CA1897 - 公共図書館における郵送・宅配サービスの動向 / 中山愛理

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日

 

CA1897

 

 

公共図書館における郵送・宅配サービスの動向

大妻女子大学短期大学部:中山愛理(なかやま まなり)

 

はじめに

 公共図書館における郵送・宅配サービスは、決して新しいサービスではなく、日本では障害者に対するサービスの一環として取り組まれてきた(1)。近年、郵送・宅配サービスの対象者を障害者から高齢者、子育て世代、一般市民へと拡大する公共図書館が増えつつある。本稿では、文献やウェブサイトで確認できた郵送・宅配サービスについて、図書館サービスでの位置づけを踏まえつつ、対象者別に、申込み方法、郵送・宅配方法、費用負担、サービス内容等の点から整理し、紹介していく。

 

1. 郵送・宅配サービスの図書館サービスでの位置づけ

 「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)では、市町村立図書館(都道府県立図書館にも準用)による「利用者に対応したサービス」の1つとして、「(図書館への来館が困難な者に対するサービス)宅配サービスの実施」が例示されている(2)。同基準では、どのような理由で図書館への来館が困難であるかは明示されていないことから、来館困難の理由やそれに基づく対象範囲は各都道府県・市町村立図書館の判断にゆだねられている。

 また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律への対応策を日本図書館協会(JLA)障害者サービス委員会がまとめた「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」(E1800参照)には、合理的配慮の一例として、「自宅に出向いての貸出」や「職員による宅配サービス:来館が困難な人が対象(主に市町村立図書館)」と記されている(3)

 

2. 障害者サービスにおける郵送・宅配サービス

 日本の公共図書館の多くは、肢体不自由者や視覚障害者に向けて、何らかの方法で郵送・宅配サービスを実施している。

 サービス対象者は、身体障害者手帳、療養手帳、精神障害者福祉手帳の交付を受けている者とし、対象等級は1・2級とする場合が多い。このほか、戦傷病者手帳の交付や介護保険法の要介護5の認定を受けた者を対象に含める図書館もある。対象者の細かな条件は図書館ごとに異なる。サービスの申込み方法は、直接来館のほかに、郵送や代理人による申請を認めることで、来館が困難な対象者に配慮している。郵送・宅配料について、点字郵便物、特定録音物等郵便物は郵送料が無料とされており、重度の身体障害者・知的障害者を念頭におく心身障害者用ゆうメールは基本料金の約半額に減免されている。図書館の費用負担が比較的少ないこともあり、郵送・宅配料を図書館負担とすることが一般的であるが、返送は利用者負担としているさいたま市立図書館(4)や静岡市立図書館(5)のような図書館も存在する。また、ボランティアによる宅配によって利用者の費用負担を生じさせない工夫をしている新宿区立図書館(東京都)(6)や藤沢市図書館(神奈川県)(7)、生駒市図書館(奈良県)(8)のような図書館もある。これらの図書館ボランティアによる宅配は、次節で紹介する高齢者や要介護者もサービス対象に含まれている。

 

3. 高齢者や要介護者を意識した郵送・宅配サービス

 塙町立図書館(福島県)(9)では、2009年4月より「高齢者世帯宅配」を実施している。高齢化率が約32%の塙町において、高齢者の生きがいづくりサポート事業と読書活動の推進を図ることを目的として、町内の70歳以上の1人世帯へ、図書館の資料を月2回、10冊まで図書館員が宅配して貸出しを行っている。

 府中市立図書館上下分室(広島県)(10)では、2013年10月より分室周辺の地区に居住する70歳以上の高齢者を対象に1回10冊まで1か月貸出す際に、図書館員が宅配するサービスを実施している。

 これらの事例では図書館員が宅配することで利用者に費用負担が生じないような工夫がみられる。

 

4. 子育て世代を意識した郵送・宅配サービス

 大分県立図書館(11)では、2006年9月より大分県に居住する乳幼児の保護者や妊婦、子育て支援活動者等を対象に「おすすめ絵本・育児書の宅配セット貸出」を実施している。定評のある育児書やおすすめの絵本等を5冊セットにして1回4セットまで、貸出期間30日以内で提供するもので、宅配料はすべて利用者負担となっている。

 宝塚市立図書館(兵庫県)(12)では、後述するすべての市民を意識した郵送・宅配サービスを利用者負担で実施しているが、2012年6月より子育て世代に対しては、無料郵送貸出(育児・介護サポートサービス)として月1回5冊程度を無料で郵送するサービスを実施している。

 

5. すべての市民を意識した郵送・宅配サービス

5.1 実施状況

 筆者が、各館のウェブサイトで郵送・宅配サービスの実施状況を調査した限りでは、都道府県立図書館のうち、すべての住民を対象として郵送・宅配サービスを実施している図書館は、北海道立図書館「インターネット予約貸出サービス」(13)、秋田県立図書館(14)及び山形県立図書館(15)「図書宅配サービス」、福島県立図書館「資料宅配サービス」(16)、埼玉県立図書館「図書及びCD郵送サービス」(17)、神奈川県立図書館「宅配貸出サービス」(18)、県立長野図書館「宅配による貸出」(19)、宮崎県立図書館「図書館資料宅配サービス」(20)等があり、特に東日本で取り組まれている傾向がみられる。また、県庁所在地及び政令指定都市での実施状況をみると、宇都宮市立図書館(栃木県)「図書宅配サービス」(21)、横浜市山内図書館「有料宅配サービス」(22)、広島市立図書館「有料図書宅配サービス」(23) 、高松市図書館(香川県)「資料郵送貸出サービス」(24)等がある。

 さらに、全国の自治体に目を向けると、恵庭市立図書館(北海道)「高齢者等図書宅配サービス」(25)、つくば市立中央図書館(茨城県)「図書送付貸出しサービス」(26)、鎌倉市図書館(神奈川県)(27)及び横須賀市立図書館(神奈川県)「図書宅配便」(28)、宝塚市立図書館「郵送貸出」(29)、筑後市立図書館(福岡県)「だれでも利用できます!宅配サービス」(30)、出水市立図書館(鹿児島県)「宅配サービス『本で見守り隊』」(31)等ですべての市民を対象に郵送・貸出サービスを実施している。

 

5.2 方法や費用負担

 郵送・宅配サービスを利用するためには、事前にサービス申込書を来館・郵送・FAX等で提出し、利用登録を求める図書館が多い。郵送・宅配してもらう資料は、電話や図書館ウェブサイトの資料予約ページから申し込む例が多い。貸出冊数や期間は、各図書館の規程を準用するところが多いが、窓口での通常の貸出期間よりも長く貸出し、郵送期間を考慮して柔軟に対応する図書館もある。

 費用負担については、利用者に配送料を着払いで負担してもらい、返送も利用者負担としていることが一般的である。なお、返却は、直接図書館窓口へ持参してもよいとしている図書館が多い。そうしたなかで、筑後市立図書館は、市内の商店街が運営する宅配サービス「ちくごいきいき宅配便」(32)を活用することで、利用者が宅配料を負担することなく利用できるようになっている。

 

5.3 背景

 すべての市民を対象に郵送・宅配サービスを実施する背景には、障害をもつ以外にも何らかの要因で来館できない潜在的利用者を取り込もうという意識が窺える。具体的には、来館を困難にさせる要因をどのように想定してサービスを実施しているのだろうか。

 恵庭市立図書館では、「子どもが小さいと図書館に行くのが大変。特に冬は、雪が降ると外へ出るのがおっくうだ」という市民の声に対応するためであった(E1742参照)。宇都宮市立図書館では、遠隔地に居住しているなどの理由により開館時に利用することが困難な場合を想定している(33)。つくば市立中央図書館では、図書館・交流センター・自動車図書館を開館中に利用できない市民や遠隔地の住民による所蔵資料活用促進を意図している(34)。また、鎌倉市図書館では、「図書館が遠い」、「なかなかいけない」と図書館と縁遠くなってしまっている市民(35)、宝塚市立図書館では、読みたい本はいっぱいあるのに、忙しくてなかなか図書館まで行けないという市民(36)、高松市立図書館では、高齢者や身体障害者に加え、遠隔地に住んでいるなどの理由で、図書館を利用しにくい市民(37)、出水市立図書館でも、高齢に加え、交通手段がない等の理由で図書館に行けない市民(38)を想定しており、市民の生活スタイルにあった方法へとサービスの幅を広げている。

 

おわりに

 本稿でみてきた郵送・宅配サービスは、アウトリーチサービスとしても捉えることができる。そもそも、「外部へなにかを届ける」という意味をもつアウトリーチサービスとは、対象者の潜在的なニーズに基づく、伝統的な図書館サービスに加えて行われる、実験的、試行的、臨時的サービスである。従来の図書館サービスでは、十分にフォローできていなかった子育て世代や開館時間中に来館できない利用者に向けた新たな試みは、まさにアウトリーチサービスの考えに合致するものである(39)。アウトリーチサービスは、人手と費用を要するという特徴があり、その経費の一端である郵送・宅配料の負担を利用者に求めることで、新たな予算の確保をせずともサービスとして成り立たせようとしている。

 また、公共図書館における郵送・宅配サービスは、近年注目を集めている「シェアリングエコノミー」の考え方や方法とも親和性をもっている(40)。「シェアリングエコノミー」には、インターネットを通して申し込まれた被服や鞄といったものを申込者へ郵送・宅配により届け、利用後に返送してもらう方法が含まれている。このような商業的サービスが社会に広まりつつあることは、一般市民が公共図書館における郵送・宅配を受け入れる素地が整ってきていることを意味している。

 

(1) 障害者サービスの一環として、1957年4月、秋田県立秋田図書館で墨字図書の郵送貸出を実施した例がある。
渡辺勲. “日本における図書館の障害者サービス年表”. 図書館と国際障害者年: 情報へのアクセスの平等を求めて: 1981-1990. 河村宏編集日本図書館協会, 1982, p.110.

(2) 文部科学省生涯学習政策局社会教育課. “図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成24年文部科学省告示第172号)について”. 文部科学省. 2012. 76p.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/001/__icsFiles/afieldfile/2013/01/31/1330295.pdf,(参照 2017-04-20).

(3) “図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン”. 日本図書館協会. 2016. 18p.
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline.pdf,(参照 2017-04-20).

(4) “宅配による貸出サービスについて”. さいたま市図書館.
https://www.lib.city.saitama.jp/contents;jsessionid=CEBA5B8C2F3AB0EEB9732A49F9772F6F?0&pid=771, (参照 2017-04-20).

(5) “郵送等による図書の貸出”. 静岡市立図書館.
http://www.toshokan.city.shizuoka.jp/?page_id=235, (参照 2017-04-20).

(6) “図書館に来ることが困難な方へ”. 新宿区.
https://www.city.shinjuku.lg.jp/library/index12.html, (参照 2017-04-20).

(7) “ハンディキャップサービス”. 藤沢市図書館.
https://www.lib.city.fujisawa.kanagawa.jp/guide_30.html, (参照 2017-04-20).

(8) “「本の宅配ボランティア」がおもてなし…来館困難者に手渡しサービス 奈良県生駒市”. 産経WEST. 2015-06-19.
http://www.sankei.com/west/news/150619/wst1506190029-n1.html, (参照 2017-04-20).
“催し物案内:来館するのが困難な人に本の宅配サービスをしています”. 生駒市図書館.
http://lib.city.ikoma.lg.jp/toshow/moyoosi.html, (参照 2017-04-20).

(9) “町立図書館 本を自宅へ配達します”. 塙タイムス. 2010-07-23.
http://blog.livedoor.jp/hanawatimes/archives/51569519.html, (参照 2017-04-20).
“本の宅配サービスのご案内”. 図書館だより. 2017. 平成29年2月号.
http://www.town.hanawa.fukushima.jp/data/doc/1486605942_doc_10_1.pdf , (参照 2017-05-01).

(10) 筒井晴信. 市立図書館上下分室 お年寄りに本を配達: 難しい外出 利便性図る. 中国新聞. 2014-06-17, 朝刊, p.23.

(11) “いつでも、どこでも、誰でも 読みたい本をお届けします大分県立図書館の「宅配貸出」のお知らせ”. 大分県立図書館豊の国情報ライブラリー.
http://library.pref.oita.jp/kento/guide/service-guide/posting_service.html, (参照 2017-04-20).
要覧(抜粋版). 平成27年度, 大分県立図書館, 39p.
http://kyouiku.oita-ed.jp/syakai/H27大分県立図書館要覧(抜粋版).pdf, (参照 2017-05-01).

(12)“郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html, (参照 2017-04-20).

(13) “インターネット予約貸出サービスとは”. 北海道立図書館.
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/service/reserve/, (参照 2017-04-20).

(14) “図書宅配サービスについて”. 秋田県立図書館.
https://www.apl.pref.akita.jp/guide/takuhai.html,(参照 2017-04-20).

(15) “図書宅配サービス”. 山形県立図書館.
https://www.lib.pref.yamagata.jp/?page_id=260, (参照 2017-04-20).

(16) “資料宅配サービス”. 福島県立図書館.
https://www.library.fks.ed.jp/ippan/riyoannai/takuhai.html, (参照 2017-04-20).

(17) “図書及びCD郵送サービスのご案内”. 埼玉県立図書館.
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/service/yuso_service/tosho_yuso_service.html, (参照 2017-04-20).

(18) “宅配貸出サービスのご案内”. 神奈川県立の図書館.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/common/takuhaia.htm, (参照 2017-04-20).

(19) “利用案内”. 県立長野図書館.
http://www.library.pref.nagano.jp/guidance/usage,(参照 2017-04-20).

(20) “宮崎県立図書館 図書館資料宅配サービスについて”. 宮崎県立図書館.
http://www2.lib.pref.miyazaki.lg.jp/?page_id=460, (参照 2017-04-20).

(21) “図書宅配サービス”. 宇都宮市立図書館.
http://www.lib-utsunomiya.jp/?page_id=263, (参照 2017-04-20).

(22) “青葉区における有料宅配サービスのご案内”. 横浜市山内図書館.
http://yamauchi-lib.jp/about/images/takuhai.pdf, (参照 2017-04-20).

(23) “利用案内”. 広島市立図書館.
https://www.library.city.hiroshima.jp/information/guide/, (参照 2017-04-20).

(24) “図書館サービス”. 高松市図書館.
https://library.city.takamatsu.kagawa.jp/use/service.html, (参照 2017-04-20).

(25) “図書宅配サービス”. 恵庭市立図書館.
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1449136654541/index.html, (参照 2017-04-20).

(26) “図書送付貸出しサービス”. つくば市立中央図書館.
http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14214/14274/9054/009235.html, (参照 2017-04-20).

(27) “図書宅配便内”. 鎌倉市図書館.
https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_guide01.html, (参照 2017-04-20).

(28) “図書宅配便の利用案内”. 横須市立図書館.
https://www.yokosuka-lib.jp/contents/ksaku/takuhai.html, (参照 2017-04-20).

(29) “郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html, (参照 2017-04-20).

(30) “利用あんない”. 筑後市立図書館.
http://library.city.chikugo.lg.jp/riyou.html, (参照 2017-04-20).

(31) “宅配サービス”. 出水市立図書館.
http://www.izumi-library.jp/takuhai.html, (参照 2017-04-20).

(32) “図書館の本などを商店街の宅配サービスで配送 【福岡県筑後市・羽犬塚商店街・中央商店街】”. EGAO. 2013-11-26.
http://syoutengai-shien.com/news/201311/26-01.html, (参照 2017-04-20).

(33) “図書宅配サービス”. 宇都宮市立図書館.
http://www.lib-utsunomiya.jp/?page_id=263, (参照 2017-04-20).

(34) “図書送付貸出しサービス”. つくば市立中央図書館.
http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14214/14274/9054/009235.html, (参照 2017-04-20).

(35) “図書宅配便内”. 鎌倉市図書館.
https://lib.city.kamakura.kanagawa.jp/riyo_guide01.html, (参照 2017-04-20).

(36) “郵送貸出”. 宝塚市立図書館.
https://www.library.takarazuka.hyogo.jp/guide/yuusou.html, (参照 2017-04-20).

(37) “図書館サービス”. 高松市図書館.
https://library.city.takamatsu.kagawa.jp/use/service.html, (参照 2017-04-20).

(38) “宅配サービス”. 出水市立図書館.
http://www.izumi-library.jp/takuhai.html, (参照 2017-04-20).

(39) 例えば、青森県立図書館では、障害者等配本サービス(アウトリーチサービス)として、図書の宅配・郵送サービスとアウトリーチサービスを同義に使用している。
“ご利用に際して”. 青森県立図書館.
http://www.plib.pref.aomori.lg.jp/top/guid/infomation.html, (参照 2017-04-20).

(40) レイチェル・ボッツマン, ルー・ロジャース. “所有よりもすばらしい”. シェア: <共有>からビジネスを生みだす新戦略.関美和訳. NHK出版, 2010, p.130-157.

[受理:2017-05-15]

 


中山愛理. 公共図書館における郵送・宅配サービスの動向. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1897, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1897
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369296

Nakayama Manari.
Books by Mail Service and Delivery Service in Public Libraries.