CA1715 – 図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL / 宮澤 彰

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1715

 

図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL

 

 ISO15511「図書館及び関連組織のための国際標準識別子」(International standard identifier for libraries and related organizations:ISIL)に対し、国立国会図書館が日本の登録機関としての準備を進めている。標準化の関係者にとっては長年の懸案が解決に向けて動き出すことになる。その名の通り、図書館等を識別するコードであるが、図書館関係者の間でもあまり知られていないこの識別子について解説し、その意義を述べる。

 

1. 構成

 ISILは、16文字以内の可変長コードで英大文字、小文字、数字および3種類の記号(文字名でSOLIDUS「/」、COLON「:」、HYPHEN-MINUS「-」)のみを使用する。例をあげると、“GB-UkOxU-CC”というのが英国オックスフォード大学クライストチャーチ図書館のISILコードである。最初のHYPHEN-MINUSの前のGBの部分がプリフィクスとよばれ、通常2文字の国名コード(ISO3166-1)が使われる。後ろのUkOxU-CCが図書館識別子とよばれ、各国で割り当てられる部分である。図書館識別子は最大11文字、この例のように大文字小文字を混用してもよいが、大文字小文字の別を識別要素にしてはならない。すなわち、UKOXU-ccを別の図書館に割り当ててはならない。プリフィクス部分は、国名コード以外のものもあって、この場合1文字、3文字又は4文字になる。内容は次の登録制度の項で紹介する。

 

2. 登録制度

 ISILは登録制で、デンマークのDanish Agency for Libraries and Mediaという機関が国際登録機関“ISIL RA(Registration Authority)”を務めている。「その国の図書館界でその役割が広く受け入れられている適切なナショナルエージェンシーがISILを管理する」(1)の規定の下、各国からナショナルエージェンシーをISIL RAに登録することで登録制度が動いている。ナショナルエージェンシーは、ISIL RAのウェブサイト(2)に公開されているが、2010年4月現在では、22か国(うち米国は準備中)が登録されている(表1参照)。

表1 ISIL RAに登録されているナショナルエージェンシー

AUオーストラリアNational Library of Australia
ARアルゼンチンArgentine Standardization and Certification Institute (IRAM)
BEベルギーRoyal Library of Belgium
BYベラルーシNational Library of Belarus
CAカナダLibrary and Archives Canada
CHスイスSwiss National Library
CYキプロスCyprus University of Technology – Library
DEドイツStaatsbibliothek zu Berlin
DKデンマークDanish Agency for Libraries and Media
EGエジプトEgyptian National Scientific and Technical Information Network (ENSTINET)
FIフィンランドThe National Library of Finland
FRフランスAgence Bibliographique de l’Enseignement Superieur
GB英国British Library
GLグリーンランドCentral and Public Library of Greenland
IRイランNational Library of Iran
ITイタリアIstituto Centrale per il Catalogo Unico delle biblioteche italiane e per le informazioni bibliografiche
KR韓国The National Library of Korea
NLオランダKoninklijke Bibliotheek
NOノルウェーNational Library of Norway
NZニュージーランドNational Library of New Zealand Te Puna Mātauranga o Aotearoa
SIスロベニアNational and University Library
US米国Library of Congress – 登録準備中

出典:(2)(日本語訳は筆者)2010-04-09現在

 国名以外のプリフィクスは、ISIL-RAに別途登録されることにより有効となる。2009年4月現在、OCLCなど4種類が登録されている(表2参照)。OCLC及びZDBは国際的に通用している図書館コードを持っている機関として、そのコードにこのプリフィクスをつければISILとすることができるようになっている。プリフィクスMは、未だ準備中で詳細が公表されていないが、各国に属さない国際的な機関を登録できるようにするためと考えられている。

表2 国名以外のプリフィックス

MLibrary of Congress 米国以外(登録準備中)
OOCLCでRFID等用の短縮形
OCLCOCLC WorldCat Symbol
ZDBStaatsbibliothek zu Berlin – Zeitschriftendatenbank

出典:(2)を基に筆者が作成 2010-04-09現在

 ISILは、図書館及び関連組織を識別するためのものである。関連組織は、書誌的環境でサービスや活動を行う組織と規定されているが、特に公文書館と博物館が明示されている。

 登録にあたっては、本館と分館のような構造のある場合、全体と部分にそれぞれ識別子をつけてもよいし、全体だけでもよい。また、1つの図書館が2つ以上の識別子を持つことも禁止はされていない。こういった柔軟性は、既存の図書館コードをなるべくそのまま取り込めるようにという配慮からきている。

 

3. 経緯

 ISILは、「国際標準化機構第46専門委員会」(ISO/TC46)の「相互運用技術分科会」(SC4)で定められた。1996年にイタリアから提案され、2003年に国際標準として成立している。もともと、欧州の多くの国にあった図書館コードの前に国名コードをつけて国際化しようというアイディアである。当初の名称は“International Library Code”(ILC)であった。現在のISO/TC46の体制(CA1465参照)からはISBNやISSNなどの識別子を手がけている「識別と記述分科会」(SC9)が担当する方が自然に思えるかもしれない。しかし、この提案がなされたのは、図書館の機械化等を扱うSC4であり、そのままSC4が担当することになった。当時のTC46の体制では、SC9は文献の記述に現在より大きな比重をおいていたことにもよる。

 SC4での委員会案は1997年に出ている。この時から国際標準に至るまでの段階で、技術的な変更は、最大長や使用可能な記号の増加だけであった。例えば最大4文字というプリフィックスの最大長は、OCLCを意識して変更されたものである。技術的問題よりも議論を呼び、標準化の遅れの原因ともなったのは、適用範囲の問題である。当初図書館のみの適用を考えていたが、検討の過程で関連機関も対象とされるようになった。この関連機関の範囲を広く書いたため、流通関係の標準である“Electronic Data Interchange”(EDI)側から、EDIの“Location Number”を使用することを求められ問題化した。結局、関連機関の範囲を「書誌的」なものに縮めてEDI側の要求を却下して2003年に国際標準として発行された。

 開発した委員会の中では、提案国であったイタリアの国立図書館がISIL RAを引き受けるものと思われていた。しかし、国際標準の発行段階になって、イタリアがこれを拒否、最終的にはデンマークの現機関が引き受けることとなったという事情もあって、ISIL RAの活動開始は遅れた。このため、まだ広く普及しているという状態には至っていない。

 

4. ISILの意義

 ISILの意義としては、技術的なものと社会的なものが考えられる。

 技術的な意義は、さまざまなネットワーク上のアプリケーションに対して、図書館界としての「固有名詞」を提供できる点である。複数の図書館がかかわるサービスをネットワーク上に展開する場合、図書館の識別は必須で、アプリケーションごとに個別に識別子を用意することは、無駄が多くサービスの展開を遅らせる原因にもなる。

 より差し迫った技術的意義としては、電子タグ(RFID)の識別子作成があげられる(CA1574E826参照)。最近図書館アプリケーションでも使われるようになったUHF帯の電子タグでは、タグの識別子(Unique Item Identifier:UII)を図書館で用意する必要がある。このための基礎として、図書館の識別子が必要とされている。電子タグの識別子は、国際的にユニークになっていないと、日本の図書館で借りた本を外国に持って行くとブザーが鳴るといったことにもなりかねない。

 社会的な意義としては、業界としてのまとまりを築き、新しいサービスを作るためのインフラを維持していく活動の一環という面がある。このようなインフラは、情報化社会の中で業界としての活力を保つために大切なものであり、図書館という業界が今後も発展していくための重要な資産である。さらに、関連の他の業界のサービスとの間で交渉していく場合にも、力となりうるものである。このような、社会的意義も忘れてはならない。

国立情報学研究所:宮澤 彰(みやざわ あきら)

 

(1) “Registration Agencies”. ISIL.
http://biblstandard.dk/isil/reg_agencies.htm, (accessed 2010-04-28).

(2) “ISIL Registration Authority”. ISIL.
http://biblstandard.dk/isil/, (accessed 2010-04-06).

 


宮澤彰. 図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1715, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1715