カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20
CA1484
ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoの現在
ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoが1997年のサービス開始以来,順調に業績を伸ばしている。subitoは,1994年に連邦教育学術省と州の文部大臣会議の図書館共同事業体の提案によって発足したプロジェクトであり,すでに本誌でも1997年のサービス開始段階の状況について紹介している(CA1227参照)。その後5年ほどを経て,いくつかの点において状況の変化が見られるため,前回の記事との相違点を中心にsubitoの現状について述べることにしたい。
まず,事業の担い手の組織形態に変更があり,1999年12月に,連邦と州の手を離れ,subito共同事業体が組合組織として設立されることになった。連邦教育学術省は,最高6年の財政援助を保証しているが,それ以降,subito共同事業体は,自助努力によって経営を成り立たせていかなければならない。
サービスに関する変更点は以下のとおりである。参加館が,5年前の18館から26館に増加し,サービス提供機関が数的に増加しただけでなく,オーストリアの2館が参加するなど地域的にも広がりを持つようになった。サービスの内容も拡充し,5年前は雑誌論文複写のみのサービスであったが,現在では図書の貸出サービスと図書の部分複写のサービスも行っている(1999年9月からサービス開始)。またサービスの提供対象について,グループ分けの変更が行われた。5年前は,国内の非営利目的利用者(グループ1)と営利目的利用者・国外の利用者(グループ2)という区分であったが,現在は国内・国外の区別がなくなり,学生・大学職員・公法人の職員等(グループ1),企業の図書館・自営業者等の営利目的利用者(グループ2),個人(グループ3),図書館(グループ4)という区分になった。
前回の記事では出版者側とsubitoとの間で,著作権法の解釈をめぐって意見の相違があり,出版者側は,とりあえず試行段階としてドキュメント・デリバリー・サービスを認めることにしたという状況まで紹介した。その後,複製物の送付・送信の問題に関しては,司法による判断が下され,解釈問題に一定の解決がもたらされた。1999年1月の連邦最高裁判所の判決によれば,私的使用,学術目的使用などの著作権法第53条の要件を満たしている場合には複製物の送付・送信は認められる,ただしその場合には著作者に対して相当額の補償金を支払わなければならないとされたのである。この判決を受けて,連邦・州と著作権処理団体との間で包括契約が締結され,subitoは補償金を著作権処理団体VG Wortに支払うことになった。その結果,subitoの利用料金は2000年9月から値上げされている。現在の料金体系は,利用者グループ1の通常サービスの場合,1文書あたり,電子媒体4ユーロ,郵送6ユーロ,FAX7ユーロとなっており,利用者グループ3の通常サービスの場合は,電子媒体6.5ユーロ,郵送8ユーロ,FAX9ユーロとなっている。補償金を支払わなければならないのは個人に複製物を直接配送する場合のみであり,図書館を経由するサービス,すなわち,グループ4のサービス(ライブラリー・サービス)には影響しない。ライブラリー・サービスとは,図書館が利用者に代わって文献複写を依頼し,製品を受け取り,利用者に納品を行うサービスである。このサービスは通常サービスのみであり,料金は電子媒体で3ユーロ,郵送で5ユーロ,FAXで6ユーロである。グループ2と特急サービスの料金設定については,subito参加館の裁量に任されている。
利用件数は,年々拡大し,1998年には約10万件だったものが,2001年には約73万5千件にまで増加した。2001年の数字では,複写サービスのうち,92.5%が72時間以内に提供する通常サービス(2002年2月の平均処理時間は35時間)で,7.7%が24時間以内に提供する特急サービスである。提供手段別では,77%が電子メール,22.3%が郵送,0.3%がFAXである。
先に述べたように,数年先には連邦からの財政援助を得られなくなるため,subitoは採算性を確保するための努力を払わなければならなくなった。subitoは今後の事業拡大の柱として,以下のような戦略を立てている。一つはサービスの国際化であり,その一環として国際的に広く利用されている検索システムとの連携が模索されている。すでに2000年の12月には,オランダの書誌ユーティリティ・サービス機関であるPICAと協定を締結し,PICAの利用者はsubito参加館に文献を依頼することができるようになった。さらに今後は,OCLCとの提携も検討されているとのことである。また,国外の利用者のために,日本語を含む外国語によるPR用資料も作成され,subitoのホームページで参照できるようになっている。事業拡大戦略の二つめは,提供した文書の電子的な保存を認めるサービスの導入である。現在の法的な枠組みの範囲内では,電子的に伝送された文書はプリントアウトした後に消去しなければならないことになっている。これは,前回の記事においても検討課題とされていた事項であるが,今後subitoがどのようにこの問題を解決し,サービスを拡大していくのか,注目されるところである。
調査及び立法考査局政治議会課憲法室:山岡 規雄(やまおか のりお)
Ref.
subito. (online), available from < http://subito-doc.de >, (accessed 2003-01-06).
subito – Lieferdienst der Bibliotheken. medizin – bibliothek – information. 2(2), 2002, 53-56. (online), available from < http://www.akh-wien.ac.at/agmb/mbi/2002_2/53-56subito.pdf >, (accessed 2003-01-06).
寺倉憲一. ドイツの図書館における著作権問題−公共貸出権を中心に. 現代の図書館. 40(4), 2002, 232-238.
山岡規雄. ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoの現在. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.3-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1484