CA1235 – 国際標準番号制度−ISSN,ISBN,ISMN,ISRC,ISAN,ISWC−(2) / 菅野育子

カレントアウェアネス
No.233 1999.01.20


CA1235

国際標準番号制度
−ISSN,ISBN,ISMN,ISRC,ISAN,ISWC−(2)

4 番号制度の課題

6つの番号制度を吟味した結果から番号制度における問題点を以下にあげる。

(1) 電子媒体への番号付与

ISSNとISBNにおいては電子媒体を対象とすることが問題なく進められ,ISSNは1990年以来の議論を通して電子媒体への付与を決め,その内容は第3版として制定された。またISBNはすでに第3版(1992年)から電子媒体を対象に含めている。しかし,例えばオンラインデータベースを識別する場合に,ISSNの場合には終刊を意図しない点を取り上げ,データの更新日時を発行日とするといったことや,ISBNの場合であれば,その更新日時を版表示とみなすことができるといったことから,オンラインデータベースに二つの番号制度が重複して関わるような議論が生まれてくる。さらに電子雑誌にISSNを付与して識別しようとした場合に,次のような不都合が起こる。電子雑誌の収録内容が更新される度に増加していくような場合(更新前には1年分の収録であったのが,更新後には2年分が同時に収録されるような場合)には,加除式出版物のような収録内容の変化がおきており,雑誌として扱うことには疑問が残る。これは図書,逐次刊行物という各印刷媒体に対する規格を単純に拡張して,電子媒体を加えただけに留まり,番号制度の重要な観点である文献という概念に対する見直しがされないまま,暫定処置の形で規格が改正されているために起こる議論である。媒体の変化は文献の内容そのものを変化させるため,その変化を受けた文献の識別を考えるには,印刷媒体を基本に行われてきた議論を再検討する必要がある。

(2) 構成部分への番号付与

ISRCの構成要素の末尾は,レコーディングごとの連番と,各レコーディングに含まれる項目に番号を付与するものであった。たとえばあるコンサートを録音した場合,コンサート全体とともに,その中で演奏された曲ごとに異なるISRCが付与される。特定の楽曲は作詞者と作曲者による著作物であるため,それを識別することは重要である。一方,複数の著作からなる著作集の構成部分や雑誌論文は,文献の書誌的識別の対象であるにもかかわらず,現在の番号制度には含まれていない。図書や雑誌の構成部分を識別する番号制度として,1987年に制定された通称biblidという規格(注4)があったが,各国での使用事例がないことから,1996年5月の会議において取り消しが決まった。このbiblidの構成要素は,図書の部分であればISBNが最初の要素として設定され,論文であれば収録誌のISSNが用いられ,それらに続いて出版年と論文該当ページが設定されていた。この方式では,収録誌や図書が識別要素の中心を担っており,論文自体の識別性は弱いものとなっている。biblidの代替案として米国規格となっている通称SICI(Serial Item and Contribution Identifier)が提案されている(注5)が,図書についても構成部分の検討(注6)が重要である。

(3) 著作物への番号付与

ISWCは“intellectual work(著作物自体)”を識別するものとして,目に見えないものを対象とする画期的なコードとして提案された。しかし現在のところその範囲は音楽著作物に限られ,テキストからなる著作物については今後の課題とされている。ワーキンググループに参加した音楽著作権協会関係者は,ある楽曲がどのように録音されても,その曲自体は唯一のものであるという立場を強調した。曲の識別は曲自体の著作権を保護するために必要不可欠であるからだ。例えばある楽曲がCD製品となれば,楽曲とその演奏とCD製品それぞれに著作権が発生し,楽曲に対してはISWCが,演奏に対してはISRCが,CDに対してはISANが同時に付与されることになる。その際,ISWC,ISRC,ISANがリンク付けされれば,楽曲や演奏からその音楽製品を探すことが可能となる。つまり,異なる演奏,異なる媒体による製品化に対しても,ISWCによってもとの楽曲を識別することが可能となるわけである。

ISWCはISRCとともに著作物の識別が直接の目的であり,他の番号制度が文献すなわち著作権法でいう発行されたものの識別を目的として設定されていたのに対して,異なる考えかたのもとにある。その文献にしても今までの番号制度は媒体に依存したかたちで文献を識別しようとしてきたために,印刷媒体から電子媒体への変化を受けて文献の定義が不明確なものとなっている。ISWCの目的である版権の識別が可能となれば,その識別要素を用いることで媒体の変化に影響を受けない文献の識別方法がうまれる可能性がある。

5 今後の国際標準番号制度の課題

1) 印刷媒体を基本とした文献の識別に関する議論を再検討し,電子媒体の普及という現状に適した新たな文献識別の考え方を構築する必要がある。

2) 図書の構成部分や雑誌論文のように物理的には独立した単位ではないが書誌単位として独立した文献を識別するための実用的な番号制度の確立が必要である。

3) 現在の番号制度には文献の識別と版権の識別とが混在しており,番号制度全体を考えた見直しが必要である。

愛知淑徳大学文学部:菅野 育子(すがのいくこ)

(注)
(4) ISO 9115: 1987 Documentation‐Bibliographic Identification (biblid) of Contributions in Serials and Books.
(5) ANSI/NISO Z39.56-1991 Serial Item and Contribution Identifier (SICI).
(6) 米国規格協会と英国の出版団体との共同作業で通称BICI(Book Item and Contribution Identifier)のプロジェクトが進められていることが下記の講演で言及された。Standard identifiers for electronic information, presented by Mr. Alvert Simmonds (ISBN United States Agency). ISO/TC46 Open Session, London, United Kingdom, 1997-05-13.