E1819 – 2016年IIPC総会・ウェブアーカイブ会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.307 2016.07.14

 

 E1819

2016年IIPC総会・ウェブアーカイブ会議<報告>

 

 国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC;CA1664CA1733参照)の総会(E1683等参照)及びウェブアーカイブ会議が,2016年4月11日から15日にかけて,アイスランドの首都レイキャビクで,アイスランド国立・大学図書館主催により開催された。IIPC非加盟機関からの参加者も含め約150人が参加し,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。

 従来は総会期間中にオープンセッションがあり,一般参加者も参加できたが,今回から,加盟機関のみ参加可能な2日間の総会と,加盟機関以外の参加者に開かれた3日間の会議に,プログラムが明確に分けられた。

 総会1日目は,今回の総会に先立って改訂された,今後5年間のIIPC協定及び新たに定められた細則の説明や,IIPCによる取組の最新状況の報告等が行われた。続いて,新たに細則に定められたツールの開発・参加機関の活動・連携及びアウトリーチ活動に関する3つのポートフォリオ(取組事項)について,各ポートフォリオのリーダーが現状と今後の方向性について報告を行った。その後3つのグループに分かれた参加者間を各リーダーが順番に回って方向性や課題について意見聴取や議論を行った。午後には加盟機関でウェブアーカイブの共同コレクションを構築するプロジェクトの課題,保存用ファイルフォーマットWARCの改訂等の現状報告があった。

 総会2日目は,2会場に分かれ,グループミーティング,ワークショップ,パネルディスカッション,プレゼンテーションが実施された。コンテンツ開発に関するグループミーティングでは,現在進行中の第一次世界大戦・難民危機・国際機関・オリンピック/パラリンピックに関するIIPC共同コレクションについての詳細や新規参加者への収集対象ウェブサイトのURLの登録方法の紹介があった。また新たな収集テーマとして,各国のニュースサイトや研究プロジェクトサイトの収集が提案され,課題等が議論された。APIベースのウェブアーカイブシステム・サービスの構築に関するパネルディスカッションでは,大きくなり過ぎたウェブアーカイブのシステムを,APIで連携する小規模のシステム群にしていく必要性が提示され,各機関でのシステムやAPIの現状,今後の課題について議論された。その他,カリフォルニア電子図書館・ハーバード大学図書館・カリフォルニア大学ロサンゼルス校図書館によるウェブアーカイブのメタデータの共同プラットフォーム構築計画Cobwebを紹介するパネルディスカッション,オープンソースブラウザのプロジェクトchromiumの成果を用いて開発された収集機能等を備えたアーカイビングシステムbrozzlerの紹介,ブラウザ画面のないブラウザPhantomJSを収集クローラーHeritrixと共用してウェブサイトを収集する試み等が報告された。

 会議1日目は,基調講演やパネルディスカッション,エミュレーションに関するセッション,ウェブアーカイブを題材にウォータールー大学で開催されたハッカソンの報告が行われた。

 興味深かった講演としては,デジタルアートの保存に取り組む米国の団体Rhizomeのクレイマー(Ilya Kreymer)氏とエスペンシード(Dragan Espenschied)氏による,ウェブアーカイブをその当時のウェブブラウザごとエミュレートして再現する“oldweb.today”の報告がある。古いウェブサイトを現在のウェブブラウザで表示すると,レイアウトが崩れるなど適切に再現されない場合がある。oldweb.todayでは,URLとブラウザ,OSを選択してウェブサイトの公開当時の環境を選択して閲覧することができる。なお現在閲覧できるアーカイブは,Mementoプロトコル(CA1733参照)をサポートしているInternet Archive等14のウェブアーカイブのみである。Internet Archiveのケール(Brewster Kahle)氏は,基調講演で,これまで収集されてきた様々なコンテンツを振り返りつつ,得られた教訓を提示した。架空の国立図書館“National Library of Atlantis”のウェブサイトの擬似的なデモを通じて,各国の国立図書館が,様々な機関のウェブサイト,音楽,ニュース映像,デジタル化書籍等といった多様なデジタルコンテンツを有機的に提供する未来を示し,連携による収集プロジェクトの必要性を語った。またデモの中で,現在開発中の,ウェブサイトの変更規模等を可視化して一覧できる“Wayback Machine beta”を公開した。

 会議2日目は,2会場で8セッション,22のプレゼンテーションが行われた。ウェブアーカイブの利用者ニーズに関するセッションでは,(1)研究者,図書館員への質問調査,(2)ペルソナ(ターゲットとするユーザ像)を設定してのユーザニーズ調査,(3)研究者の関心やサービスモデルの類型化と,研究者等がAPI等を通じて容易にアーカイブを扱えるようにするサービスモデルの構築事例,等が報告された。その他,ウェブサイト間のリンク関係の図式化,国ごとに割り当てられたトップレベルドメインを使用していない国内ウェブサイト収集の実践事例,アーカイブ再生ソフトウェア(Wayback Machine等)の性能比較,ソーシャルメディア・データの収集や解析の実践事例,収集終了から提供までの品質確認プロセスの自動化の実践事例,ウェブアーカイブを用いた歴史研究の事例等が報告された。

 会議3日目は2会場で4つのワークショップ(UK Web Archiveで構築している検索エンジンSHINEインタフェース,WARCフォーマットの拡張,ウェブアーカイブツールWebrecorder.io,ウェブアーカイブ管理プラットフォームWarcbase)が開催された。

 今回の総会及び会議では,ウェブアーカイビング,コレクション構築,ツール開発等における協力・協働をテーマに挙げるものが多かった。新しい協定と,次の議長に就任することが発表されたフランス国立図書館(BnF)のベルメス(Emmanuelle Bermès)氏のもと,より活発な協同・協働が行われることが期待される。

 次回のIIPC総会及び会議は,2017年3月にポルトガル・リスボンで開催される予定である。

関西館電子図書館課・大山聡

Ref:
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/overview
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/schedule
http://www.netpreserve.org/general-assembly/2016/WAC
http://www.netpreserve.org/sites/default/files/attachments/IIPC-Consortium-Agreement-2016-2020-final.pdf
http://oldweb.today/
http://labs.rhizome.org/iipc2016/owt.html#/
https://archive.org/details/BrewsterKahleIIPC2016NationalLibraryOfAtlantisIMG3849480p
https://waybackexplorer.archivelab.org/
http://rio.pensoft.net/articles.php?id=8760
E1683
CA1664
CA1733