E1742 – 恵庭市立図書館の取組について:様々な声を実現する

カレントアウェアネス-E

No.294 2015.12.10

 

 E1742

恵庭市立図書館の取組について:様々な声を実現する

 

◯はじめに
 恵庭市(北海道)は札幌市と千歳市の間に位置する人口約6万9,000人のまちである。恵庭市立図書館(以下当館)は蔵書約30万冊の中規模な図書館ではあるが,恵庭市は,2000年度に全国に先がけてブックスタートを実施し,2013年度には「恵庭市人とまちを育む読書条例」を制定し,市民にも「読書のまち」としての意識が定着してきているといえる。 

 2015年に当館が行った取組のうち主な4つを紹介したい。

(1)有料の図書宅配サービス 
 2013年度から実施していた「高齢者等図書宅配サービス」の拡大版といえる。もともと高齢者の方や障がいを持つ方へのサービスだったが,あるブックスタート会場で,市民から「子どもが小さいと図書館に行くのが大変。特に冬は,雪が降ると外へ出るのがおっくうだ。」との声を聞いた。そこで,サービス対象者を拡大し,市民であれば誰にでも,ネット予約した本を宅配する「図書宅配サービス」を実施することとした。この取組は,宅配事業者に社会貢献の一環として参加してもらっており,1回一律300円で宅配を依頼している。

(2)コーヒー販売の実証実験
 「ツタヤ図書館」など,館内のカフェでコーヒーを提供する図書館が話題になったことや,図書館で美味しいコーヒーを飲みたいという要望や質問が寄せられたため,市民のニーズや採算性を調査することを目的に,コーヒー販売の実証実験を行った。7月から8月の間に4回にわたって,図書館の中庭を開放して市内事業者の移動販売車に来てもらい,同時にアンケートも実施した。

 この結果,残念ながら採算性の問題から,当館では有人でのコーヒー販売は難しいとされたが,この要望は図書館でくつろぎたいと考える市民が多いということのあらわれだと考えている。当館では代替案を引き続き検討していくこととしている。

(3)「本de恋活・恋の花咲かせましょ」の実施(「図書館開館24時」事業の一環)
 図書館を夜中にも開ける「図書館開館24時」という事業は2015年で3年目になる。普段は図書館に来られない仕事が忙しい人たちに,ゆっくり本を読んでくつろぐ時間を提供することや,親子で参加できる絵本の読み聞かせ会や大人のための絵本講座,本当にあった怖いお話会等を開催して様々な図書館サービスを体験できる場を提供することを目的にしたもので,市民との協働事業の一つである。

 「本de恋活」は,2014年にこの事業を行った際,筆者がボランティアの方と見かけた風景がきっかけになった。普段はあまり見かけない20代の人たちが集まって,「待ち合わせたわけじゃないのに,ここで会えるなんて。」と偶然の再会を喜んでいたのだ。そこで,その年代がもっと来たくなるような読書に関わる事業が何かできないかと考えた。また,ボランティアの方から,「ブックトークの会やビブリオバトルなどに参加して感じるが,好きな本のことなどを話すとその人の本質の部分が現れやすい。」などの意見もいただき,人と人を結びつける力がある本の力を借りて,「婚活」ならぬ「恋活」をしてみようと考えたのだ。

 実際の方法は,参加者にお気に入りの本を持って集まってもらい,自己紹介と本の紹介の時間をつくり,お茶やケーキを楽しみながら本を介したゲームを楽しんでもらうというもの。20名募集したところ,定員いっぱいの参加者を得た。参加した方からは,また実施してほしいという声が多く聞かれ,会場で本について熱く語る若者の姿もみられる印象的なイベントとなった。

(4)「本の福袋」展,「本の枕(まくら)」展の実施
 2015年1月に実施した「本の福袋」展では,「新しい本との出会いがあった」とか「何が入っているのか分からないドキドキ感が味わえた」などの意見をいただいた。これは,あるテーマに沿った本を5冊司書が選んで,新聞紙で作ったバッグに詰め込んで展示したものである。この時は,用意した90袋はすぐに貸し出されてしまい,追加で270袋を急ぎ作成することになった。

 このような,中に何が入っているのか分からない展示の第2弾企画として,2015年5月には「本の枕」展を開催した。本の書き出し部分(まくら)の一節のみを印刷した紙で本を包んだことにより,利用者はタイトルや著者が不明なまま,本を借りていくことになる。この企画も,「思いがけない本との出会い」を生み出し,利用者から大好評だった。

 これらは,窓口業務の受託事業者が,自社の全国的ネットワークを活用し,他館や他業種で話題となった事業を当館風にアレンジし,実施した取組といえる。

◯さいごに
 図書館の職員は,行政職員の中でも市民の声を直接聞く機会に恵まれているといえる。市民や学校,企業など地域の方々中には,本や図書館が好きで,図書館の役に立ちたい,もしくは図書館を変えたいと感じている方も多い。今後も,そういった方々をはじめ,様々な方の声に耳を傾け,恵庭市立図書館をプロデュースしていくこととしたい。 

恵庭市立図書館・黒氏優子

Ref:
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1379387062881/index.html
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1370303434576/index.html
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1370311247255/index.html
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1375920060449/index.html
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1449136654541/index.html
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1449136685393/index.html