カレントアウェアネス-E

No.242 2013.08.08

 E1465

大学図書館における電子書籍サービスに向けて＜文献紹介＞

　2013年6月，国立大学図書館協会の学術情報委員会・学術情報流通検討小委員会が，2012年度調査報告として2本の報告書「大学図書館における電子書籍サービスに向けて‐現状と課題‐」及び「学術情報流通の現状と課題の整理のために‐検討の報告‐」を公表した。本稿では，これらの報告書のうち，前者の電子書籍に関する報告書について，概要を紹介する。これは，大学図書館においても電子書籍への取組みが直接的な課題となってきたとの認識に基づき，電子書籍の状況について調査し，さらに大学図書館としての課題と提案をまとめたものである。

　前段の調査においては，まず米国の図書館における電子書籍についての文献及びウェブ調査が行われている。ここではLibrary Journal誌等が公表した第3回目の“Ebook usage in U.S. Academic Libraries”に基づき，米国の大学図書館の95％が電子書籍を提供し，また1館あたりの平均タイトル数が91,900件に達している状況を確認している。また，利用者主導型購入方式（PDA；CA1777，E1340参照）や章単位のリザーブ貸出等，多角的な利用が進められていることを指摘している。国内電子書籍については，ヒアリング調査を行っている。ここでは公共図書館4館（札幌市中央図書館，浜松市立図書館，千代田図書館，堺市立中央図書館）を対象に導入状況の実態を調査し，また出版・流通関係者6社（出版デジタル機構，iNeo，大日本印刷株式会社，紀伊國屋書店，丸善，日本出版販売株式会社）を対象に図書館への電子書籍の供給状況について調査している。さらに，大学図書館で導入されている主要な電子書籍についての商品調査を行っている。これらにより，図書館に供給される国内電子書籍の点数は少なく，そのほとんどが既存の基本的書籍の電子化版であり，新刊が極めて少ないこと，供給側はその供給ルートについて個人向けと図書館向けとに区分していることなどを確認している。

　これらの調査結果をふまえて，報告書では課題として，大学図書館が個人と同じ立場で自由に紙書籍を調達することができた状況が，電子書籍においては供給ルートが区分されているため，大きく異なってしまっていることを指摘している。また，大学図書館向けの供給ルートで提供されている紙書籍の電子化版の品目選定におけるポリシーが明らかにはなっていないことを述べている。さらに，電子書籍の価格体系，大学図書館の電子書籍市場としての評価のほか，資料の図書館間相互利用が認められていない点，出版・流通関係者の間で電子教科書を大学図書館に提供する意思がない点を課題として指摘している。

　報告書では最後に，これらの課題を打開するため，大学図書館界として取り組むべき事項について以下の4つにまとめ提案している。

• （1）出版・流通関係者に国内の電子書籍新刊や個人向けの電子書籍の供給を積極的に働き掛ける。
• （2）電子書籍の商品タイプや価格設定方式，利用条件等について，積極的に検討し，出版・流通関係者に提案・協議する。
• （3）外国出版社，供給企業にも，価格や利用条件について積極的に交渉を進める。
• （4）出版・流通関係者への積極的な働き掛けと協議を行うために，組織体制を確立する。

　1つめは，電子書籍の新刊や個人向け電子書籍が大学図書館に提供されないことに対する懸念を表明し，国内の出版・流通関係者に電子書籍の提供を積極的に働き掛けること，また既刊紙書籍の電子化対象の選定についても意見や希望を積極的に述べ，必要なコンテンツ形成に関与していく必要性を指摘したものである。2つめは，商品を受け取るだけでなく，必要な商品タイプ・価格設定方式・利用条件等を検討し，積極的に提案してく必要性を指摘するものであり，また3つめは，外国電子書籍についても，大学図書館としての協議と交渉が必要であることを指摘したものである。そして最後の点は，課題に取り組むための組織体制の整備の必要性を指摘するもので，大学図書館界の共通課題として，国立私立大学図書館協力委員会や関連機関での対応が必要との考えが示されている。

（関西館図書館協力課・安原通代）

Ref:
http://www.janul.jp/j/projects/si/gkjhoukoku201306a.pdf
http://www.janul.jp/j/projects/si/gkjhoukoku201306b.pdf
http://www.thedigitalshift.com/research/ebook-usage-reports/academic/
CA1777
E1310