)には,アラブ諸国のOAジャーナルが550誌以上収録されている。そのうち約500誌はエジプトで発行されているのではあるが,評価対象のリポジトリでOAやOA義務化に関するポリシーがほとんど提供されていなかったという調査結果については,さらなる調査が必要かもしれない。

◯結論
 アラブ諸国のリポジトリは,他の先進国のリポジトリと比較して相対的に「若い」(youthful)と判断できる。しかし上述したように,基準リポジトリでもポリシーの種類によっては提供しているところが少なかった。この調査で開発された評価基準は,他のリポジトリの評価においても有用であろう。

関西館図書館協力課・阿部健太郎

Ref:
http://doi.org/10.1045/may2015-carlson
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1zS73i0IlvNHfc0JMXvon1GlA6ho-1XbcWxtzmFKDcs4/pubhtml
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1zvxrScwLPhhhpw1Vl43jntzc_Lx_2ADwZ_wITcE_7u0/pubhtml
http://www.crl.edu/archiving-preservation/digital-archives/metrics-assessing-and-certifying/core-re
http://www.crl.edu/sites/default/files/d6/attachments/pages/trac_0.pdf
http://www.repositoryaudit.eu/
http://repositories.webometrics.info/en/Arab_world
https://doaj.org/
CA1681