PDFファイルはこちら
カレントアウェアネス
No.282 2004.12.20
CA1542
動向レビュー
学術的ポータルをめぐる動向
はじめに
21世紀に入って欧米では,学術情報のポータル的提供の試みが行なわれるほか,各大学図書館でもMyLibraryなどのポータル的機能の試みが実施されている。「ポータル」というくくりで同列に論じられることの多いこれらの試みであるが,そのサービス内容や方向性には大きな違いがあるように思われる。
本稿では,学術的なポータルを,不特定多数の利用者向けの「学術情報ポータル」と特定機関の構成員向けの「図書館ポータル」に区別するという視点から,内外の学術的ポータルの動向を紹介することにより,各種ポータルの今後の企画・運営の参考にしていただきたいと考える。
1. 学術情報ポータル
まず最初に,不特定多数の利用者を対象に,様々な学術情報を総合的に提供する「学術情報ポータル」の動向について紹介する。
1.1 ドイツの学術情報ポータルVascoda
Vascoda(E102参照)は,ドイツ連邦教育学術省とドイツ研究協会の出資により,約30の研究機関の協力のもとに提供されている学術情報ポータルである。
情報を理工学,生命科学,社会科学,人文科学の4分野に分けて,書籍,雑誌論文,インターネット情報資源というドイツ国内の質の高い学術情報を統合的に検索できるようにしている。通常の検索エンジンでは検索不可能な,2次情報データベースや図書館OPACなどの「見えないウェブ資源」の検索を実現しているのが特徴である。
インターネット情報資源については,各分野のサブジェクトゲートウェイを統合的に検索し,各分野毎の検索結果を表示する。例えば経済学ではEconDoc,心理学ではinfoconnexなどのデータベース,政治学ではpolitics and peace guide,数学ではMathGuideなどのサブジェクトゲートウェイを参照している。また,電子ジャーナルとなっているものには,後述の電子ジャーナルポータルEZBと連携して電子ジャーナル本文へのアクセスを容易にしている。
1.2 ドイツの電子ジャーナルポータルEZB(Elektronische Zeitschriftenbibliothek)
レーゲンスブルグ大学図書館がミュンヘン工科大学図書館と協力して開発したEZBは,複数機関による共同構築型電子ジャーナル目録データベースとして注目すべきものである。2004年10月現在277の図書館・研究機関が,共同収集と書誌データのメンテナンスを行っている。米国議会図書館(LC)も,このデータベースに参加している。
収録している約20,000タイトルは,分類毎のブラウズ,タイトル順のブラウズが可能なほか,タイトルでの検索もできる。ライセンス情報は各参加機関固有の情報として個別に管理され,ジャーナルリスト表示の際にはその固有情報に基づいて信号機をイメージしたサインでアクセス可否を表示している。自由にアクセスできる約7,700タイトルには「青信号」,契約によりその機関が利用可能なものには「黄信号」,契約をしていないため利用不可能なものには「赤信号」が付されており,簡明な画面全体のレイアウトとともに,利用者に非常に分りやすいインターフェイスとなっている。
書誌情報の維持についても配慮しており,ドイツ雑誌総合目録データベース(Zeitschriftendatenbank:ZDB)との間で目録作成手順を共有したり,ZDBの書誌データとの連携(リンク)も実現している。
技術的には,データベースにMySQL,ウェブサーバーにはApache,インターフェイスにはPHPという,パブリック・ドメインまたはオープンソースで構築されている。リストが要求された時点でデータベースからデータを採取し,それを編集加工してジャーナルリストを表示するという動的なシステム構造となっている。
わが国の大学図書館などが,それぞれの自主努力により電子ジャーナル集を維持・管理している現状を見ると,EZBでの共同構築の取組みは模範となるべきものであろう。1997年からこのプロジェクトを推進し,共同構築事業を成功に導いたフッツル(Evelinde Hutzle)氏の企画力には,大いに学ぶべきものがある。
1.3 日本の学術情報ポータルGeNii
ドイツのVascodaに相当する学術情報ポータルとして,国立情報学研究所(NII)の学術コンテンツ・ポータルGeNiiがある。これは,従来から行ってきた総合目録データベースWebcat,情報検索サービスNACSIS-IR,電子図書館サービスNACSIS-ELSに加えて,論文情報ナビゲータCiNii,電子ジャーナルリポジトリNII-REO,図書情報ナビゲータWebcatPlus,大学Webサイト資源検索JuNiiなどの多彩なコンテンツを擁するものである。これらのコンテンツが完全に統合され,コンテンツ自体もさらに充実すれば,日本を代表する学術情報ポータルになるものと期待される。
1.4 東京学芸大学の教育系学術情報ポータルE-TOPIA
特定主題分野のポータルの試みとして,東京学芸大学のE-TOPIAに注目したい。このサイトでは,同大学が作成した教育情報の総合的データベースやオンライン・チュートリアルとして有用な独自に作成したパスファインダーが利用できるほか,ネットワーク上に分散する複数データベースの統合検索機能も備えている。
単一の大学として提供するポータルとしては,非常に豊富な機能が取り揃えられているものであり,今後は,同様の教育系大学による共同コンテンツ作成が望まれるところである。
2. 図書館ポータル
次に,主にその機関内の利用者を対象として,その機関の構成員に見合った学術情報を提供する「図書館ポータル」の動向について紹介する。
2.1 MyLibrary
MyLibraryとは,図書館利用者が自分の利用傾向にあったポータルページにカスタマイズできるというサービスで,Yahoo!などにも類似の機能を見ることができる。米国では,様々な図書館・研究機関でこのパーソナライズ機能を実現している。ノースカロライナ州立大学NCSUはオープンソースとしてMyLibrary@NCSUを公開・提供しており,欧米の多くの大学がこのオープンソースを利用してMyLibraryサービスを実現している。
日本でも,このオープンソースを再利用した図書館システムが登場しつつある。京都大学のiLiswave MyLibrary,立命館大学のRUNNERS MyLibraryなどがそれであり,電子ジャーナル,リンク集,図書館OPACなどを自由に組み合わせて,自分の好みの色づかいのページを作成できるとともに,自分の貸出状況なども確認できるサービスを実現している。
ほかに,コーネル大学,ロスアラモス国立研究所などでも,独自にMyLibraryサービスを開発している。
2.2 統合検索機能
米国研究図書館協会(ARL)では,2002年から3年計画でARL学術ポータルプロジェクト(ARL Scholars Portal Project)を開始し,英国Fretwell-Downing社をパートナーとした製品開発を行っている。開発されたMyLibrary製品ZPORTALは,図書館OPAC,電子ジャーナル,検索エンジンなどを統合検索できるもので,検索結果の重複処理・ソート機能,検索式・検索結果の保存機能などを有する。
統合検索の対象としては,Z39.50ターゲットのほかに非Z39.50(通常のウェブ)データベースも選択できるようになっている。また,Open-URL(CA1482参照)により検索結果の文献にアクセスが可能となっている。このほかに,利用者のプロファイルを登録するなどのMyLibrary機能も備えている。
また,トムソンISI社では,Web of Knowledgeの機能拡張としてWebfeatという統合検索機能を用意している。この機能により,従来Web of Knowledgeで検索可能であったWeb of ScienceやCurrent Contentsなどのほかに,他社のデータベース製品やアクセスフリーのデータベース,Z39.50の図書館OPACなどを統合検索できるようになる。Webfeatはソフトウェアパッケージとして提供されるのではなく,Web of Knowledgeの1サービスとして提供されている。
2.3 米国におけるポータル機能の考察
上記ARLでの図書館ポータルプロジェクトのほか,ポータルのあり方を考える上で,2003年8月に公表されたOCLC研究部門長のデンプシー(Lorcan Dempsey)氏の論考『図書館の再構築:ポータルと利用者(The recombinant library : portal and people)』が有益である。この論考では,これまでの図書館ポータルの試みについてレビューを行った上で,図書館ポータルを(1)固定的な情報提示 → (2)カスタマイズ可能な情報提示(MyLibrary)と固定的な統合検索(統合検索機能)→ (3)カスタマイズ可能な統合検索という図式で分析している。
また,図書館ポータルの機能的要件についても論じ,図書館ポータルは単にMyLibrary機能と統合検索機能にとどまらないという重要な指摘をしている。さらに,図書館資源を場所・資料・サービスの3要素とする観点から,今後図書館ポータルが果たす役割と意義について論じている。図書館ポータルが果たすべき理念を考える上で,必読の文献であろう。
またLCとしては,LCPAIG(Library of Congress Portals Applications Issues Group)が米国議会図書館のためのポータルアプリケーションの機能リストを2003年7月に公表した(E109参照)。このグループでは,ZPORTAL,MetaLib/SFX,ENCompass/LinkFinderPlusといった製品の比較検討を通じて,LCが実現すべき図書館ポータルの機能要件約240項目を,一般的事項,クライアント,検索機能,ヘルプ機能等,知識データベース,認証機能,管理機能等に分けて提示している。図書館ポータルの方向性を把握するためには向かないが,技術的な詳細要件を検討するための材料として利用することができるであろう。
2.4 日本におけるポータル機能の考察
日本では,国立大学図書館協議会の図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループが,2003年5月に図書館ポータルの検討および提言を行なっている。これがわが国における図書館ポータルのあり方についての最もよくまとまった検討資料であろう。総合的ポータル,図書館ポータル,パーソナライズポータルという観点で論述し,わが国での実現可能性について提言しているところは,現時点でも通用するものである。
また,図書館ポータルだけではなく,機関リポジトリ,資料の電子化,サブジェクトゲートウェイ,デジタルレファレンス,オンライン・チュートリアルについての提言も,将来的な企画の指針となるところであろう。
おわりに
本稿では,様々な学術的ポータルの取組みについて,注目すべき動向を中心に紹介した。日本においても,MyLibraryの実現など図書館ポータル普及の兆しがみられる。利用者志向のサービスを目指した図書館ポータル機能の充実は,今後ますます望まれるところであろう。
東北大学附属図書館:米澤 誠(よねざわ まこと)
Ref.
Vascoda. (online), available from < http://www.vascoda.de/ >, (accessed 2004-10-10).
Universitaetsbibliothek Regensburg. EZB : Elektronische Zeitschriftenbibliothek. (online), available from < http://rzblx1.uni-regensburg.de/ezeit/ >, (accessed 2004-10-10).
国立情報学研究所. GeNii: NII学術コンテンツ・ポータル. (オンライン), 入手先< http://ge.nii.ac.jp/ >, (参照2004-10-10).
東京学芸大学附属図書館. E-TOPIA: 教育系電子情報ナビゲーションシステム. (オンライン), 入手先< http://library.u-gakugei.ac.jp/etopia/ >, (参照2004-10-10).
Morgan, Eric Lease. MyLibrary. (online), available from < http://dewey.library.nd.edu/mylibrary/ >, (accessed 2004-10-10).
Dempsey, Lorcan. The recombinant library: portals and people. Journal of Library Administration. 39(4), 2003, 103-136.
Library of Congress Portals Applications Issues Group. List of Portal Application Functionalities for the Library of Congress. 2003. (online), available from < http://www.loc.gov/catdir/lcpaig/portalfunctionalitieslist4publiccomment1st7-22-03revcomp.pdf >, (accessed 2004-10-10).
国立大学図書館協議会図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループ. 電子図書館の新たな潮流.2003. (オンライン), 入手先< http://wwwsoc.nii.ac.jp/janul/j/publications/reports/73.pdf >, (参照2004-10-10).
米澤誠. 学術的ポータルをめぐる動向. カレントアウェアネス. 2004, (282), p.10-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1542