カレントアウェアネス
No.153 1992.05.20
CA807
レファレンス・サービスにおけるコンピュータ利用
−テキサスA&M大学での事例−
多くのレファレンス部門では,回答に際して,回答用のカード・ファイルを作成したり,難しい質問に対してはベテラン職員の蓄積された知識に頼っている。しかしながら,カード・ファイルの索引では索引語の数に限度があり,また,ベテラン職員の知識も退職や配置換えで利用できなくなってしまうといった問題が存在する。これらを解決する一つの方法として,コンピュータの利用がある。
テキサスA&M大学スターリング・C・エヴァンス図書館のレファレンス部門では,レファレンス・コレクションの増大や職員の交替,増加する学生の様々な質問に対し,従来の職員の経験に頼った方法では十分な対応ができなくなったことから,レファレンス・エキスパートと命名されたレファレンス回答用のデータベースを作成して,成果を上げている。以下その概要を紹介する。
レファレンス・エキスパートで使用されているハードウェアは2MBのRAMメモリーと40MBのハードディスクを備えたPackard-Bell286コンピュータ(IBM PC互換機)及び外部記憶装置の追記型光ディスク装置(パイオニア製DD-S5001,654MBの5インチ光ディスクを使用)から構成されている。データベースの作成には,カリフォルニア大学ロサンゼルス校で同様のシステムの作成に利用されている,Inmagic社製のソフトウェアINMAGICを利用している。INMAGICの特徴としては,フィールド長やレコード長が可変長であり,かつ,1レコード中のフィールドの繰り返しの数に制限がないこと,複数のフィールドに対してブール演算が可能であること,WordStarなどのワープロ・ソフトで作成されたファイルのアップロードが可能であることなどである。
エヴァンス図書館では当初データベースに入力すべき既存の質問回答ファイルがなかったため,数か月かけて,レファレンス回答を行った職員が質問と回答を簡潔にまとめた入力票を作成した。入力票には質問と回答のほかに回答の際利用した資料及び請求記号などが記載され,回答はデータベースに入力前に点検された。さらに,質問回答以外にもレファレンス部門の方針や手続きなども入力された。
レファレンス・エキスパート・データベースのレコードは,職員がより容易かつ迅速に検索できるようにできるだけ単純な構造にされた。各レコードはアクセッション番号とテキスト・フィールド及び件名の3種類のフィールドから構成されている。アクセッション番号はデータベースの維持管理にのみ使用され,通常は表示されない。テキスト・フィールドには,レファレンス回答レコードの場合,少なくとも2つのフィールド,質問と回答,が存在する。件名フィールドはインデックス・フィールドで,テキスト・フィールドで不可能な語句の検索が可能となっている。
こうして作成されたレファレンス・エキスパートに対して,1990年の春から職員に対する使用訓練が開始され,春学期の終了までにシステムの運用が開始された。運用開始の数か月後に職員の反応を調査したところ,全般的にこのプロジェクトの意義は認められているが,ソフトウェアやデータベースの内容がよく分からないことや他のソフトウェアと混乱する点などが不満とされた(これらの問題点はマニュアル類の整備や再度の訓練などによって,かなりの部分解消された)。また,他の既存のオンライン・データベースやCD-ROMなどとの競合も生じている。エヴァンス図書館では,十分な資金的な裏付けが得られれば,将来的にはこのシステムがOPACを通じて利用可能になるとされている。
レファレンス業務における経験・知識の共有の問題は,レファレンスに携わっている者にとって常になんとかしたいと思っている課題の1つではないかと思う。ここで紹介した事例はいわゆるレファレンス用のクイック・ファイルをデータベース化したものであって,エキスパート・システムではない。しかし,システムの利用者がレファレンサーであり,一般の図書館利用者でないこともあり,電子化することによって,索引機能の高度化やファイルの蓄積量の増大が単なる置き換え以上の効果を上げているようである。
山口和之(やまぐちかずゆき)
Ref: Butkovich, Nancy J. et al. The Reference Expert: a computerized database utilizing INMAGIC and a WORM drive. Database 14 (6) 35-38, 1991