CA1465 – 動向レビュー:ISO/TC46の最新動向 / 菅野育子

カレントアウェアネス
No.272 2002.06.20

 

CA1465

動向レビュー

 

ISO/TC46の最新動向

 

1.ISO/TC46の新体制

 「情報とドキュメンテーション」という名称を冠する国際標準化機構第46専門委員会(ISO/TC46)は,専門委員会の中でも歴史が長く,これまでに,日本語(かな)のローマ字表記,国名コード,探索用プロトコル(Z39.50),ISBN (国際標準図書番号),図書館パフォーマンス指標,文書用紙の耐久性の要件,といった国際規格を制定してきた(1)

 国際規格は5年ごとに市場性を見直されるが,市場性がなくなった規格を廃止するためには各国の意見の一致をみなければならず,結果的に継続されることが多い。ISO/TC46でも同様の問題を抱えながら,一方で情報やドキュメンテーション分野での電子化に対応した改訂が複数の規格について行なわれていた。しかし,長年ISO/TC46事務局担当国であったドイツが降り,フランスとなったことを機に,新体制へ移行することとなった。(表参照)

 

<表>ISO/TC46のSCおよびWG

 ISO/TC46には7つの分科会(SC)と1つの作業グループ(WG)があったが,2000年10月に開かれた総会において,3つのSCがWGとなって活動レベルを変更し,残った4つのSCも長く使用してきた名称を一部変更した。本稿では,ISO/TC46の新体制を通して,情報とドキュメンテーション分野における標準化活動の方向性を検討する。

 

2.情報の相互運用のための標準化活動

 ISO/TC46/SC4は,もともと「情報とドキュメンテーションにおけるコンピュータ利用」という名称で情報検索や図書館業務の機械化に関連する規格を作成してきた。古くは,文献検索システムの探索機能を規定するISO 8777:1993(2)を始め,情報システム間での探索やレコードの送信を可能にした情報検索用プロトコルを規定するISO 23950:1998 (Z39.50)(3),文献複写物を電子的に交換するための書式を規定するISO17933:2000(GEDI)(4),文献の提供機関および利用機関を識別する国際標準識別子を規定するISO/DIS 15511(ISIL)(5)などを作成してきた。

 これらの規格はいずれも情報システム間でデータベースや所蔵資料を相互に利用するために制定されたものであり,SC4の新しい名称である”Technical Interoperability”が表す,情報システム間の相互運用技術に関する規格である。新体制では,博物館情報を対象としたデータベース構築のための概念参照モデル(ICOM/CIDOC CRM)(CA1434参照)が原案作成の段階にあるが(6),この案件もまた,各種博物館で独自に作成された文化遺産情報の相互運用性を図ろうとするものである。このように現在SC4の目標は,システム間で情報を相互運用するための標準化活動へと向けられている。

 

3.情報の識別のための標準化活動

 ISO/TC46/SC9の名称は,「文献の表現・記述・識別」から「識別と記述」へと変わった。旧名称に表現という語が含まれていたのは,その語が,学術雑誌,科学技術報告書,学術論文などの文献の構成,要素,様式やレイアウトなどを定めた規格を示していたからである。これらの規格は市場性が低くなったことから,その維持管理をISO/TC46事務局に移管し,SC9の名称から表現という語を削除した。

 新体制でのSC9は,情報識別のための番号やコードを総称した「情報識別子」(information identifier)と識別のための記述方法を対象としている。実際には,ISBNやISSNといった識別番号制度(CA12261235参照)が中心となり,電子文献の引用法を制定したISO690-2(7)や,抄録,索引,シソーラスに関連する規格は,識別を目的とした書誌記述に関する規格として維持管理されている。

 情報識別子に関する規格は現在8種類ある。これらの情報識別子間の関係例を示す図(図参照)からもわかるように,SC9の対象は,図書や雑誌といった伝統的な紙媒体の情報源から,電子媒体の情報源や,音楽作品,言語による作品,視聴覚作品のような物理的媒体を伴わないものまでにも及ぶ(CA12261235参照)。SC9の新しい名称から文献という語が削除されているのはそのためである。情報識別子を運用する機関団体として,情報機関(図書館,博物館,文書館)やコンテンツ産業(出版者やその他のコンテンツ作成・提供機関)の他に,著作権管理機関も加えられている。新体制でのSC9は,情報の識別に重点を置き,その対象を情報流通全般へと拡大する方向にある。

 

<図>情報識別子間の関係例

 

4.品質管理と関連する標準化活動

 ISO/TC46/SC8では,国際図書館統計や出版統計の規格化を進めてきたが,ISOでの品質管理の規格化への関心とも相まって,図書館活動の評価指標を規定するISO11620:1998(図書館パフォーマンス指標)(8)を制定した後も,電子情報源や利用者教育に関わる項目の追加について議論されている。新体制では,対象を図書館だけでなく文書館,博物館へ広げ,出版者以外のコンテンツ・プロバイダも含めることになっている。

 SC11は,公文書の長期保存(archive management)と社内文書の記録管理(record management)に関する標準化を進めている。1998年にTC46に参入した比較的新しい分科会であるため,制定された国際規格は,記録管理の原則や記録管理システムについて規定したISO15489(9)のみである。この規格は,品質システムを規定するISO9000の基礎部分を担う文書記録とも関連することから,企業からも関心が寄せられている。しかし,「記録管理」には,企業内部資料やその記録自体の管理だけでなく,国家機関での非現用資料の管理も含むため,SC11の活動範囲を限定することは難しい。そのため,「記録管理」という語義を明確にすることを目的として,「情報管理(information management)」,「知識管理(knowledge management)」,「文献管理(document management)」との語の定義の比較を扱う用語規格が現在審議されている。情報とドキュメンテーション分野の標準化の一つとして,記録管理という概念を位置付けていく必要がある。

愛知淑徳大学文学部:菅野 育子(すがのいくこ)

 

(1)菅野育子 資料編3:規格・標準 図書館情報学ハンドブック第2版 丸善 1999. p.951-961
(2)ISO8777:1993 Information and documentation – Commands for interactive text searching 1993. 23p
(3)ISO23950:1998 Information and documentation – Information retrieval(Z39.50)-Application service definition and protocol specification 1998. 154p
黒澤公人 図書館の未来へ:Z39.50の向こうに見えるもの びぶろす 49(5) 1998. p.110-115.
上田修一 Z39.50とその可能性 情報の科学と技術 48(3) 1998. p.126-133
(4)ISO17933:2000 GEDI Generic Electronic Document Interchange 2000. 41p
(5)ISO/DIS 15511 information and documentation – International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations (ISIL)
(6)ISO/AWI 21127 Computer applications in information and documentation — A conceptual reference model for the interchange of cultural heritage information
(7)ISO690-2:1997 Information and documentation – Bibliographic references — Part 2: Electronic documents or parts there of 1997. 18p
(8)ISO 11620:1998 Information and documentation – Library performance indicators 1998. 56p
糸賀雅児 総論:図書館の統計と評価 情報の科学と技術 51(6) 312-317, 2001
戸田あきらほか訳 図書館パフォーマンス指標 現代の図書館 36(3) 175-204, 1998
(9)ISO/TR 15489-1:2001 Information and documentation – Records management-Part1:General 2001. 19p
ISO15489-2:2001 Information and documentation – Records management-part2:Guidelines 2001. 39p

 


菅野育子. ISO/TC46の最新動向. カレントアウェアネス. 2002, (272), p.13-15.
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