CA805 – 有料化と図書館相互協力 / 伊藤克尚

カレントアウェアネス
No.153 1992.05.20


CA805

有料化と図書館相互協力

Library Journal誌において,コフマン氏(Steve Coffman,ロサンゼルス・カウンティ公共図書館専門調査及び情報提供サービス部長:CA660参照)とジョセフィン氏(Helen Josephine,アリゾナ州立大学有料調査及び文献提供サービス部)の二人は,図書館サービスの有料化が,いかにその内容及び質の向上に有益であるかを主張している。以下,図書館相互協力に話を絞ってその概要を紹介する。

1. まず,有料制サービスを行っている図書館が,費用徴収ということを図書館業務の中でどう位置付けているかに関し,著者は,「それは,利益をあげることを目的とするものではなく,従来の基本的な図書館業務の内容,質を低下させることなく,一般公衆に提供しうる製品やサービスの幅を拡大するための一つの方法」と考える図書館が多い,と言う。

有料制サービスの導入が図書館業務に与える影響の一つは,図書館利用者に対して提供しうるサービスの幅の拡大ということであるが,さらに,もう一つ,図書館相互協力の在り方を変革するということであると言う。

(1)それは,まず文献提供サービスの場面で現われる。これまでの相互貸借規程に拘束されないので,利用者が我々の蔵書に無いものを請求してきた場合は,FISCAL Directoryを参照して,最も安く当該資料を提供してくれるところや,書誌事項の確認をしなくとも受付けてくれるところや,急ぎのサービスを受付けているところなど,最も目的にかなった図書館へ発注すればよい。

FISCAL Directoryというのは,FISCAL(the Fee-based Information Services Centers in Academic Libraries)が編集している機関名鑑で,北米全域の図書館の200以上の有料情報サービスの内容,価格等詳細な情報を掲載しているものである。

(2)次に,有料化の図書館相互協力への影響は,オンライン検索や他の調査業務の場面でも現われる。利用者が我々の提供しないデータベースで検索する必要がある場合は,ここでも,FISCAL Directoryを参照して,適当な図書館に検索を委託すればよい。

各々の図書館は,それぞれに独自の専門的な情報資源やスタッフを有しているのであるから,有料化によって,図書館ネットワークが円滑に稼動すれば,相互にそれを活用することができ,利用者に提供しうるサービスの幅も拡大することになるわけである。

2. 有料化をめぐる議論では,図書館利用者に費用負担させることの是非がしばしば焦点となるが,著者はこの点につき,こう論じる。

料金は必ずしも,最終的な利用者がこれを負担する必要はない。有料サービスのネットワークにおいて,貨幣は,我々の他の経済社会におけると同様,商品とサービスの公正な交換を保証するものとして必要なのであるから,図書館の側で,費用の全てを利用者に負担させるか,その全部又は一部を図書館自らが負担するかの選択をする事は可能なのである。現に,利用者が全く費用負担しない例も多くある。結局,料金をとるべきか否かという事と,それを誰が負担すべきかという事は別問題であり,ここでの金が,図書館間の業務協力関係を発展,拡大させるために使われているものである以上,必ずしもそれを利用者負担にする必要は無いではないか,と。

3. 最後に著者は,有料制情報サービスはまだ初期の段階ではあるが,この考え方は近い将来の図書館業務のあり方を急激に変えていくであろうと,再度強調する。文献提供の場面においては,現在の,遅く,非効率的な状態が,迅速且つ効率的で利用者主導型のものに変わるであろうと言い,レファレンスサービスの場面においては,全国の豊富な情報資源をフルに活用しうることになると言う。そして,「このビジネスを始めようという人々に対して我々は協力を惜しまない。」と結んでいる。

伊藤克尚(いとうよしたか)

Ref: Coffman, Steve & Josephine, Helen. Doing it for money. Library Journal 116 (17) 32-36, 1991