CA1784 - 動向レビュー:図書館におけるナレッジベース活用の拡がりとKBARTの役割 / 渡邉英理子, 香川朋子

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カレントアウェアネス
No.314 2012年12月20日

 

CA1784

動向レビュー

 

図書館におけるナレッジベース活用の拡がりとKBARTの役割

 

慶應義塾大学:渡邉英理子(わたなべ えりこ)
九州大学:香川朋子(かがわ ともこ)

 

1. 電子リソースとナレッジベース

 電子ジャーナル、電子書籍、データベースといった電子リソースの導入が進むなか、その管理と適切なアクセス提供のために、電子リソースのA-Zリスト、リンクリゾルバ、統合検索システム、ディスカバリインターフェース(CA1727CA1772参照)、MARC提供サービス、電子情報資源管理システム(ERMS)(1)などが多くの学術機関で利用されている。現在国内外で主流となっているのは、EBSCO、Ex Libris、Serials Solutionsなど、海外ベンダーのサービスである。これらのサービスは、ナレッジベース(Knowledge Base)と呼ばれるデータベースを中核に持つ点に特徴がある。

 ナレッジベースとは、世界中の出版社や情報システムベンダーなどから電子リソースのタイトルやURLなど簡易なメタデータを網羅的に収集し、最新の状態で保持しているデータベースである。図書館はナレッジベースから自機関で利用可能な電子リソースを選択して設定することで、電子リソースを容易に管理し、アクセスを提供することができる。

 本稿では、ナレッジベースの品質に関する問題を取りあげ、電子リソースのメタデータ交換形式の標準化によりその品質向上を目指すKBARTの取り組みについて紹介する。さらに国内外におけるナレッジベースをめぐる最近の動向を紹介し、そのなかでKBARTが果たす役割について述べる。

 

2. ナレッジベースの品質問題

 ナレッジベースを中核とする海外ベンダーのサービスの利用が進むなか、ナレッジベースが保持するメタデータの品質が問題となっている。一例として、リンクリゾルバでのリンク精度の問題が挙げられる。リンクリゾルバは、ナレッジベースで管理されている電子リソースのアクセス情報をもとに、OpenURLという技術を使ってリンク元(ソース)から受け渡されたメタデータと照合し、アクセス可能なリソース(ターゲット)へのリンクを生成するツールである(2)。リンクリゾルバが電子リソースへのリンクを適切に生成するためには、メタデータの元となるナレッジベースが正確かつ十分な情報を保持していることが不可欠である。ところが、ナレッジベースのメタデータに不備・不足があると、異なるターゲットへのリンクが生成されたり、利用可能であるにも関わらずリンクが生成されない状況が生じてしまう。

 なぜナレッジベースのメタデータ品質に不備が生じるのか。ナレッジベースの情報流通過程には、出版社をはじめとする「コンテンツプロバイダー」、ナレッジベースを構築・提供する「ナレッジベースベンダー」、そして「図書館」という、主に3つのステークホルダーが関わっている。このうちのコンテンツプロバイダーにおいて作成されるメタデータに不備・不足があるケースや、ナレッジベースベンダーにおいてメタデータの統合・変換処理を行う際にミスが生じるケースなど、様々な要因により品質に不備が生じる。そしてそれらの根本的な問題として、コンテンツプロバイダーとナレッジベースベンダーとの間のメタデータ交換方法が標準化されていないということが挙げられる。

 

3. 電子リソースのメタデータ交換に関する推奨指針“KBART”

 このような現状を受け、2008年に英国逐次刊行物グループ(UKSG)と米国情報標準化機構(NISO)の共同でKnowledge Bases And Related Tools(KBART)プロジェクト(3) (4)が開始された。本プロジェクトは、ナレッジベースに関わる3つのステークホルダー間の情報流通を円滑にすることで、ナレッジベースのメタデータ品質を向上させることを目指している。

 

図 KBARTにおけるメタデータ流通の概念図

図 KBARTにおけるメタデータ流通の概念図

出典:“KBART: Endorsement”. NISO. (5)

 

 KBARTプロジェクトは、2010年1月に電子リソースのメタデータ交換に関する推奨指針を、プロジェクトの第一段階(フェーズ1)の報告書“KBART: Knowledge Bases and Related Tools - A Recommended Practice of the National Information Standards Organization (NISO) and UKSG”(6)で公開した。

 推奨指針では、コンテンツプロバイダーからナレッジベースベンダーに提供されるべき電子リソースのメタデータ項目(下記の表参照)を挙げ、それらの記述ルールを提示している。加えて、メタデータの交換方法、頻度、ファイル形式やファイル名の付与ルールなどについても言及している。たとえば、ファイル名は“[コンテンツプロバイダー名]_[コレクション名]_[YYYY-MM-DD].txt”(例:JSTOR_Arts&SciencesV_2008-12-01.txt)のように付与することが示されている。

 

表 KBARTメタデータ項目

表 KBARTメタデータ項目

出典:“KBART: Knowledge Bases and Related Tools - A Recommended Practice of the National Information Standards Organization (NISO) and UKSG”(7)をもとに筆者が作成。

 

 コンテンツプロバイダーがこの推奨指針に沿ってメタデータを提供することで、データ品質の均質化と効率的なメタデータ交換が実現され、ナレッジベースの品質向上につながる。

 KBARTプロジェクトのフェーズ1では上記指針の作成のほかに、ナレッジベースを理解し、ステークホルダーの役割を認識してもらうための活動として、各ステークホルダーに向けた教育イベントの開催、ナレッジベース関連情報のポータル(8)構築などに取り組んだ。

 2010年にKBARTプロジェクトはフェーズ2に移行した(9)。フェーズ2では、フェーズ1で作成した推奨指針をベースとして、コンソーシアム契約コンテンツや電子ジャーナル以外のコンテンツ、オープンアクセスコンテンツの扱いなど、より複雑なケースも含めた推奨指針を構築するとしている。また、フェーズ1に引き続き、教育イベントの開催、情報ポータルの更なる充実にも取り組むとしている(10)

 なお、KBARTの推奨指針への準拠を表明したコンテンツプロバイダーおよびナレッジベースベンダーは、現在46団体以上にのぼる(11)

 

4. ナレッジベース活用の拡がりにおけるKBART

 KBARTによる電子リソースのメタデータ交換形式の標準化がもたらすのは、ナレッジベースの品質向上のみに留まらない。近年のナレッジベースをめぐる様々な動きのなかで、KBARTの活用が始まっている。

 例として、近年登場した次世代型図書館業務システム(E1307参照)が挙げられる。これは、図書館システムとERMSが統合された、ナレッジベースを核に持つシステムのひとつだが、KBARTに準拠し品質の高いナレッジベースを構築するだけでなく、KBART形式でのデータ出力機能を備えている製品もあり、他システムとの相互運用性を高めている(12)。なお、次世代型図書館業務システムでは相互運用性の確保や業務効率化などのメリットが得られることから標準への準拠が重視されており、KBART以外にも、ライセンス情報の交換フォーマットであるONIX-PL(CA1747参照)や利用統計の自動的な取得を行うためのSUSHI(E419参照)などの標準も積極的に取り入れている。

 また、これまでナレッジベースは商用製品に依存してきたが、KBARTによるメタデータ交換方式の標準化により、地域やコンソーシアムなどの図書館コミュニティにより運営されるオープンなナレッジベースの発展可能性も生まれている。

 JISC CollectionsがJISCと英国高等教育助成会議(HEFCE)からの委任を受けて進めている“Knowledge Base+”(13)は、英国内の学術図書館における電子リソース管理業務の支援を目的としたコミュニティベースのナレッジベースサービスである。図書館・出版社・ナレッジベースベンダー間でのナレッジベースの共有による情報共有やコスト削減を目指しており、その一環として、Knowledge Base+で管理されている電子リソースの情報をKBART形式で公開している(14)

 コミュニティベースの次世代型図書館業務システム“Kuali OLE”(E1003参照)のナレッジベースである“Global Open Knowledgebase(GOKb)”(15)は、Kuali OLEプロジェクトの参加館を中心に、JISCとの連携によって構築が進められている。Knowledge Base+とデータモデルを共有し、KBARTベースのフォーマットで、誰でも自由に利用できるナレッジベースを目指している。

 このような国レベルやグローバルレベルで共有されるオープンなナレッジベースの登場により、機関の枠を超えた業務効率化やサービスへの新たな展開が期待できる。

 

5. 日本の動向

5.1 日本におけるナレッジベースの拡がりと課題

 日本においても、ナレッジベースを中核に持つ製品は広がりを見せている。2011年度に実施されたNACSIS-CAT/ILL参加館状況調査(16)によると、A-Zリストは約50%、リンクリゾルバは約38%、ERMSは5%程度の機関で導入されている。また最近では、ディスカバリインターフェースの導入が急速に進み始めている。電子ジャーナルが研究に欠かせないリソースとなり、電子書籍の利用も普及し始めている状況において(17)、ナレッジベースは日本の図書館のサービスにとっても不可欠な存在となってきている。

 一方で、現在国内で普及しているナレッジベースは日本国内の電子リソースを十分にカバーしきれていないことが問題となっている。特にオープンアクセスやタイトル単位で提供されている電子リソースは、各提供元のWebサイト上に散在しているため、メタデータの収集や定期的なアップデートが難しい状況にある。また、メタデータの情報が乏しく、精度も低いという問題も生じており、これらは海外のナレッジベース製品が主流であることや、国内に電子リソースのメタデータを網羅的に収集する基盤がないことに起因する。さらに、出版社が提供するメタデータの標準化が進んでいないため流通が促されないことや、KBARTのような国際標準ではタイトルのヨミに代表される東アジア言語に特有のデータ項目が十分に扱われていないという課題も存在する。国内電子リソースを安定的かつ適切にナレッジベースの収集対象とするためには、国際標準を取り入れつつ日本の環境に応じた国レベルでのより包括的で効率的な国内電子リソースメタデータの収集・管理の仕組みの整備が必要である。

 

5.2 日本における電子リソースのメタデータ整備に向けた取り組み

 その取り組みの一つとして、国立国会図書館(NDL)の納本制度審議会において、電子リソースの収集制度化が検討されており(18)、実施されると国内における電子リソースの主要なメタデータ基盤となることが予想される。また、科学技術振興機構(JST)などが進めるジャパンリンクセンター(JaLC)(19)では、国内電子リソースへのデジタルオブジェクト識別子(DOI)の付与など、主に論文レベルの情報について、リンク精度の向上に向けた取り組みが展開されている。

 さらに、国立情報学研究所(NII)が中心となって進めている電子リソース管理データベース(ERDB)プロトタイプ構築プロジェクト(E1292参照)では、国内電子リソースを網羅的に収集する国内ナレッジベースの整備に向けた検討が開始されている。ERDBとは、電子リソースの書誌・アクセス情報および契約情報などを統合的に管理したデータベースで、メタデータやライセンス情報などの標準化および共有による図書館の電子リソース管理業務支援と、ERDBで集約したデータの活用による利用者の情報アクセス支援を構築目的の2本柱としている。ERDBでは、品質の高いナレッジベースの構築および海外のナレッジベースへの流通を想定し、KBARTを基準としつつも前述した東アジア言語特有の項目の他、主題などの補完的な項目やシステム内部で名寄せに使用するコード類などを追加したスキーマ構成を検討している。

 国内で普及している電子リソースのメタデータを安定的に国内外へと流通させるためには、KBARTをはじめとする標準を柱とし、国内の関係機関や日本のコンテンツプロバイダーが緊密に連携することが欠かせない。さらに、KBARTで不足する東アジア言語特有の項目については、国際的な標準化の取り組みに参加し、解決を図ることも必要であろう。

 

6. 電子リソースの基盤整備に向けて

 KBARTプロジェクトをはじめとした、電子リソース時代の抱える問題解決に向けた取り組みでは、各ステークホルダーの連携による国際標準の推進や、図書館間の国際協調による学術情報の流通基盤整備が重要となる。

 電子リソースが普及した現在においても、図書館が担う役割はよりよい学術情報利用環境を構築し、利用者を適切な学術情報へと導くことに変わりはない。ナレッジベースの品質確保による適切なアクセスの提供に向けて、日本の図書館も、自ら取り組みを始める時が来ている。

 

(1) 増田豊. 特集, 外国雑誌再考: ERMSとリンクリゾルバーによる電子ジャーナル業務支援. 情報の科学と技術. 2009, 59(6), p. 268-274.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0009163959, (参照 2012-09-22).

(2) 片岡真. リンクリゾルバが変える学術ポータル : 九州大学附属図書館「きゅうとLinQ」の取り組み. 情報の科学と技術. 2006, 56(1), p. 32-37.
http://hdl.handle.net/2324/2905, (参照 2012-10-01).

(3) “KBART: Knowledge Bases And Related Tools working group”. UKSG.
http://www.uksg.org/kbart, (accessed 2012-09-22).

(4) “Knowledge Base And Related Tools (KBART)”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/workrooms/kbart, (accessed 2012-09-22).

(5) “KBART: Endorsement”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/workrooms/kbart/endorsement/, (accessed 2012-09-22).

(6) NISO/UKSG KBART Working Group. “KBART: Knowledge Bases and Related Tools - A Recommended Practice of the National Information Standards Organization (NISO) and UKSG”. National Information Standards Organization. 2010-01.
http://www.niso.org/publications/rp/RP-2010-09.pdf, (accessed 2012-09-22).

(7) Ibid.

(8) “KBART: information hub”. UKSG.
http://www.uksg.org/kbart/hub, (accessed 2012-11-04).

(9) “UKSG and NISO announce first endorsers of KBART Recommended Practice”. UKSG.
http://www.uksg.org/news/kbartmay10, (accessed 2012-09-22).

(10) “Knowledge Base and Related Tools”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/workrooms/kbart, (accessed 2012-09-22).

(11) “KBART: Endorsement”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/workrooms/kbart/endorsement/, (accessed 2012-09-22).

(12) Wilson, Kristen. Introducing the Next Generation of Library Management Systems. Serials Review. 2012, 38(2), p. 110-123.

(13) “Knowledge Base+”. JISC Collections.
http://www.kbplus.ac.uk/kbplus/, (accessed 2012-11-04).

(14) “ KB+ Data import explorer”. JISC Collections.
http://www.kbplus.ac.uk/kbplus/publicExport, (accessed 2012-11-04).

(15) GOKb. http://gokb.org/, (accessed 2012-09-22).

(16) “NACSIS-CAT/ILL 参加館状況調査アンケート結果報告書(平成23年3月調査)”. 国立情報学研究所. 2012--03-15.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/project/pdf/enq2011_1_0315.pdf, (参照 2012-09-25).

(17) “学術情報の利用に関する調査 2011速報版”. SCREAL(学術図書館研究委員会).
http://www.screal.jp/ , (参照 2012-09-25).

(18) “納本制度審議会について”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit_council_book.html, (参照 2012-09-25).

(19) “ジャパンリンクセンター運用に向けた協力覚書を締結~国内電子学術コンテンツへの永続的なアクセスを可能に~”. 科学技術振興機構.
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20120528/index.html, (参照 2012-09-23).
Japan Link Center. http://japanlinkcenter.org/jalc/, (参考 2012-11-16).

 

[受理:2012-11-16]


渡邉英理子, 香川朋子. 図書館におけるナレッジベース活用の拡がりとKBARTの役割. カレントアウェアネス. 2012, (314), CA1784, p. 14-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1784