E1587 - 創意工夫を促す大学図書館の取組:職員向け小額助成金制度

カレントアウェアネス-E

No.263 2014.07.24

 

 E1587

創意工夫を促す大学図書館の取組:職員向け小額助成金制度

 

 米国のヒューストン大学図書館において、職員向けの小額助成金を提供することにより,職員の自発的なアイデアの創出を促し,業務における改善や新しい企画の実現を後押しする取組が行われている。2006年度に開始されたこの制度は,“Strategic Direction Microgrant Program”(戦略的方針小額助成金制度)という。米国のLibrary Journal誌による,2014年度の「図書館界を動かした人,揺るがせた人」(Movers & Shakers)に選ばれたバチェク(Rachel Vacek)氏もこの制度により企画を生み出してきた人物である(E1546参照)。この制度について,起源や内容を紹介する文献がLibrary Innovation誌に掲載されたので,その内容を紹介する。

 ヒューストン大学図書館では,2006年に,図書館の戦略的方針“University of Houston Libraries Strategic Directions, 2006-2010”をまとめ,その中で4つの目標に照準を合わせることを掲げた。4つの目標は,(1)図書館のオンラインでのプレゼンスを高める,(2)教育と学習を統合するセンターとなる,(3)学術コミュニケーションへの支援を強化する,(4)図書館のブランドを再構築する,である。

 この方針が定められたのち,方針の実践を担う委員会の委員長であったヒルヤー(Lee Andrew Hilyer)氏が,小額助成金制度を提案した。組織のあらゆる図書館員(librarian and staff)が,4つの目標をサポートする革新的なプロジェクトを開発できるようにすることを企図したものである。プロジェクトの企画プロセスから最終評価まで統括するため,図書館管理部に任命された図書館員により,執行委員会が組織された。当初の助成金の年間総額は1万8,000ドルで,一つの企画に対して支給される金額の上限は2,000ドル(のち5,000ドルまで引き上げられた)であった。

 最初の4年間で,毎年5件から10件のプロジェクトに少額助成金が提供された。イベントは多くの場合素晴らしい結果を生み,定期的な開催を期待されるようになったものもある。例えば,図書館で試験前の深夜にパンケーキを提供する“Finals Mania”は,2008年に初めて開催されたイベントである。春学期と秋学期の最終週に学生協会等との共催で行われたこのイベントは,初回から約400名の学生が参加した。今では助成金の必要もなくなり,完全に独立したキャンパスの恒例行事となっている。2012年の春学期には1,600人の学生が参加する規模となった。

 2010年行われた “Conger Social Media Showcase”は,教員や図書館員,大学職員を対象として,ソーシャルメディアに関する意見やアイデアを共有する半日のイベントであった。他の地元大学や図書館からゲストを招き,約100人の参加者が教員のオンラインオフィス・アワーや,図書館のソーシャルメディアへの進出等について討論した。このイベントはヒューストン大学図書館に高い評価をもたらしたとして,プロジェクトを率いた図書館員たちは学内における賞を受賞した。

 プロジェクトの中には失敗したものもある。プロジェクトの結果に関わらず最終レポートの作成は必須となっており,なぜそのプロジェクトが成功したか,失敗したかが分析される。これにより,失敗も有用な経験として将来的なプロジェクトに活かされることになる。執行委員会は制度自体がより有効なものとなるよう改良も行ってきた。“中間報告”の導入もその一つである。プロジェクトが予定された計画通りに進むように,執行委員会はプロジェクトの半ばにプロジェクト担当者と執行委員会メンバーとのミーティングを行うことにした。また,執行委員会は図書館の会計年度に縛られた申請プロセスが,プロジェクトに最適なスケジュールでの申請を困難にし,希望者の参加を妨げているのではないかと考え,年間を通して申請できるようにした。

 少額助成金制度はヒューストン大学図書館に多くの良い効果をもたらした。ハイレベルで目標が高いビジョンをどうやって具体的なプロジェクトへと変化させるかについて,職員が組織内で創造的に考えるように促した。積極的な課題解決を歓迎し,奨励する環境を作り出し,また,職員が部署を超えて共同で働く機会ともなった。更に,新しい職員を採用する際に,ほぼ全ての候補者が面接で助成金制度について言及する等,職員の採用面にも寄与した。職員の創意工夫を引き出す大学図書館の運営の仕組みとして,注目しておきたい。

関西館図書館協力課・安原通代

Ref:
http://www.libraryinnovation.org/article/view/321
http://info.lib.uh.edu/sites/default/files/docs/SD_FinalReport2006.pdf
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.10152362129112591
E1546