E1206 – 英国政府,著作権等の知的財産制度見直しに向けた文書を公表

カレントアウェアネス-E

No.199 2011.08.25

 

 E1206

英国政府,著作権等の知的財産制度見直しに向けた文書を公表

 

 英国政府は,2011年8月3日に,知的財産制度の見直しに関する文書“The Government Response to the Hargreaves Review of Intellectual Property and Growth”を公表した。これは,政府の委託によりカーディフ大学のハーグリーブズ(Ian Hargreaves)教授がまとめ2011年5月に公表したレポート“Digital Opportunity”を受けて作成されたもので,レポートの内容・提案をほぼ受け入れたものとなっている。政府文書の概要を,著作権に関する部分を中心に紹介する。

 知的財産に関する全般的認識としては,経済成長に重要な役割を果たすものである点とともに,技術進歩等に知的財産制度を対応させることが必要であるという点が示されている。特に,複製と伝達が容易になりデジタルコンテンツの広範で効率的な利用が可能となったことにより,著作権制度において変革の必要性が高いとしている。また,知的財産に関する政策決定に際しては,経済的な目的と様々な関係者のニーズのバランスを取りながら,エビデンスに基づいて決定することが必要であるとしている。

 著作権制度に関する新たな構想として,著作権の取引や権利情報の管理を行う「デジタル著作権取引所」(Digital Copyright Exchange:DCE)の設立が盛り込まれている。現在,英国では,著作権を管理する団体が多数存在しているが,政府文書では,著作権の迅速な取引機能や包括的な情報源としての機能は実現していないとし,そうした機能を持つDCEの設立により,著作権利用の円滑化とともに,著作権侵害への対抗や著作権調査にも活用できるとしている。

 DCEへの登録は強制ではなく任意とされている。政府文書では,DCEの成功のためには権利者と利用者の双方にとって魅力的な制度とすることが必要であるとされ,そのための方策として,著作権者による取引価格決定の仕組み,単なるデータベースではなく取引の場としての機能,著作権情報の無料利用とそれを活用した新サービスの創出,取引への課金収入による自立した運営等が示されている。2011年中にもDCE設立に向けた準備が開始される見込みである。

 著作権者が不明の著作物である「孤児作品」(orphan works)については,多くの著作物が利用できない状態は文化的にだけでなく経済的にも問題であると指摘し,利用のための仕組みを2011年秋にも提案するとしている。

 著作権の制限については,創作活動へのインセンティブという著作権本来の役割は尊重しながらも,過度の規制となっている点については制限規定を拡大し,著作物の利用を容易にするとしている。その対象として,限定された範囲での私的複製,テキストマイニングやデータマイニング等を含む非商業的研究における利用,図書館でのアーカイビング,パロディでの利用,が挙げられている。制限規定の拡大についても,2011年秋に提案が示されるとのことである。

 その他,特許やデザイン権,知的財産制度の実効的な実施体制,中小企業への支援等についての政府の方針が示されている。

 政府は,今後数か月間で詳細について協議し,実施のための計画を示す白書を2012年春に出す予定とのことである。

Ref:
http://www.ipo.gov.uk/ipresponse.htm
http://www.ipo.gov.uk/about/press/press-release/press-release-2011/press-release-20110803.htm
http://www.ipo.gov.uk/ipresponse-full.pdf
http://www.ipo.gov.uk/ipreview
http://www.bis.gov.uk/news/topstories/2011/Aug/reforming-ip