英国国立公文書館(TNA)が、2021年3月7日付のブログで、没食子インクで書かれた文書の保存方法を紹介しています。
没食子インクは、欧州で5世紀から19世紀にかけて筆記・描画用として最も使われた黒色(時には茶色)のインクで、20世紀においても使われていましたが、その成分は不安定な性質があり、時が経つにつれて文書を劣化させる原因となります。
TNAが保管する文書には、ドゥームズデイ・ブック(土地台帳)やシェイクスピアの遺書等といった没食子インクで書かれたものが多く含まれていることから、それらを保存し、劣化を遅らせるために、同館では、温度13度から20度、相対湿度35パーセントから60パーセントの範囲で安定的に管理された環境下で保管しています。
また、劣化が進行している文書については、資料保存部門の職員に利用を制限する場合があるほか、褪色したものについては、マルチスペクトル画像処理を用いて、人の目では見えなくなった情報を抽出しています。
また、館外の展示会への貸出依頼があった場合や、文字の消失を防ぐため、文書の保存処理が必要な時には、腐食を抑制する効果があることから修復用のアルコールやゼラチンの溶剤系接着剤を用いた処理が行われます。また、弱った部分や失われた箇所を補強するために和紙の薄葉紙も用いられています。
Galling ink! How The National Archives preserves millions of documents written in iron gall ink(TNA,2021/3/7)
https://blog.nationalarchives.gov.uk/galling-ink-how-the-national-archives-preserves-millions-of-documents-written-in-iron-gall-ink/
参考:
シェイクスピアの遺書、サイン(記事紹介)
Posted 2012年4月24日
https://current.ndl.go.jp/node/20706
スコットランド国立図書館、17世紀後半の古地図の修復作業の様子を撮影した動画を公開
Posted 2016年12月1日
https://current.ndl.go.jp/node/33028