E1421 – 「社会を創る図書館の力」:企画側の視点から<報告>

カレントアウェアネス-E

No.235 2013.04.11

 

 E1421

「社会を創る図書館の力」:企画側の視点から<報告>

 

 2013年3月21日,22日の2日間,国立国会図書館関西館で,「社会を創る図書館の力 - レファレンスサービスの今を知り,未来を語る」をテーマとした2つのイベントを開催した。ひとつは,2012年度に実施した調査研究「日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望」の最終報告会(3月21日)である。もうひとつは,レファレンス協同データベース事業(レファ協)の一環として毎年行っている第9回レファ協フォーラムである。前者については報告書がカレントアウェアネス・ポータルに,また,後者については当日の音声及び動画をUstreamに公開しているので,詳細な内容についてはこれらをご覧いただくとして,ここでは,2つのイベントを企画した側の視点で概要と伝えたかったことを紹介したい。

 元々,2011年度の調査研究のテーマとしてレファレンスサービスを取り上げる予定だったが,東日本大震災を受けて急きょテーマを「東日本大震災と図書館」に変更し,図書館の被災状況や復旧・復興への図書館界の取組みについて情報収集と記録に努めた。2012年度の調査研究は,これを踏まえて,震災後の社会の大きな変化の中で,図書館が社会にどのように貢献できるのか,その課題と展望を見出したいという思いと,レファレンスサービスの実態を憶測ではなくデータとして示したいという必要性に裏打ちされた企画となった。この調査研究を担ったのは,株式会社シィー・ディー・アイと,小田光宏氏,辻慶太氏,間部豊氏,渡邊由紀子氏の4名の研究者からなる調査研究チームである。日本の図書館のレファレンスサービスの姿を質問紙調査法により明らかにする実態調査と,東日本大震災時のボランティア従事者や,地域再生や環境保全の活動を行う一次産業従事者,あるいは社会的なサポート体制が十分ではないと推察された若手研究者(CA1790参照)等,図書館の外の視点から図書館に対する認識とニーズを探る認識調査を行った。これらのエビデンスをもとにして,レファレンスサービスの実態と課題,さらに図書館が取り組むことが可能と考えられるサービスを探った。最終報告会では,調査結果と共にこれらのサービスに関する考察が調査研究チームから具体的に報告された。

 翌日の第9回レファ協フォーラムは,調査研究で示された課題について,レファレンスサービスに深く関わる人たちに考えていただく「場」として設定した。基調講演として,元・三重県知事でもある北川正恭氏に「社会を創る図書館の力」と題するお話をいただいた。議会図書室の改革に関する経験に基づき強調された「図書館員が立ち位置を変え,地域社会を創るという観点から行動を起こすことが必要」との指摘は,企画側の思いと重なるものであった。続く事例報告では,「人と人をつなぐ機能の発展」,「図書館員の能動性・積極性の強化」,「リスク時を想定した取組み」という3点を具体的な課題として取り上げた。これに関して着目すべき先進的な取組みとして,府川智行氏に東近江市立図書館の事例を,久保庭萌氏に尼崎市立地域研究史料館の事例をご報告いただいた。また,荒川宏明氏からは,豊富な画像を交えて北海道ブックシェアリングの実際のボランティア活動をご紹介いただくことで,「震災後の地域社会の復興に向けて図書館にできることは何か」という問いが会場に投げかけられた。

 これらの報告をうけ,山崎博樹氏のコーディネートのもとで会場との議論が交わされた。そのまとめとして,常世田良氏は,首長などにとって最大の課題でもある地域の活性化に図書館が役に立つということを積極的に示していく必要があり,「図書館員はどうするのか?」という北川氏の問いに応えていかなければならないと指摘した。また小田光宏氏は,荒井氏のようなボランティア活動を支えていくのもレファレンスサービスの役割であることを指摘するとともに,図書館がより能動的なサービスを展開していくことが必要だと述べた。

 レファレンスサービスという図書館サービスの核に取り組んだ今回の調査研究と,レファレンスサービスに対する意識の高い人々が注視するレファ協フォーラム。この2つのイベントには,図書館界の議論の素材や図書館員の更なる実践へのヒントが詰まっている。震災を経験し,非常時・平常時に図書館が取り組むべきことについてあらためて考えるべき今,着目すべき萌芽的な取組みはあるが,依然として図書館が進むべき方向を模索している状態ではないだろうか。この2つのイベントの成果は,「図書館は社会に対してどのように貢献できるのか?」と自問し一歩前に踏み出すための羅針盤にもなるのではないかと考えている。報告書やイベントの記録に目を通していただき,共に「図書館のこれから」をお考えいただければ幸いである。

(関西館図書課協力課・兼松芳之)
(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://current.ndl.go.jp/node/23227
http://www.ustream.tv/recorded/30191699
CA1790