E679 – 学術情報のデジタル化時代を生き抜く大学出版会の戦略とは?

カレントアウェアネス-E

No.111 2007.08.08

 

 E679

学術情報のデジタル化時代を生き抜く大学出版会の戦略とは?

 

 高等教育に関する先進的な調査研究や戦略の構築をおこなっている非営利法人Ithakaが2007年7月23日,米国の高等教育機関における学術情報のデジタル化と大学出版会に与える影響,およびそれに対する新たな戦略を提言したレポート“University Publishing In A Digital Age”を作成し,公表した。

 このレポートは,学術情報流通の急速なデジタル化や,デジタル環境下における出版モデルの急速な変化,大規模な商業出版社の台頭といった現在の学術情報流通の潮流に大学出版会は乗り遅れているという現状把握をもとに,デジタル時代に大学出版会が果たす役割について論じている。作成にあたっては,全米の大学出版会の責任者に対するアンケート,大学学長・大学出版会の責任者・図書館長へのインタビューが行われた。

 レポートでは現在の学術情報流通について,媒体のデジタル化,利用者のデジタル情報志向の増大,動画などフォーマットの多様化,経済モデルの変革といった変化が生じていると指摘するとともに,大学図書館がこのような変革に対応して,利用者のニーズに応じた形態での情報提供や新たなサービスの展開など,その姿を変えつつある状況を報告している。一方,大学出版会は,大学のミッションとのミスマッチや学術情報流通のデジタル化が遅れているなど,利用者のニーズの変化に対応できていないと指摘している。

 これらの現状分析をもとに,学内で大学出版会が重要な役割を引き続き担い続けるために必要なものは,今後の学術情報の主流となるデジタルフォーマットに対応していくこと,学術情報流通のためのプラットフォームを作成して,大学が生み出した研究活動や成果を発信していくこと,大学図書館との協同である,と指摘している。以上を踏まえ,学内の出版活動で積極的な役割を果たし,学術情報流通に対する戦略を構築し,さらに戦略を実行するために必要な組織基盤を備え,学内横断的な協同モデルを構築し,デジタル出版活動に必要な能力を備える必要があると提言している。

 大学図書館は機関リポジトリなどの事業を通じて,学内の知的資源を収集・保存・提供する活動を展開している。同じく学術情報の流通に関わっている大学出版会と,今後どのような関係を築いてゆくのか,考えることも重要かもしれない。

Ref:
http://www.ithaka.org/strategic-services/Ithaka%20University%20Publishing%20Report.pdf
http://www.ithaka.org/strategic-services/university-publishing