カレントアウェアネス-E
No.214 2012.04.26
E1286
知識インフラとしてのデジタルアーカイブの推進に向けた提言
2011年2月から9回にわたって開催されてきた総務省の「知のデジタルアーカイブに関する研究会」が,2012年3月に「知のデジタルアーカイブ」の実現に向けた提言を発表した。
ここでいう「知のデジタルアーカイブ」とは,2011年8月に閣議決定された国の第4期科学技術基本計画等で述べられている「知識インフラ」(E1149参照)である,とされている。日本が国際的な競争力を高めていくためには,国内のあらゆる知的資産に対して国民が容易にアクセスできる知識インフラをインターネット上に構築することが必要である。その中で,図書館,博物館・美術館,文書館等の「知の記録機関」(Memory Institution)によるデジタルアーカイブは知識インフラの中核をなす可能性を持っているが,多くの中小規模館においてはコストや人的資源の不足からその構築が進んでいないという。このような背景の下,デジタルアーカイブの推進のための課題を整理し,デジタルアーカイブ間の相互連携の促進を図ることが同提言の目的である。
提言では,まず第1章及び第2章でデジタルアーカイブの定義や位置付けなどについて整理されている。第3章では,デジタルアーカイブに必要な機能を「管理運営」「利用者サービス提供」「リソース組織化」「データ管理」「システム基盤」の5階層(後に行くほど共通化しやすい)に分けたモデルが提示され,デジタルアーカイブの連携推進にはそれぞれの独自性と共通性のバランスを取ることが必要とされている。第4章では「システム」「人材育成」「災害」という重要なテーマに関する議論がまとめられており,災害に関しては,文化財そのものの情報に加え,地理情報や復元支援機関などの情報を持つことの有用性についても述べられている。
これらを踏まえて,第5章では,大きく次の4つに分けて具体的な提言が述べられている。
(1)大福帳(紙の台帳)からデジタルへ。知的資産の公開
(2)人的基盤の構築
- デジタルアーカイブ支援ネットワークの設立
- 理解あるリーダーの獲得
- デジタルアーカイブ・スペシャリストの育成
(3)システム基盤の構築
- デジタルアーカイブ・クラウドの推進
- 文化遺産オンラインの推進
- 東日本大震災アーカイブの構築
- デジタルコンテンツの長期保存技術(ミレニアムユース技術)の開発
(4)コンテンツ流通基盤の構築
- 知的資産IDの導入
- 語彙とスキーマの共有の推進(MetaBridgeによる連携の推進)
最後の「終わりに」では,高速ネットワーク基盤やパソコンの導入については世界的に高水準である日本においてデジタルアーカイブの整備がうまく進まないのは,人材の供給と活用がうまく回っていないこと,また,そうした人材が持つ知識や技術,ノウハウの共有と利活用のための基盤が整えられていないことが大きな理由と考えられる,とされている。
同提言とあわせて公表された「デジタルアーカイブ構築・連携のためのガイドライン」は,中小規模館の担当者によるデジタルアーカイブの構築・連携の手助けとなるような入門書として作成されたもので,提言の(1)でも活用が推奨されているものである。対象読者として,その他,地域内の連携支援において重要な役割を担う都道府県立図書館の担当者や,システム構築等を請け負う企業も意識されている。
(関西館図書館協力課・林豊)
Ref:
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/shuppan/index.html
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000041.html
http://www.soumu.go.jp/main_content/000156248.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000153595.pdf
E1149