CA996 – GII電子図書館プロジェクト:情報社会に関するG7関係閣僚会合 / 植月献二

カレントアウェアネス
No.188 1995.04.20

 

CA996

GII電子図書館プロジェクト
−情報社会に関するG7関係閣僚会合−

世界の国立図書館が高速の通信回線で結ばれて行く。持てる豊富な文化遺産を時空を超えて互いに分かち合える日が来る。いつの日にか,という話ではない。今,まさに始まらんとしているのだ。去る2月25日〜26日にブリュッセルで開かれた「情報社会に関する関係閣僚会合」における「電子図書館」共同プロジェクトがその嚆矢たらんとしている。ここでは,通称「情報サミット」とも呼ばれたこのG7閣僚会議の概要とこのプロジェクトについて紹介する。

この会議は,高度情報化社会の実現に向けて国際的な協力のキックオフというべきものとして位置づけられた。仕掛人は米国のゴア副大統領。彼が提唱した情報通信ハイウエイ構想が,その後発展してNII(National Information Infrastructure:全米情報基盤)構想となったのは1993年の話。彼は,NIIをのちにGII(Global Information Infrastructure:世界情報基盤)構想として展開したが,いくつかの国際会議(注1)を経て,米国の提唱によりこの問題に特化して開かれたのが今回の会議である。欧州連合がホストとなったこの会議では,情報通信関係閣僚会合のほか,情報関係の民間企業のトップ達を主とした産業人ラウンドテーブルも開かれた(注2)

米国の通商拡大という意図がGIIの裏にあるとしても,少なくとも,GIIの目的や原則(注3)を各国首脳は認めたわけである。必ずしも,雇用や経済成長に対して一致した意見があるとは言えないヨーロッパ社会の状況にもかかわらず,会議において,高度情報化は市民生活を豊かにするとともに,新規事業の創出等を通じて,世界の雇用,経済成長に対して、総体的にはプラスであると判断されている。但し,情報化による文化の同質化,情報を持てる人と持たざる人との間での社会の分裂,そして,情報化に必要な技術を有しない人の失業,これらのリスクが顕在化しないよう,高度情報化社会の過渡期をうまく乗り切る必要があるとの指摘もなされている。このような背景の中で,高度情報化社会の構築のための8原則が明らかにされた。( 1)公正な競争の促進,2)民間投資の奨励,3)柔軟な規制の枠組みの整備,4)ネットワークへの相互接続性の確保,5)全世界的なサービスの確保,6)市民に対する利用の機会均等化,7)情報資源の文化的及び言語的多様性の尊重,8)発展途上国へ配慮した地球規模の協力。)

さらに,政策課題として以下の6項目が挙げられている。( 1)相互接続性と相互運用性の促進,2)ネットワーク,サービス,アプリケーションの世界市場の開拓(ネットワーク市場アクセスの促進,通信分野の競争促進),3)プライバシー保護とセキュリティ,4)知的所有権の保護,5)アプリケーションの開発,6)情報化の社会的影響のモニタリング。)

これらの様々な課題を明らかにし,その解決を図るとともに,一般の人々の高度情報化社会に対する理解を深めるために,以下の11の共同プロジェクトが打ち出された。( 1)各国の情報化計画に関するデータベース構築,2)広域ネットワークの相互運用性の実験,3)遠隔地を結んだ教育や訓練,4)電子図書館,5)電子博物館・美術館,6)環境・天然資源管理,7)緊急危機管理,ネットワーク開発促進,8)世界的な医療・福祉への協力体制,9)政府情報ネットワーク,10)中小企業の電子取引ネットワーク,11)海事情報ネットワーク。)

5)に取り上げられた電子図書館プロジェクトは,以下のようなものとして想定されている。−1)各国で現在進行中の電子化計画や電子化されたコレクションを用いる。2)対象資料は,当初は公共に属するもの(著作権処理の済んだ,あるいは必要なくなったもの=public domain)とする。書誌データのみならず,一次資料そのもの,文字,グラフィック,静止画,音声,ビデオ等の情報を扱う。これらは各母国語で提供されるものとし,世界の文化の多様性が尊重される重要な機会とする。3)人間の知識の仮想分散データベースを構築し,多数の市民が世界的なネットワークを通じて利用できるものとする。4)世界の電子図書館を接続した電子図書館ネットワーク「世界図書館」(注4)に向けた国際協力を推し進める。5)これらを通し,一層の資料の電子化を各国が協調して促進する。6)国際協力の実際的な枠組みを提供することにより,技術的相互運用性を図る。7)当面,G7各国の国立図書館および研究図書館等を開かれた環境のネットワークで結び,のちに他の国に拡大して行く。8)相互協力を通して,標準化の促進,データベース作成における相互協力,書誌情報の交換,技術情報の交換を行う。

このプロジェクトでは日本とフランスが幹事国になっており,事業の推進は,国際的な運営委員会を設置し図書館や情報ネットワーク分野の機関間の連携を図るとしている。

国立国会図書館としてはこの計画に対し、今までは間接的に関与してきたが,これからは,わが国唯一の国立図書館として,情報化社会の中で国内においても国際社会においても情報発信の中核となって行くという方向を明確に打ち出して行くことが必要であろう。関西館(仮称)のシステムも当然その線上にある。

ところで現在,誰でも,いつでも,どこでも,簡便な使用方法で当館のデータベースを利用できるというような環境を当館はまだ実現しえていない。しかし,最近OPACの開発計画がまとめられ,データベースの外部提供に関する方針については鋭意検討中である。データ整備においても,可能な限り所蔵資料の目録をデータベース化していかねばならない。国内,世界の要求に如何に応えていくのか,これからが国立国会図書館の鼎の軽重が問われる時である。

植月献二(うえつきけんじ)

(注1) 第1回ITU世界電子通信開発会議(1994年3月21日,ブエノスアイレス),ナポリ・サミット(1994年7月8〜9日)
世界電気通信閣僚会合(1994年9月22日,京都)等
(注2) 日本からは,閣僚として通産大臣,郵政大臣,産業人ラウンドテーブルには学術情報センター所長,社団法人日本情報システム・ユーザ協会副会長,京セラ(株)会長,(株)セガ・エンタープライズ会長,社団法人日本電子工業振興協会会長・三菱電気(株)会長,社団法人日本電子機械工業会会長・日本電気(株)会長,経団連情報通信委員会通信政策部会長・新日本製鉄(株)副社長,日本電信電話(株)会長が出席。
(注3) GIIの目的:1)強固で持続可能な経済発展。2)強力な民主主義。3)地球的および地域的な環境問題への挑戦。
GIIの5原則:1)民間投資の促進。2)競争の促進。3)急速な技術進歩と市場の変化に対応できる規制のあり方。4)全ての情報提供者に開かれたネットワークの提供。5)ユニバーサル・サービスの確保。
(注4) 共同幹事国フランスは当プロジェクトをBibliotheca Universalisと名付けている。