カレントアウェアネス-E
No.409 2021.03.04
E2364
学術図書館における電子書籍コレクション構築の動向(ACRL)
大阪大学附属図書館・吉田弥生(よしだやよい)
米国の大学・研究図書館協会(ACRL)の出版部門Choiceは2020年9月,米・メリーランド大学カレッジパーク校のノヴァク(John Novak)氏らの調査・執筆によるホワイトペーパー“Ebook Collection Development in Academic Libraries: Examining Preference, Management, and Purchasing Patterns”を公開した。入手には氏名等の登録が必要だが,同内容が本報告書の助成機関であるOverDrive社のウェブサイトでも公開されており,こちらからは登録なしで入手が可能である。
本報告書は,文献調査によりここ20年の動向も概観しつつ,2020年3月から4月にかけて行ったオンラインアンケート(以下「本調査」)をもとに執筆されている。調査の目的は,電子書籍の購入や管理が煩雑である中で,学術図書館における電子書籍の位置づけや購入手順,傾向をつかみ,電子書籍の購入・収集に影響を与える要因は何かを実証にもとづいて示すことである。また,同年6月下旬に行ったフォローアップ調査(オンラインアンケート)の結果をもとに,新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響についても考察されている。
本稿では以下,2つのアンケート調査の結果分析を中心に紹介する。
●本調査
Choiceの購読者名簿をもとに8,412の宛先へ電子メールでリンクを送付し,253件の回答を得た(回答率3%)。回答者の構成は図書館経営・管理職37.95%,図書館員59.30%,教員2.77%,学生0%,回答者の所属機関の内訳は,カーネギー分類別に,博士号授与機関35.97%,修士号授与機関26.48%,学士号授与機関18.97%,準学士号授与機関16.60%,専門大学1.98%となっている。所属機関の所在地は明らかではないが,おそらく大多数は北米と推察される。
●本調査から得られた主な知見
- 電子書籍は学術図書館の蔵書の中で重要な位置を占めており,平均して単行書の蔵書数のおよそ3分の1を占めている。
- 電子書籍購入費が3年前よりも増えている機関は8割を超え,6割強の機関で翌年の電子書籍購入予算を増やす計画である。
- 電子書籍の利点を尋ねた設問(複数回答)への回答上位4件は,(1)どこからでも利用できること,(2)いつでも利用できること,(3)遠隔/オンライン授業に役立つこと,(4)複数ユーザーがアクセスできること,であった。この結果は,図書館が電子書籍を購入する主要な動機が利用者の利便性とニーズであることを示している。
- 半数以上の回答者の認識では,利用者は書籍のフォーマットにあまりこだわらなくなっている。これは,これまで文献で指摘されていた傾向とは異なる。その結果,図書館は,利用者がどのフォーマットを好むかということよりも,入手可否・費用・収集範囲であるかどうかにもとづいて,紙の書籍と電子書籍を織り交ぜて購入している。
- 図書館にとって,電子書籍の入手には,複数のベンダー・プラットフォーム・購読モデルが存在することによる複雑さ,扱いづらさがあるものの,それによって電子書籍の購入が控えられているということはない。
- 図書館はフォーマットではなく,あくまで内容によって購入を判断している。回答者の91.48%は電子書籍の選定が蔵書構築方針に組み込まれていると回答しており,電子書籍によって学術図書館の収集範囲や方針が変容したとはみられない。
- 電子書籍はOPACやディスカバリーサービスで見つけられるようになっており,電子書籍に限定した広報を積極的に行っていると答えた機関は3割強にとどまった。
●フォローアップ調査
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりほぼ全ての大学でキャンパスが閉鎖され,蔵書への物理的なアクセスやILLがほぼ利用できなくなった状況を受け,フォローアップ調査を行った。本調査の回答者253人のうち協力の了承を得られた85人へ電子メールでオンラインアンケートフォームのリンクを送付,27人から回答を得た(回答率31%)。回答者の所属機関の内訳は,博士号授与機関と修士号授与機関がそれぞれ29.6%,学士号授与機関14.8%,準学士号授与機関26%であり,専門大学からの回答数は0件であった。
回答数は少ないものの,調査結果からは,図書館が電子書籍により多くの予算を割き,これまであまり行っていなかった利用促進のための活動を強化していること,学習環境がオンラインにシフトしたことにより図書館の電子書籍購入数が増えたことが示された。回答者の所属大学の大多数が次年度(2020年-21年)にオンラインと対面のハイブリッド授業を予定していることから,報告書の著者らはその間も上述の傾向が続くと見ている。
電子書籍の購入数が通常より増えた理由(複数回答)では,「オンライン授業を支援するため」(95%)が最も多く,「教員や学生からのリクエストがあったため」(85%)が続いた。3番目に多かった理由は「既存の冊子体の蔵書を電子書籍で提供できるようにするため」であった。
報告書は最後に,図書館も利用者も,電子書籍にまつわるフラストレーションや課題を乗り越えて,電子書籍を完全に自らのワークフローや活動に取り入れている,と総括している。
一方,日本においては,文部科学省による2019年度「学術情報基盤実態調査」のデータから算出すると,大学図書館の資料費全体に占める電子書籍購入費の割合は最も多い区分でも3%である。本調査における同割合を尋ねる設問への回答(回答率63%)を見ると,少ないサンプル数ながらも7割強の機関において10%以上,そのうち半数の機関では25%以上にのぼることから,日本の大学とは開きがみられる。しかしながら,日本でも北米と同様にコロナ禍で閉館を余儀なくされた結果,電子書籍の導入が大きく進んだと推測される。今後,北米の傾向に近づいていくのか,その動向に注目したい。
Ref:
“Ebook Collection Development in Academic Libraries: Examining Preference, Management, and Purchasing Patterns”. Choice. 2020-09-22.
https://www.choice360.org/research/ebook-collection-development-in-academic-libraries-examining-preference-management-and-purchasing-patterns/
“New Choice Report Studies Academic Collection Development, Reveals Shift to Ebooks”. OverDrive. 2021-01-21.
https://company.overdrive.com/2021/01/21/new-choice-report-studies-academic-collection-development-reveals-shift-to-ebooks/
“学術情報基盤実態調査(旧大学図書館実態調査)”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/jouhoukiban/1266792.htm