CA1472 – 中国の電子図書館「超星数字図書館」 / 安藤一博

カレントアウェアネス
No.273 2002.09.20

 

CA1472

 

中国の電子図書館「超星数字図書館」

 

 紙媒体の資料を電子化し,ウェブ上で提供するサービスが1999年頃から中国で見られるようになった。米国の洋雑誌アーカイブサービス「JSTOR」( http://www.jstor.org/ )に相当する中国語雑誌のアーカイブサービス「中国期刊網(Chinese Journal Network)」( http://www.cnki.net/ )や,図書をウェブ上で閲読できる「超星数字図書館(Super Star Digital Library)」( http://www.ssreader.com/ )などである。前者は大学図書館など主に機関を対象として,定期刊行物を扱っているが,後者は個人利用者をサービス対象としている。本稿では後者「超星数字図書館」のサービスについて紹介する。(「数字」は中国語で「デジタル」を意味する。)

超星数字図書館

 「超星数字図書館」は電子化した図書の全文データをウェブ上で利用者に提供するという形のサービスを,中国で最初に始めた電子図書館である。利用者は100元(日本円で約1,500円)の「超星読書カード」(有効期間一年)を購入すれば,誰でも自宅やオフィスから図書館の蔵書30万冊以上を冊数の制約なく読むことができる。図書は,PDFに似た独自のPDGという形式により画像データとして電子化されている。利用者はPDG形式専用のブラウザ「SSReader」を使用する(注1)。オンラインで読むことも,ファイルをダウンロードしてオフラインで読むことも可能である。また,ダウンロードした図書のデータはプリントアウトもできる。

 同館は哲学,思想,歴史などの人文科学,政治,経済などの社会科学,数学,物理などの自然科学の各分野について,一般書から研究書まで幅広く収集している。この他にも「国家档案文献庫」(「档案」とは中国の官署の公文書,記録の意味)や「文史資料図書館」など,ある分野に特化した専門の図書データベースを構築している。また,雑誌や年鑑などの定期刊行物類も一部含まれている。

 「超星数字図書館」は,図書館や档案館などの資料の電子化を手がけてきた世紀超星公司と,省立の図書館では中国有数の蔵書数370万冊以上を誇る広東省中山図書館との提携で,2000年1月に公開された。開館以降も,他の図書館と提携を結び,それらの図書館の蔵書を次々と電子化している。2002年7月の時点でホームページから確認できる範囲では,8館の図書館と提携を結んでいる。その中には米国カリフォルニア大学サンディエゴ校図書館も含まれている。

 画像データによる電子化では,テキスト文書のように全文検索することは困難であるが(専用ブラウザにOCRソフトをプラグインすることで一応可能ではあるが),入力ミスによる誤字の問題がなく,図,挿絵などをそのままの体裁で載せることができる。そして何より,全文のテキストデータ化よりも,効率が格段によいという利点がある。「超星数字図書館」はこの利点を生かして,一日20万ページという速さで次々と電子化を行っている。

超星数字図書館の著作権対策

 中国では,著作権法が1990年に成立,さらに2000年改正法で電子出版物やネットワーク系出版物の著作権保護が強化されるようになった。現在でも世界貿易機関(WTO)加盟にあわせた著作権保護の法的整備が進められている。中国の著作権法では,著作権が保護される期間が著作権者の死後50年とされている。「超星数字図書館」で閲読できる図書の多くが著作権の存続する図書であるため,以下の著作権保護の対策をとっている。

  • a) ダウンロードした図書データをプリントアウトできるのは一度に10ページまでに制限される。
  • b) 図書データはダウンロードしたPCのブラウザでしか閲読できない。他のPCにデータを移すことはできない。
  • c) ダウンロードした図書は「超星読書カード」の有効期限内しか閲読できない。
  • d) 「超星数字図書館」への収集は可能な限り,出版されて2年以上経過したものに限る。また,収集は学術的,資料的価値の高いものとする。
  • e) 著作権者に対しては,使用報酬として,有効期限10年間の「超星読書カード」(1,000元相当)を贈るか,「超星読書カード」の売り上げの一部を,著作権を有する図書がダウンロードされた割合に応じて,著作権者に支払う。
  • f) 著作権者から依頼があれば,電子化に同意した後でも図書データの提供を取りやめる。

 

著作権者に対する使用報酬の分配は,中国の政府機関である中国版権保護センターの監督のもとで行われている。「超星数字図書館」が講じたこれらの著作権対策は,現在の中国における著作権処理方法を示すものであろうと考えられる。

 

 この「超星数字図書館」以外にも,政府や中国国家図書館が中心になって進めてきた「中国デジタル図書館プロジェクト(中国数字図書館工程)」の成果として建設された「中国数字図書館」( http://www.d-library.com.cn/index.php )が,同様の方法で著作権の存続する紙媒体の図書データをウェブ上で提供するサービスを行なっている。これらの図書館にとって,著作権問題をどう解決するかが,成功のひとつの鍵になる。著作権侵害で著者が告訴した中国における裁判で,「中国数字図書館」が敗訴した例もある(注2)。「超星数字図書館」や「中国数字図書館」がサービスを始めてまだ2年前後しか経ていない現在では,この方法の成否を見極めることは難しい。今後の動向を注視したい。

関西館資料部アジア情報課:安藤 一博(あんどうかずひろ)

 

(注1)PDG形式で電子化された図書データを専用ブラウザで読むという「超星数字図書館」の方法は,中国国内外の500を超える図書館が蔵書の電子化を行うにあたって採用している。
(注2)我国首例与数字図書館有関案件在京宣判.人民網. 2000.7.4 [ http://www.peopledaily.com.cn/GB/shehui/44/20020704/768146.html ](last access 2002.7.17)

 

Ref.

超星数字図書館.[ http://www.ssreader.com/ ](last access 2002.7.17)

中国数字図書館.[ http://www.d-library.com.cn/index.php ](last access 2002.7.17)

中国数字図書館工程.[ http://www.nlc.gov.cn./dloff/ ](last access 2002.8.15)

版権信息網.[ http://www.ccopyright.com.cn/ ](last access 2002.7.17)

程家華 数字図書館発展動態及其現状分析 現代図書館情報技術 2002年2期 11-13, 2002.

 


安藤一博. 中国の電子図書館「超星数字図書館」. カレントアウェアネス. 2002, (273), p.10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1472