カレントアウェアネス-E

No.259 2014.05.22

 E1566

研究データ同盟第3回総会＜報告＞

　2014年3月26日から28日に，「障壁なきデータ共有」をスローガンとする研究データ同盟（RDA；E1531参照）の第3回総会がアイルランドのダブリンで開催された。RDAには同会議開催の時点で71か国から1,585名が登録しているが，今回はそのうち461名の参加登録があり，日本からの参加は12名であった。

　毎日午前中には全参加者を対象とするセッションが開かれ，1日目には，研究データの共有に関して国や機関によってそれぞれ異なるアプローチでポリシーやガイドラインを策定している現状に対し，あるべき共通の枠組みとその策定方法に関する議論が行われた。2日目には，インターネット上の複数の研究データを複合的に解析して成果を得ている様々な科学研究事例の紹介と，それらの研究へのクラウドの導入が与える効果（処理するデータの規模に応じた計算力の提供等）の説明や，今後研究者に求められるスキルに関する提言があった。3日目には，人文科学分野について，リポジトリ等の研究インフラシステムの重要性が未だ十分に認識されていないのではないかとの問題提起や，同分野の学際的な性格を踏まえたインフラシステム構築を求める提言があった。

　セッション以外の時間の多くは課題ごとに個別の分科会，すなわちBirds of a Feather（BoF），Interest Group（IG），Working Group（WG）に分かれての議論となった。これら分科会の種別は議論の進み具合を示しており，議論が具体化するにつれてBoF，IG，WGと切り替わっていく。同会議開始の時点で14のBoF，22のIG，12のWGがあり，加えて同会議中に6つの分科会が新設された。

　分科会のうち，「メタデータIG（Metadata IG）」をはじめとする幾つかの分科会では，リポジトリをまたいだデータの発見や相互運用が可能なメタデータ形式，その操作を実行するプラットフォームの構築を目指していた。また，「ビッグデータ・インフラストラクチャーBoF（Big Data Infrastructure BoF）」のように，ビッグデータを解析するアプリケーションを開発・利用・管理するためのガイドラインの策定を目指している分科会もあった。

　図書館員である筆者にとって特に興味深かったのは，「研究データのための図書館BoF（Library for Research Data BoF）」である。研究データは今や最も重要な研究資産の一つとして永続的なアクセスを可能とすることが求められているが，研究者の移動やリポジトリの閉鎖，あるいは規格の短命さ等によって容易に失われてしまう。同BoFは，研究データへのアクセスと再利用の長期的保障という問題に対し，人的または制度的なネットワークの構築を目的とするもので，図書館の立場から研究データ管理の問題に取り組むはじめての分科会である。同会議開催直前に新設されたにも関わらず50名もの参加者があった。中心的な論点となったのは，データを扱うスキルを持ったライブラリアン，すなわちデータ・ライブラリアンをいかにして育成していくかということであった。分科会の報告においては，図書館員が研究者と一緒にデータの管理作業を行ったり，研究データ管理に関する無料のオンライン教材を活用して学習したりする等の実践事例の提示があった。最終的な共通認識としては，データ・ライブラリアンとして習得すべきスキルや育成プログラムのフレームワークを整備する必要があるということであった。

　印象的だったのは，各セッションや分科会の議論の進め方に，既存の事例を収集してそこからモデルやベストプラクティスを抽出しようとする共通した傾向があったことである。各メンバーが関わっている組織や活動の数と多様性を考えれば，実際に使える成果物を作るために帰納法的な手法を採用するのは現実的なアプローチであろう。しかしながらアジア地域からの参加者はまだ少ない。障壁なきデータ共有が実現されていけば，研究の生産性や信頼性に大きな影響を与える。この動向に対応できる体制を整えるのは急務であるという印象を持った。

　次回（第4回）の総会は2014年9月22日から24日にオランダのアムステルダムで開催される予定である。

利用者サービス部科学技術・経済課・倉重卓也

Ref:
https://rd-alliance.org/rda-third-plenary-meeting.html
https://www.rd-alliance.org/groups/libraries-research-data.html
http://datalib.edina.ac.uk/mantra/
E1531