CA1530 – 電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図書館の文献デリバリーへ及ぼす影響 / 加藤信哉

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カレントアウェアネス
No.281 2004.09.20

 

CA1530

 

電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図書館の文献デリバリーへ及ぼす影響

 

 近年,雑誌の危機(Serials Crisis)への対応のため,図書館コンソーシアムの形成による電子ジャーナルの大規模な導入が世界各国で展開されている。コンソーシアムによる電子ジャーナルの導入は,特定出版社の全タイトル利用を中心とした大量の電子ジャーナルが,コンソーシアムに参加する相当数の図書館で同時にバックファイルも含めて利用できることを意味する。このような電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図書館の文献デリバリーへ及ぼす影響についていくつかの事例を紹介したい。

 

1. 米国

 オハイオリンク(OhioLINK;CA1165参照)は,オハイオ州の大学図書館コンソーシアムで1998年に電子ジャーナルセンター(Electronic Journal Center)を開始し,2004年現在,70以上の出版社の電子ジャーナル5,855タイトルを提供し,2003年には約388万件の論文がダウンロードされている(1)。オハイオリンクの参加館の中で最も規模の大きなオハイオ州立大学図書館(Ohio State University Libraries)では,表1のように電子ジャーナルセンターのサービスが開始された後であっても文献複写の依頼件数は減少していない。この理由についてキューン(Jennifer Kuehn)は,オハイオリンクが多数のデータベースに対するアクセスサービスを別に提供しているため雑誌論文に対する要求が増えていることと,電子ジャーナルのコレクションがある時期に一斉に提供されたわけではないことを指摘している(2)

 

表1 1996/1997年度から2000/2001年度にかけて
オハイオ州立大学が依頼したILL件数および充足率

年度 1996/1997 1997/1998 1998/1999 1999/2000 2000/2001*
ILL依頼件数 14,102 17,310 17,491 17,553 18,328
文献複写充足件数 6,016 6,909 8,381 7,948 8,355
現物貸借充足件数 5,069 5,168 4,873 4,362 4,498

*10ヶ月分の実績に基づく推定値
出典:Kuehn(2001)

 

2. 英国

 英国では合同情報システム委員会(Joint Information Systems Committee:JISC)が全国電子サイトライセンス・イニシアティブ(National Electronic Site Licence Initiative:NESLI;CA1438参照)を設置し,1998年から2001年にかけて全国の高等教育機関を対象に電子ジャーナルを提供するための購読契約交渉を行った。これによって最大規模の文献供給センターである英国図書館(British Library)が大学図書館の遠隔利用者に対して供給する文献件数は, 1998/1999年度から2001/2002年度にかけて1,638,272件から1,327,922件に減少した。つまり3年間で18%減少した(3)

 ロンドン大学の聖ジョージ病院医学校図書館(St Geroge’s Hospital Medical School Library)は,NESLIの電子ジャーナルやエルゼビア・サイエンスダイレクト(Elsevier ScienceDirect),ワイリー・インターサイエンス(Wiley InterScience)等の電子ジャーナルを1999年から利用しているが,表2のように1999年のILL(Interlibrary Loan)受付件数は1998年に比べて約21%減少している(4)

 

表2 1997年から2001年にかけて聖ジョージ
病院医学校図書館で処理したILL件数

1997 1998 1999 2000 2001
依頼件数 6,783 7,208 6,258 6,501 6,281
受付件数 5,348 5,035 3,992 3,183 3,246

出典:Robertson(2003)

 

 

 グラスゴー大学図書館(Glasgow University Library)は,2002年7月現在で5,526タイトルの電子ジャーナルを提供しているが,その約65%は冊子体雑誌を購読していないものである。提供している電子ジャーナルは,ブラックウェル,エルゼビア等の出版社の一括購読契約やEBSCO Business Source Premier,Gale Expanded Academic等のアグリゲータ・サービスによるものである。2001年に開始されたサイエンス・ダイレクトの利用によってエルゼビアの雑誌に対する文献デリバリーの依頼件数が激減したのは注目に値する。1998/1999年度のエルゼビアの雑誌に対する依頼件数は3,813件(613タイトル)であったが,2001/2002年度は847件(327タイトル)に減少した。それは77.8%の減少となる(5)

 

3. 日本

 国立大学図書館は2002年度に文部科学省から電子ジャーナル導入経費の配分を受け,ブラックウェル,エルゼビア,シュプリンガー,ワイリーの4社について国立大学図書館協議会電子ジャーナルコンソーシアムを成立させた。2002年度に利用できる国立大学の電子ジャーナルは平均して2,700タイトルであった(6)。これによって表3のようにNACSIS-ILLにおける国立大学図書館の2002年度の文献複写依頼件数は2001年度に比べて約10%減少している(7)

 

表3 1999年度から2003年度における
NACSIS-ILL文献複写依頼件数の推移

年度 1999 2000 2001 2002 2003
国立大学 637,517 617,586 610,150 551,172 502,175
公立大学 73,373 95,229 105,586 112,202 127,129
私立大学 174,298 205,914 249,204 301,967 346,546
その他 63,548 69,728 73,034 78,090 84,584
合計 948,736 988,457 1,037,974 1,043,431 1,060,434

出典:国立情報学研究所.ILL流動統計(館種別). (オンライン),
入手先< http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/nill_stat_flowdata >, (参照2004-07-09).

 

 上記の報告から分かるように,コンソーシアムによる電子ジャーナルの導入は文献デリバリーの減少に影響を与えている。しかしながら概括的な報告がほとんどであるため,文献デリバリーが減少した具体的なタイトル,論文の出版年,図書館間の処理量などについては必ずしも明確ではない。包括的で精緻な個別大学レベルの調査報告が待たれるところである。

山形大学附属図書館:加藤 信哉(かとう しんや)

 

(注)
(1) 高木和子. OhioLINK最近の活動状況と今後の計画. 情報管理. 47(3), 2004, 204-211.
(2) Kuehn, Jennifer. We’re still here: Traditional ILL after OhioLINK Patron-initiated requesting and Ejournals. Paper presented at the 67th IFLA Council and General Conference August 16-25, 2001. (063-108-E). (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla67/papers/063-108e.pdf >, (accessed 2004-07-09).
(3) British Library. “Funding Agreement and Key Performance Indicators”. The British Library 29th annual report and accounts 2001/2002. 2002, 22. (online), available from < http://www.bl.uk/about/annual/pdf/perfindic.pdf >, (accessed 2004-07-09).
(4) Robertson, Victoria. The impact of electronic journals on academic libraries: the changing relationship between journals, acquisitions and inter-library loans department roles and functions. Interlending & Document Supply. 31(3), 2003, 174-179.
  ロバートソン, ヴィクトリア. (加藤信哉訳) 電子ジャーナルが大学図書館に及ぼす影響: 雑誌部門,収書部門および相互貸借部門の役割と機能の変化. オンライン検索. 24(3/4), 2003, 155-163.
(5) Kidd, Tony. Does electronic journal access affect document delivery requests? Some data from Glasgow University Library. Interlending & Document Supply. 31(4), 2003, 264-269.
(6) 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース. 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース活動報告書. 2004, 62p. (オンライン), 入手先< http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/ej/katsudo_report.pdf >, (参照2004-09-01).
(7) 国立情報学研究所.ILL流動統計(館種別). (オンライン), 入手先< http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/nill_stat_flowdata >, (参照2004-07-09).

 


加藤 信哉. 電子ジャーナルのコンソーシアム利用が大学図書館の文献デリバリーへ及ぼす影響. カレントアウェアネス. 2004, (281), p.3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1530