CA1574 - 図書館へのRFID技術の導入をめぐって / 小笠原美喜

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カレントアウェアネス
No.286 2005.12.20

 

CA1574

 

図書館へのRFID技術の導入をめぐって

 

はじめに

 RFID(Radio Frequency Identification)タグとは,ICチップとアンテナにより構成されるタグのことで,電子タグ,無線ICタグなどとも呼ばれる。これは,物品に装着され,タグの中には当該物品の識別情報その他の情報を記録する。電波を利用することにより,これらの情報の読み取りまたは書き込みができる。

 この技術は,流通業界をはじめ様々な分野で,不正流通対策,在庫管理,マーケティング等のために活用されている。よく知られている例としては,JR東日本のSuica,高速道路のETC,CD店等の盗難防止ゲート,生鮮食品の生産地証明等である。

 今日,図書館界においてもこの技術の導入が検討されており,一部の図書館では既に導入されている。

 

図書館へのRFID導入の目的

 図書館でRFIDの導入を検討する狙いは,他の業種においてこの技術を採用する場合と同様,省力化やサービス向上である。これまで図書館界では,同じ目的でバーコードや磁気テープ等の技術を活用してきたが,これら従来技術を上回る利点がRFIDにはあるとされる。資料の貸出・返却手続の完全な自動化が可能であり,利用者の待ち時間は減少する。蔵書点検作業にかかる時間や労力も削減される。バーコードと違ってRFIDタグには情報を書き込むことが可能であり,磁気テープと比べて情報をより多く記憶できるため,図書館資料にRFIDタグを装着することで,そこに貸出履歴や配架情報等の情報を記憶させることが可能となる。

 

図書館へのRFID導入の際の論点

 では,図書館へのRFIDの導入を検討する際,問題となりうるのはどのようなことか。

 当然ながら,導入により本当に目的が達成できるのかどうかがまず検討されなければならない。例えば次のような問題がある。一口にRFIDタグといっても色々なタイプがあり,電波周波数の違いにより,通信距離や耐性等に違いがある。書籍流通業界と他の流通業界ではRFIDタグに求められる機能が異なり,図書館界と書籍流通業界でもまた事情は異なる(CA1496E389参照)。図書館では物流(資料の流れ)が一方向のみでなく,図書館と利用者の間を循環しており,長期に渡って物品(資料)を追跡する必要があるため,そこで使用されるRFIDタグには他の業界で用いられているもの以上の耐久性が求められよう。このように,図書館界固有の事情を考慮に入れ,どのようにRFIDを導入すれば最も効果的かを検討する必要がある。

 次に,導入にかかるコストの問題がある。色々なタイプのRFIDタグが存在するのと同様に,そのコストも様々である。業務の効率化やサービス向上に資するとしても,コストが極端に高ければ,費用対効果の面でRFIDを導入するという政策判断はなし難いであろう。

 以上2点は,仮に現時点でクリアできなくとも,技術の進歩により将来的に解決される可能性がある。RFIDをめぐっては,この他にも重要な論点があるが,とりわけプライバシーの問題には留意する必要がある。

 

RFIDにおけるプライバシー問題

 上述のとおり,RFIDタグの特性として,それ自体にかなりの記憶容量がある。それゆえ,物品(図書館の場合,資料)にRFIDタグが装着されると,当該物品の所持者(利用者)にかかわる情報がタグに格納されるのではないか,との懸念が生じる。仮にそのような情報がRFIDタグに盛り込まれるならば,それらの情報が遠距離から不正に読み取られないような保護措置が必須となるが,これは技術的な問題である。たとえ不正に読み取られたり流出したりしなくとも,RFIDタグに個人にかかわる情報が盛り込まれうるという点,すなわちRFIDタグが装着された物品を介して個人のプライバシーがシステムの管理者に把握されうるという意味で,ことは技術的な問題にとどまらず,プライバシー問題へと発展する。図書館に限らず,小売業等RFIDを活用するあらゆる分野において同様の問題が生じる。

 

RFIDとプライバシーをめぐる海外の状況

 RFIDとLibraryという2つのキーワードをかけてインターネットで情報検索を行ってみると,RFIDの技術を図書館システムに導入するベンダーのサイトがヒットする一方で,プライバシー保護の運動団体らによるRFIDへの懐疑的な記述が多くみつかる。

 図書館へのRFID導入反対運動の著名な例として,2003年10月に米国の人権擁護団体「電子フロンティア財団」が,2006年までにRFIDを導入するというサンフランシスコ公共図書館コミッティー(SEPLC)の計画に対して見直しを求めたことを挙げることができる(E140参照)。

 最近の動きとして日本にも紹介されている例としては,カリフォルニア州で公的な証明書にRFIDを用いることを禁止する法案が提出されていたが,審議が先送りされている。また,2005年11月には,サンフランシスコ公共図書館の諮問委員会(LTPAC)がRFID導入にまつわる課題,プライバシーやセキュリティ,健康への影響,コストなどについてまとめたレポートを発表し,RFIDを図書館に導入する前に更なる調査を行うよう勧告している。

 北米に限らず,また図書館に限らず,プライバシーの面からRFIDに反対する動きは多い。例えばドイツの代表的な小売業者であるメトロ社は,顧客向け会員カードにRFIDタグを利用していたが,その機能について顧客に十分な説明がなされていなかったため,強い抗議を受け,ついに2004年2月,同社は会員カードへのRFIDタグの利用を中止することとなった。また,イタリアの服飾メーカーのベネトングループは,2003年,同社の衣服のラベルにRFIDタグを装着する計画を発表したものの,消費者の不買運動により計画の実行を見送った。

 

おわりに

 RFID導入の検討に際しては,そのメリット(利便性)とデメリット(技術的課題,プライバシーの問題等)を十分に検証する必要がある。図書館においてRFIDを導入する場合には,とりわけ利用者のプライバシーに最大限配慮し,コンセンサスが得られるよう努めることが求められよう。日本では2004年6月,総務省と経済産業省による「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」が発表された。RFIDを活用する際,プライバシー問題にどう対処すべきかについての,業界を超えた指針である。図書館でRFID導入を検討する際には,このガイドラインの内容を踏まえ,また米国図書館協会(ALA)による「RFID技術及びプライバシー原則に関する2005年1月19日の決議」等海外の図書館界の取組事例も参照しつつ,今後の方針を決定することとなろう。

調査及び立法考査局調査企画課:小笠原 美喜(おがさわら みき)

 

Ref.

北克一ほか. ネットワーク環境下のセキュリティ,プライバシー,図書館サービス−無線IC(RFID)タグの論理形成を中心に−. 図書館界. 57(2), 2005, 130-138.

プライバシ問題にどう対処すべき?. 日経コンピュータ. (610), 2004-10-04, 76.

高橋正名. 非接触型無線ICタグ(RFID)の導入効果とこれからの課題について. 現代の図書館. 42(1), 2004, 39-44.

Molnar, David et al. Privacy and Security in Library RFID Issues, Practices, and Architectures. ACM CCS 2004. (online), available from < http://www.cs.berkeley.edu/~dmolnar/library.pdf >, (accessed 2005-11-04).

Falk, Howard. Privacy in libraries. The Electronic Library. 22(3),2004, 281-284.

ALA. “Resolution on Radio Frequency Identification (RFID) Technology and Privacy Principles” (online), Available from < http://www.ala.org/ala/oif/statementspols/ifresolutions/rfidresolution.htm >, (accessed 2005-11-04).

San Francisco Public Library Technology and Privacy Advisory Committee. Radio Frequency Identification and the San Francisco Public Library. Summary Report. 2005-10, 69p. (online), available from < http://www.sfpl.org/librarylocations/libtechcomm/RFID-and-SFPL-summary-report-oct2005.pdf >, (accessed 2005-11-18).

 


小笠原美喜. 図書館へのRFID技術の導入をめぐって. カレントアウェアネス. (286), 2005, 8-10.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no286/CA1574.html