カレントアウェアネス-E
No.165 2010.02.03
E1018
デジタル時代の政府刊行物の永続提供に向けて(米国)
電子ジャーナルのアーカイブ事業等を行っている非営利団体Ithakaの研究調査部門であるIthaka S+Rは,北米研究図書館協会(ARL)と全米各州の州立図書館機構長の会(Chief Officers of State Library Agencies;COSLA)から委託を受け,「連邦政府刊行物寄託図書館制度」(FDLP)についての調査研究を実施した。その調査結果をまとめた報告書“Documents for a Digital Democracy”が2009年12月に公表された。FDLPは,米国政府印刷局(GPO)が連邦政府の刊行物をとりまとめて印刷し,全米の寄託図書館に無償で配布する制度で,19世紀初頭にその原型が確立したとされている。この調査では,デジタル時代となった21世紀において,政府情報への無償アクセスを永続的に提供するというFDLPの掲げる目的を実現するために必要な活動についての考察が行われている。
報告書では,まず,図書館,GPO,その他の主要な組織などの利害関係機関から計90人を対象に行ったインタビュー調査と背景調査の結果が記されている。その結果から明らかとなった,FDLPに固有の数多くの課題と現状の分析が,「ボーンデジタルの政府情報」「デジタル化された印刷文書」「デジタルコレクション管理」「印刷文書作成」「印刷コレクション管理」「発見,提供,支援」の6つの要素に分けてまとめられている。続いて,これらの現状分析を踏まえて,以下のようなFDLPの5つの目標が挙げられている。
- 新規発行された政府情報はデジタル形式で無償提供し,長期的に保存する。
- 過去のコレクションの遡及的なデジタル化作業を実施する。
- オリジナルの印刷コピーは寄託図書館からの要求が少なくなっても保存する。
- 地図やポスターなど,デジタル版よりも印刷形式のほうに利点のある資料があり,それらへの適切なアクセスも提供する。
- 寄託図書館は利用者のニーズに応える責務を再確認する。
さらに,これらの目標を達成するためのいくつかの将来モデルが,GPOの果たすべき役割を中心に描かれている。
- デジタル化された資料は,書誌コントロール,容易なアクセスの保証,連携した印刷コレクション管理のためにも,すぐにFDsys(政府刊行物提供サイト)に登録する。それができない場合は,GPOが他の関係機関と標準的な書誌コントロールを含めた調整を行う。
- 法律を改正して,GPOが各地方にある印刷コレクションを管理する権限を有することで,各館の廃棄処理などによる資料の欠損を防ぐ。改正までは,各図書館間での調整あるいはGPOによる調整を行う。
- GPOは,FDsysへの登録によってボーンデジタルの政府刊行物へのアクセスを可能にする活動を政府関係機関と共に継続し,FDsysへの直接の登録が難しい特殊な刊行物についてはGPOが関係機関との調整を行う。
FDLPの目的達成のための,図書館及び図書館員の役割についても記されている。図書や雑誌がデジタルへ移行するにつれて,図書館の役割は物理的な資料の保存から情報サービスの提供へと進展している。また,政府情報にかかわるライブラリアンも,印刷コレクションの管理に注力してきたこれまでの「政府“ドキュメント”ライブラリアン」から,デジタルデータを中心とした政府情報の利用サポートや,他の図書館員の研修などを行う「政府“情報”ライブラリアン」へと役割を拡張するべきである。それにより,政府情報へのアクセスを永続的に提供することに大きく貢献することになる,と述べられている。
Ref:
http://www.arl.org/bm~doc/documents-for-a-digital-democracy.pdf
http://www.ithaka.org/about-ithaka/announcements/new-report-presents-vision-for-sustainable-access-to-government-information-for-the-21st-century
http://current.ndl.go.jp/node/14381