E1400 – デジタルコンテンツの価値を持続させるために―親機関の役割

カレントアウェアネス-E

No.232 2013.02.21

 

 E1400

デジタルコンテンツの価値を持続させるために―親機関の役割

 

 大学や図書館,博物館では,デジタルコンテンツに関するさまざまなプロジェクトが行われている。しかし,プロジェクトが終了するとほどなくその成果にアクセスできなくなってしまうことがある。あるいは,新しいコンテンツが追加されない,コンテンツの見せ方が当時のまま放置されているといった場合も珍しくはない。デジタルプロジェクトの持続可能性を考えるとき,このように単にコンテンツが残っているというだけで良いのだろうか。それらが利用者に対して“価値を提供し続けている”ことが重要なのではないのだろうか。

 英国のJISCは2008年以降,こういった観点から,デジタルプロジェクトの持続可能性をテーマとする一連の調査研究を実施してきた(E804E964参照)。2013年1月には,その積み重ねられた知見に,米国のITHAKA S+Rに委託された調査報告書“Sustaining Our Digital Future: Institutional Strategies for Digital Content”が加わった。今回は,デジタルプロジェクトのリーダーや支援を行う助成団体にとって助成終了後の頼みの綱となる“親機関”という存在に注目している。

 調査では,10か月以上かけて英国内の大学や文化機関におけるデジタルプロジェクトの関係者総勢84人にインタビューを実施している。第1段階では,プロジェクトリーダー,大学管理職,図書館員,助成団体職員などの40人への聞き取りを通して,現在の状況の把握を試みた。続く第2段階では,ユニバーシティカレッジロンドン,帝国戦争博物館,ウェールズ国立図書館という3館を選び,詳細な事例研究を行っている。

 大学に対する調査から,助成金の申請において助成終了後の持続可能性がしばしば考慮されていないことや,多くのプロジェクトは親機関から何がしかの支援を受けているが保証されたものは少ないことが確認された。また,学内には協力関係を結べる相手が存在しうるもののプロジェクトリーダーはそれを十分に探そうとしていないこと,親機関による支援はいまだコンテンツの保管や保存といった基本的なものでしかないことなども指摘されている。他方,文化機関に対する調査からは,博物館や図書館の多くが,館内で助成申請の調整やデジタル資産管理システムの共有といった持続可能性を高めるための一元化を行っていることや,コンテンツの拡張やユーザインタフェースの改善よりも新たなコンテンツの作成がしばしば重視されていることなどが分かった。

 ここで,レポートでは整理のためにデジタルプロジェクトを2種類に区別している。すなわち,単にデジタルコンテンツを維持管理すればいいものと,継続的な成長と投資が求められるものである。そのいずれにおいても,デジタルコンテンツを信頼性の高いシステムに格納し,アクセスの提供や保存を行うことは求められる。しかし後者については,これらに加えて,利用者に対して価値を提供し続けるため,変わりゆく利用者ニーズの調査,コンテンツの増強や技術的な改善,マーケティングとアウトリーチといった活動も実施していく必要がある。この2種類のどちらに属するのか,つまり,どういった支援が必要になるのかを早い段階で見定めることがプロジェクトにとってプラスであると指摘している。

 これを踏まえ,最後に,関係者に向けた提言をまとめている。なかでも大学や文化機関の上層部に対しては,複数のプロジェクトを結び付けて充実した支援のネットワークを作ることや,プロジェクトリーダーの参考となる学内の優良事例をまとめた資料を作成すること,コンテンツの魅力を最大限に生かすための活動の重要性に目を向けることが挙げられている。その他には,コンテンツの保管や保存などの“バックエンド”機能のように機関内で共通化することで効果が生まれる領域を検討することや,利用者ニーズの調査やインタフェースの開発といった“フロントエンド”に対しても支援を続けることなどを推奨している。

 今回の報告書は,3つのフェーズに分かれた調査研究の第一歩と位置づけられている。今後,フェーズ2でカナダの文化機関やブリティッシュコロンビア大学人類学博物館が,フェーズ3で米国の大学におけるデジタル人文学研究に対する支援(E1334E1380参照)が調査対象として取り上げられる予定である。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.sr.ithaka.org/research-publications/sustaining-our-digital-future
E804
E964
E1334
E1380