カレントアウェアネス-E
No.173 2010.06.24
E1060
知識の生成と思索に貢献する“Europeana”を目指して
欧州デジタル図書館“Europeana”が,2005年の設立以来初めてとなる白書を刊行した。「知識=文脈の中の情報」(Knowledge = Information in Context)と題するこの白書は,Europeanaに携わるドイツ・フンボルト大学のグラートマン(Stefan Gradmann)教授によって著されており,Europeanaの役割が,文化遺産のデータを蓄積するにとどまらず,従来の電子図書館の枠組みを超えて,知識を生成することにあると述べられている。
白書では,蓄積されるデータと生成される知識の関係を,「データ(Data)」「情報(Information)」「知識(Knowledge)」「思索(Thinking)」という4つのレベル(DIKT)から成る一つの連続体を使って考えている。連続体の基をなす,与えられたままの「データ」は,パターンの識別によって「情報」レベルとなる。さらにそれが文脈の一部を構成すると「知識」レベルとなり,芸術作品や非決定論的な定理などを生成する「思索」レベルとなる,というものである。「データ」が機械に記号列として認識されるレベルの「情報」になっていれば,機械の推論によっても「知識」に至る可能性が生まれるとされている。この推論には,“Linked Open Data”といった形で文脈化(関連性の明示化)されたリソース群の中に,すなわち「情報」を「知識」にするセマンティックなネットワークに,推論する機械を置くことが前提条件となっている。
抽象的な表現ではあるものの,Europeanaは,文化遺産のメタデータを集めた一大コレクションであると解される。メタデータという「情報」から「知識」を生成するには,セマンティックな文脈化を行う必要がある。そのための方法として,SKOS化,マッチング,マッピングとマージ,メタデータの自動的な文脈化,リンクされたデータの統合化という段階的作業をデータ収集の過程で行うことで,メタデータ同士のリンクと共に,セマンティックなネットワーク上の中継点とのリンク,という2方向のリンクを構築することが想定されている。この仕組みは,現在プロトタイプとして進行中で,セマンティックな検索を可能にする“Thought Lab”の中で使われるとのことである。例えば“Paris”という検索語に対して,“Louvre”などのさらに特定された場所に関する検索結果を,それがパリにあることをシステムが知っているように,一覧に表示させることができるという。
白書では,Europeanaには,機械的に「結びつけること」に加えて,創造的に「考えること」を可能にするポテンシャルがあると述べられている。Europeanaのロゴに含まれる言葉が,“connecting cultural heritage”から“think culture”へと変更されたのも,そのミッションが単なる機械的な収集にではなく,「知識」の生成と「思索」への貢献にあるとの考えに基
づいている。
Ref:
http://version1.europeana.eu/c/document_library/get_file?uuid=cb417911-1ee0-473b-8840-bd7c6e9c93ae&groupId=10602
http://www.europeana.eu/portal/thought-lab.html
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