CA1794 – 地方議会図書室に明日はあるか―都道府県議会図書室を例に― / 塚田洋

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カレントアウェアネス
No.316 2013年6月20日

 

CA1794

 

 

地方議会図書室に明日はあるか
―都道府県議会図書室を例に―

 

関西館アジア情報課長:塚田 洋(つかだ ひろし)

1. はじめに

 本誌の読者は、地元の議会図書室を訪れたことがあるだろうか。先頃、国立国会図書館(NDL)主催イベントで行われた北川正恭氏(早稲田大学大学院教授、元三重県知事)の講演(1)を聴いて、初めて議会図書室に関心を持った方もいるかもしれない。講演の中で北川氏は、知事時代に行った県議会図書室の改革(2)を例に、図書館関係者のミッションをとらえ直す必要性について指摘した。住民自治への貢献を、広く図書館関係者全体のミッションと位置付ければ、全国の議会図書室の活性化は劇的に進み、そして、このような取組こそが「社会を創る図書館の力」であると述べた。改革できない理由を探す「他責文化」から脱し、図書館の明日につながる一歩を踏み出してほしいとの激励も印象的であった。

 近年、地方議会改革に関連して注目されつつある議会図書室だが(3)、一部に「物置」同然というイメージがあるだけで、図書館関係者にすら実情はあまり知られていない。筆者は、国会議員を主なサービス対象とするNDLの議事堂内図書館(国会分館)で、図書館の活性化に取り組んだ経験を持つ(4)。また、これをきっかけに議会図書室職員向けの各種研修に携わり、各地の議会図書室を訪問する機会を得た。本稿では、都道府県議会を例に、議会図書室をめぐる状況を概観し、あわせて活性化の可能性について述べる。

 

2. 議会図書室の理想と現実

2.1 議会図書室の役割

 議会図書室は、議員の調査研究に資するため、地方議会に設置が義務付けられた図書室である(地方自治法100条19項)。官報、政府刊行物を保管する(同条同項)ほか、法律、行・財政、地方自治等に関する文献を所蔵するのが通例である。主に議員の利用を想定するが、一般の利用を認めることもできる(同条20項)。NDLも、刊行物の送付や議会図書室職員研修を行って、議会図書室の活動を支援している(5)

 地方議会に議会図書室の設置が義務付けられるのはなぜか。それは立法機関である議会が、条例の制定や行政監視を行うには、執行部から独立した情報源が必要だからである(6)。例えば、執行部提出の条例案を審議する場合を考えてみてほしい。審議に必要な資料の多くは執行部からもたらされるが、これだけで条例案の問題点をチェックしたり、代案を提示することは可能だろうか。執行部資料からは、不都合な情報は巧みに抜き取られているかもしれない。議会が独自の情報源から、執行部とは異なる見方、客観的な事実・データ、他の自治体の先進事例等を予め入手していなければ、審議は形骸化し、議会は執行部の追認機関になってしまうのである。

 片山善博氏(慶應義塾大学教授、前鳥取県知事)は、地方分権の時代に自治体の質を高めるには、議会の審議の質を高めることが重要であると指摘する(7)。議会図書室を通じて得た豊富な情報を活用してはじめて、議会は執行部への「対抗軸」を形成することができるという。図書館関係者には、鳥取県知事時代に県庁内図書室を新設したことでも知られる片山氏だが、県議会をはじめ公開の場での政策論議を重視する姿勢は、議会図書室の整備にもつながった(8)

 近年、全国で制定の動きが広がる議会基本条例も、議会審議の活性化を目指したものである(9)。議会関係者からは、「自治体予算の1%に満たない議会が、99%の執行部をチェックし代案提示まで求められる時代になった」(10)と自嘲気味な発言も聞かれるが、情報量や調査能力の点で執行部との差が大きいのであれば、なおさら、議会図書室の活用は焦眉の課題であろう。現在、2006年の三重県議会を筆頭に16道府県で議会基本条例が制定され(11)、その多くで議会図書室の整備充実が謳われている。

 

2.2 議会図書室の現状

 それでは、議会図書室の整備状況はどうなっているだろうか。鯨岡、野口が2011年に実施したアンケート調査(12)によれば、回答のあった38の都道府県議会図書室の職員数は、兼任を含め平均3.5人、うち司書有資格者は0.9人であった。筆者が各地を訪問した経験からは、おそらく図書室常駐の職員はこのうち1~2名程度と考えられる。議会図書室は議会事務局の調査担当課(課の名称は企画法務課、政策調査課、議事調査課等、様々である)に併設されるのが通例であり、職員は両者を兼務している場合が多い。兼任職員は、議案の調査・立案だけでなく、議事、情報システム、広報等を主な担当業務とする場合もあり、総じて図書室業務への関与は限定的である。

 上記のアンケート調査によれば、蔵書冊数は平均28,000冊、資料購入費は142万円である。筆者が同年に、後述するセミナーの参加者に聴取したところでは、この他におよそ半数の議会図書室が、新聞記事、官報、行政情報に関するデータベースを1~2種類契約している。また、各図書室とも大量の製本済み会議録の収蔵場所に頭を悩ませていることから、日々のレファレンス業務に利用可能な蔵書は見かけの冊数ほど多くない。

 アンケート調査では、貸出システムの導入事例は15、議会図書室のWebページの開設例は14であり、Webから蔵書検索が可能な図書室はわずか4例という結果であった。また、1日当たり利用者数は平均14.6人であるという。議員本人(都道府県議会議員の数は平均58人である)の利用率が不明なため、この数値だけで利用の多寡は判断できないが(13)、各種の議会図書室研修で必ず議員の利用促進が話題となることから、さほど活発な利用状況でないことが伺われる。司書の不足、システムやデータベースの導入立ち遅れ等も考慮すれば、議員の資料要求に応えきれていない図書室が多数あるものと思われる。

 制度上、議会を支えるインフラとして期待される議会図書室であるが、人員、予算面で必ずしも十分な措置がなされていないのが実情である。議会基本条例に図書室整備を掲げる例は増えたが、三重県や鳥取県に続く活性化事例は少ない。

 

3. 「役立つ議会図書室」に向けた取組

 ここまで理想と現実に隔たりが生じているのはなぜか。様々な原因が考えられるが、やはり利用者である議員に、議会図書室が役立つという実感がないことが大きいだろう。筆者は「地方議会図書室等職員セミナー」(専門図書館協議会主催)で3回にわたって事例研究を企画し、コーディネーターを務めた。この時目指したのは、優良事例を分析し「役立つ議会図書室」のエッセンスを参加者と共有することであった。(1)レファレンスサービス、(2)外部情報源の活用、(3)広報・利用促進という議会図書室の主要課題を取り上げ、各図書室の事例を比較した(14)。レファレンスサービスについては、事前にある程度予想した通り、一定の蔵書量を持ち専任司書を置く図書室の事例に、他館の参考となるものが多かった。しかし、筆者は、(1)~(3)それぞれの優良事例に共通していたある特徴が重要であると考えている。それは、司書が、議員に役立つと判断すれば、本来の守備範囲にとどまらず、議会事務局の一員として積極的に行動するという点である。セミナーで報告された事例を紹介する。

 

3.1 「土地勘」を磨く努力

 議会図書室の司書は、配属当初、レファレンスサービスへの要求水準に当惑する。多忙な議員からの依頼には即時対応が原則である上、時には収集した資料・情報を、議員指定の書式に加工したり、簡潔な説明メモの作成も求められるからである。議会図書室の司書は、議会の審議案件や議会運営等、実務に関する基礎知識を身につけていなければ、即時対応どころか議員の意図をつかむことすらおぼつかない。他の議会事務局職員から学ぼうとする司書は、人手不足の事務局の中で図書室以外の業務にも少しずつ携わり、徐々に「土地勘」を磨いてゆく。セミナーでは、こうして土地勘を磨いた司書が、議員の問題意識を的確につかみ、所蔵資料やWeb上の情報源を駆使して、求められる資料を手際よく揃えた事例が報告された(筆者もシュミレーションしてみたが、仮に豊富な人員と蔵書を持つNDLに依頼があったとしても、同じ資料を揃えることになるのではと思われる程、内容の充実した回答であった)。

 

3.2 県立図書館等との積極的連携

 所蔵資料の少ない議会図書室にとって、県立図書館等との連携は命綱といってもよい。三重県や鳥取県の成功事例も県立図書館とのネットワークに支えられたものであるし、都立図書館や市政専門図書館の所蔵資料を一括検索できる「東京資料サーチ」(15)のような取組も都議会図書館にとっては心強いものであろう。議会図書室は、このようなネットワークの中で一方的に恩恵を受ける立場になりがちだが、セミナーでは、むしろ県立図書館等との連携を積極的に提案する事例が紹介された(16)。県立図書館や県内の専門図書館との「調べ方案内」の共同作成事業に主体的に取り組むほか、議会図書室司書が県内図書館職員向け研修の講師を務める、議会図書室で複数部入手した行政資料を県立図書館に提供する等、日頃から議会図書室の得意分野を活かした貢献が行われているという。こうして議会図書室自らがネットワークの強化に努めることで、至急の資料要求に対する他館の協力が得やすくなったとのことである。

 

3.3 議員本人へのアピール

 「役立つ議会図書室」を直接、議員にアピールする例もある。「議会図書室だより」にWeb上の有益な情報源や参考図書の解題、議会史の知識等、読ませる工夫を盛り込み、これを片手に司書が議員回りをするのである(17)。議員との会話の中から関心事項をつかみ、適当な新着図書等があれば直ちに紹介する。また、多くの議員の関心が集まるテーマについては、執行部をはじめ方々駆け回って集めた関係資料を展示コーナーに揃える。こうした取組の結果、議会図書室に頻繁に顔を出す議員も増えたという。

 セミナーで報告された優良事例の中には、司書の「個人技」に止まり、議会事務局としての継続的な取組となっていないものも含まれる。しかし、こうした優良事例を評価する声を、筆者は複数の県議会議員から聞いている。NDLの議事堂内図書館も同様だが、利用者本位の活動は、議員の図書室に対する見方を変え、やがて議会図書室の活用につながるだろう。

 

4. 地方議会図書室に明日はあるか

 ここまで、筆者の経験もまじえつつ、議会図書室の現状と取組を紹介した。都道府県レベルでもごく小規模な図書室が多いことから、市町村では本当に「物置」代わりとなっている図書室もあるかもしれない。しかし、厳しい財政事情から直ちに図書室整備に踏み出せない自治体も、充実した議会審議の成果は全住民に還元されることを忘れてはならない。上に紹介した司書の取組は、現場の様々な制約を言い訳にせず、議会図書室のミッションを具体化しようとするものである。「他責文化」を脱する現場の挑戦が、議員の意識改革を促し、自治体の財政当局を動かす原動力となることを期待したい。

 北川氏は、冒頭紹介したように、議会図書室を例に、住民自治を図書館界全体のミッションと捉えることを提案した。筆者も、少なくとも公共図書館関係者は、議会図書室活性化を自館の課題の一つと捉えられるのではないかと考えている。住民自治に資する議会図書室は、公共図書館の支援対象として、もっと優先されてよいはずである。県立図書館の中には行政担当司書を置く、あるいは政策立案支援サービスを実施しているところもある(18)。県立図書館関係者には、自館の行政向けサービスが、議会と執行部の情報格差解消にどの程度貢献してきたか(あるいは逆効果となっていないか)を振り返った上で、議会図書室への有効な支援策を打ち出してほしい。

 議会図書室がおかれた現実は厳しい。しかし、議会図書室の役割を理解して行動する司書がいる限り、住民自治の視点で議会サービスを捉え直す公共図書館がある限り、議会図書室活性化の可能性は常にある。その意味で、「地方議会図書室に明日はある」と考える。

 

(1) 第9回レファレンス協同データベース事業フォーラム(2013.3.22開催)で行われた北川氏の基調講演「社会を創る図書館の力」を指す。講演の概要はレファレンス協同データベース事業のウェブサイトに公開される予定である。
“フォーラム・研修会”. レファレンス協同データベース.
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/fest.html, (参照 2013-05-20).

(2) 三重県議会図書室の整備状況は、以下の資料に紹介されている。
三重県議会事務局企画法務課. 三重県議会図書室の取組. 専門図書館. 2007, (227), p. 50-52.

(3) 『日経グローカル』、『議会改革白書』(廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編)等で議会改革度調査が行われている。これまでも議会事務局の調査機能強化に関する調査項目はあったが、早稲田マニフェスト研究所による2012年の議会改革度調査の設問一覧に、初めて議会図書室の整備に関する項目が設けられた。
“議会改革度調査2012”. 早稲田マニフェスト研究所.
http://www.maniken.jp/gikai/setsumon2012.pdf, (参照 2013-05-20).

(4) 議事堂内図書室の取組については、次を参照。
塚田洋. 議員サービスの最前線-汗を流し、足でかせぐ議事堂内図書館. 専門図書館. 2010, (243), p. 88-92.
地方議会と国会の議員サービスの共通点については、次で言及している。
塚田洋. 議会図書室整備のすすめ. 全国市議会旬報. 2011, (1804), p. 2-3.
http://www.si-gichokai.jp/official/blog/publish/docs/sigi-1804.pdf, (参照 2013-05-20).

(5) 塚田洋. 国立国会図書館による地方議会図書室への支援. びぶろす. 2012, (56).
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2012/5/06.html, (参照 2013-05-20).

(6) 議会図書室の設置根拠となっている地方自治法100条は、国会の国政調査権に類するいわゆる100条調査権に関する規定である。議会が立法や行政監視を十全に行うためには、正当な資料と事実認識を前提とした調査が必要であり、こうした調査を支援するために図書室を置くという趣旨である。本条の沿革と解釈については、次の文献に詳しい。
地方自治総合研究所監修. 地方自治法 逐条研究2. 敬文堂, 2005, p. 323-340.

(7) 片山善博. 図書館のミッションを考える. 情報の科学と技術. 2007, 57(4), p. 168-173.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006242732, (参照2013-05-20)

(8) 片山氏は有力議員への根回しを廃して、議会での政策論議を重視した。詳しくは、次を参照。
田中成之. “改革”の技術-鳥取県知事・片山善博の挑戦.岩波書店, 2004, 269p.
また、鳥取県議会図書室の最近の状況は、次の文献で紹介されている。
高三潴美穂. 鳥取県議会図書室と鳥取県庁内図書室(専門図書館紹介). びぶろす. 2013, (59).
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2013/2/08.html, (参照2013-05-20).

(9) 議会基本条例の意義、議会基本条例制定による議会の活性化事例等を紹介したものとして、次の文献等がある。
加藤幸雄. 議会基本条例の考え方: 分権と自治の扉を開く. 自治体研究社, 2009, 222p
日経グローカル編. 地方議会改革マニフェスト.日本経済新聞社, 2009, 279p.

(10) 例えば、地方財政白書(平成25年版) によると、都道府県の歳出に占める議会費の割合は0.2%にすぎない。
総務省編. “第34表 目的別歳出決算額の状況”.平成25年版(平成23年度決算)地方財政白書. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/chihou/25data/2013data/25czs01-04.html, (参照 2013-05-20).

(11) 自治体議会改革フォーラム編『議会改革白書』の「全国自治体議会の運営に関する実態調査2012」による。2013年度末までにはさらに7県が制定の見通しである。
廣瀬克哉, 自治体議会改革フォーラム編. 議会改革白書. 生活社, 2012, p. 127.

(12) 鯨岡真一ほか. 都道府県議会図書館(室)の現状と課題. 図書館綜合研究. 2012, (12), p. 1-12.
全都道府県を調査したものとしては、次の文献があるが、以後、同様の調査は行われていない。
全国都道府県議長会事務局編. 都道府県議会図書室(館)の業務等の実態について(平成16年10月1日現在). 全国都道府県議会議長会事務局. 2005, 148p.

(13) 同規模の公共図書館と比較し、議会図書室の利用者数を問題視する論調も見られるが、主たる利用対象の人数が大きく異なるため、必ずしも的を射たものとはいえない。
眠る都議会図書館. 朝日新聞. 2010.12.18, 夕刊, p.15.

(14) 各館提出の調査票、他館からの改善提案、改善に必要なマニュアル等、セミナーの成果を筆者が議会図書室向け執務参考資料として取りまとめた。専門図書館協議会のWebサイトで会員機関(議会図書室のみ)に公開している。
“地方議会図書室等職員セミナー”. 専門図書館協議会.
http://www.jsla.or.jp/1/13/13-4.html, (参照 2013-05-20).

(15) 東京資料サーチ. 東京都立図書館.
http://www.library.metro.tokyo.jp/edo_tokyo/tokyo_search/tabid/3443/Default.aspx, (参照 2013-05-20).
東京都や都内区市町村の行政資料、東京に関する地域資料を提供する図書館・資料室の蔵書375万冊を、一括検索できるシステムである。

(16) 一例として、次の文献がある。
綛井淳子. 議会図書室と県内図書館との連携. びぶろす. 2012, (56).

http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2012/5/09.html, (参照 2013-05-20).

(17) 一例として、次の文献がある。
米井勝一郎. 広報ツールの充実による議会図書室の利用促進. びぶろす. 2012, (56)
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2012/5/07.html, (参照 2013-05-20).

(18) 東京都立図書館、大阪府立図書館等の例が知られる。詳しくは、以下の文献を参照。
島根礼子. 「東京都立中央図書館の現状と政策立案支援サービスへの取組について」に参加して. びぶろす. 2010, (49).
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2010/08/04.html, (参照 2013-05-20).
徳森耕太郎. 大阪府立図書館における政策立案支援サービスの現状と事例について. 大阪府立図書館紀要. 2011, (40), p. 49-59.
http://www.library.pref.osaka.jp/lib/kiyo_pdf/kiyo40-06.pdf, (参照 2013-05-20).

 

[受理:2013-05-20]

 


塚田洋. 地方議会図書室に明日はあるか―都道府県議会図書室を例に―. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1794, p. 6-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1794

Hiroshi Tsukada.
Dose Tomorrow Come to Local Parliamentary Libraries? : Taking Prefecture’s Parliamentary Libraries for Example.