CA1781 – 米沢嘉博記念図書館の現在 / 山田俊幸

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カレントアウェアネス
No.314 2012年12月20日

 

CA1781

 

 

米沢嘉博記念図書館の現在

 

米沢嘉博記念図書館:山田俊幸(やまだ としゆき)

 

1. 米沢嘉博記念図書館の概要

 2009年10月31日に開館し、今年で3周年を迎えた米沢嘉博記念図書館(1)は、明治大学の運営するマンガとサブカルチャーの専門図書館である。明治大学駿河台キャンパス内のビルを使用し、国内有数のマンガコレクションを所蔵している。

 この米沢嘉博記念図書館は、マンガ評論家の米澤嘉博氏(2)が後述の「東京国際マンガ図書館(仮称)」の計画の前身に協力していたことから、氏の没後、計画の主体となった明治大学がご遺族より蔵書の寄贈を受け、その先行施設として設立したものである。

 当館の1階展示室では米澤氏の蔵書と業績を紹介する常設展示と企画展示(3)を行っている。

 2階閲覧室では約4,500冊のマンガや参考図書を自由に読める。館の3・4・5階の閉架書庫にある6万冊以上の資料もすべてウェブ上の蔵書検索システム(OPAC)から検索でき、スタッフの出納により読むことができる。資料の館外への貸出は行っていない。

 また、同人誌即売会コミックマーケット(4)では参加したサークルの頒布する同人誌を見本誌として回収している(CA1672参照)が、米沢嘉博記念図書館では直前のコミックマーケットの見本誌数万冊の閲覧提供も行っている(5)

 その他、マンガなどに関するレファレンス質問も館内・メールフォーム・電話などで受け付けている。また毎月さまざまなテーマでトークイベントを開催している。

 閲覧室の入館や出納などのサービスは、明治大学の学生・教員以外に、18歳以上(6)であれば一般の利用者でも有料の会員登録を行って利用できる。開館以来の利用者の人数は、1階展示室の入場者数がのべ12,000人以上、2階閲覧室の会員登録者数がのべ約3,000人である(2012年8月末現在)。

 館内で働くスタッフは現在10名(常勤3名)で、4名が図書館司書資格を持っており、スタッフの多くはマンガ研究の専門家である。各々がカウンター対応、出納・複写などのサービス、所蔵資料の整理・管理、寄贈の受入、展示やトークイベントの準備、調査や研究への協力などの業務を行っている。

 なお、米沢嘉博記念図書館は明治大学図書館とは別に設置する「明治大学マンガ図書館」という大学の機関として、現代マンガ図書館(7)CA1637参照)とともにこれを構成している(8)

 

2. 米澤嘉博氏旧蔵書の整理状況

 米沢嘉博記念図書館の現在の所蔵資料中、整理済みの資料は67,357冊(2012年9月末現在)、うち65,074冊が米澤嘉博氏の旧蔵書である(表参照)。

 

表 米沢嘉博記念図書館の整理済み所蔵資料数

表 米沢嘉博記念図書館の整理済み所蔵資料数

出典:2012年9月末現在の蔵書目録より。
※資料種別の「雑誌」「単行本」はマンガ掲載の、「参考雑誌」「参考図書」はそれ以外の雑誌・単行本。「同人誌」は米澤氏が同人誌として管理していたもの。

 

 米澤氏旧蔵書は、現在までにダンボール箱(9)で約5,000箱、およそ14万冊が寄贈されている。開館時点で整理済みだったのがマンガの単行本や雑誌など約5万冊。開館以降も継続的に整理作業を続け、2010年に同人誌の一部約3,000冊とアニメ誌約1,800冊、2011年に学年誌約1,700冊、2012年3月に成人向けマンガ誌約5,500冊ほかを現在までに整理した。2012年度中にはさらに約1万冊の単行本の整理が終わる予定である。整理済みの資料のうち、38,885冊が雑誌、19,280冊が単行本である。また同人誌が3,912冊、その他、参考雑誌・参考図書がある。

 現在未整理のものとしては、雑誌の一部、同人誌、貸本マンガや廉価版コミックスなど特殊なマンガ単行本、一部のマンガ関連参考図書、マンガ以外の書籍などがある。いずれも順次整理を行っていく予定である。

 生前の米澤氏は「生き字引」と呼ばれるほどマンガについてのどんな瑣末な事柄にも答えられたと言われ、ジャンルや人気に関わらず、どんな作品もマンガとして広く見ている点で特に知られていた。米澤氏の旧蔵書はこうした氏の性格を反映し、少年マンガや少女マンガだけでなく、レディースコミック・成人向けマンガ・同人誌など、他の施設ではあまり見られないマンガも多い。一方で雑誌の欠号が目立ち、広く収集する一方で特定の雑誌をすべて揃えることはあまり重視していなかった様子が伺える。この膨大な量の蔵書を考えれば、それに注力しなかったからこそ、幅広いコレクションを構築できたともいえるだろう。

 米澤氏旧蔵書以外の所蔵資料についても、多くは個人や団体からの寄贈である。未整理の寄贈が多数あり、公表済みのものでは岩田次夫氏(10)の403箱の同人誌コレクションがある。現在は米澤氏旧蔵書の整理を優先し手つかずとなっているが、他の寄贈資料も将来的には整理していく予定である。なお、館で新規に購入した資料はあまりない。

 米沢嘉博記念図書館では所蔵資料はすべて目録を作成し資料番号をつけて管理している。目録の書式は独自のもので、雑誌・単行本とも1冊1レコードずつ共通のデータベースに登録している。データベースの情報は手動で随時アップロードを行い、蔵書検索システムに反映している。また分類記号は付与していない。館内の書架にはすべて棚番号があり、資料の配架位置はこの棚番号により管理している。資料の並べ方については、単行本は版型別・作家名の五十音順、雑誌は出版社別・タイトル別・刊行順など、一定のルールがある。

 登録した資料は原則としてポリプロピレン製の透明な袋に入れて保管している(図1参照)。資料に付属するカバー・付録・広告なども同じ袋に入れる。資料自体にはラベルや保護フィルムなどは貼らない。これは可能な限り現物をそのまま保管するためである。資料にバーコードなどを貼る代わりに、資料番号のバーコードと書誌事項を印字した「スリップ」を同封している(11)。また、蔵書はすべて年1回蔵書点検を行っている。

 

図1 所蔵資料の保管状態の例

図1 所蔵資料の保管状態の例

※写真上部の長方形の厚紙のカードが「スリップ」。

 

3. 「東京国際マンガ図書館(仮称)」計画について

 明治大学では現在、2014年度の設置を目標にマンガ・アニメ・ゲームの複合アーカイブ施設「東京国際マンガ図書館(仮称)」(12)の計画を進めている(図2参照)。

 

図2 東京国際マンガ図書館(仮称)のイメージ

図2 東京国際マンガ図書館(仮称)のイメージ

 

 館ではマンガ・アニメ・ゲームに関する世界有数のコレクションを収蔵し、閲覧室やシアターなどとともに、マンガ・アニメ・ゲームがどのような歴史をたどってきたのかを展示するミュージアム施設や同人誌即売会などを開催できる催事場を館内に設置した、マンガ・アニメ・ゲームの過去と現在を結びつける施設として計画されている。

 完成後、米沢嘉博記念図書館および現代マンガ図書館のコレクションは「東京国際マンガ図書館(仮称)」に統合される。ほかコミックマーケット準備会(CA1672参照)、COMIC1準備会(13)、COMITIA実行委員会(14)、有志団体アーケードゲーム博物館計画(15)、株式会社海洋堂(16)など、計画に協力している複数の団体や企業とともにコレクションの構築を進めているところである。加えて計画の発表後も、さまざまなコレクターの方より寄贈・寄託のご提案をいただいている。

 また、常設展示を構築するためのマンガ・アニメ・ゲームなどの資料は現在継続して収集している。2012年に鳥取県内の2会場で行われた「鳥取県×明治大学連携展示企画 アニメが描く希望と未来展」では、このために収集された資料の一部が展示された。これは2012年度に開催中の「まんが王国とっとり」(17)の一環として明治大学が協力したものである。また中国・北京大学でのマンガ図書館閲覧室の設置に明治大学マンガ図書館が協力することが正式に決まっている(18)

 開館3周年を迎え、約2年後の「東京国際マンガ図書館(仮称)」への統合を前に、米沢嘉博記念図書館は現在折り返しの時期と言えるだろう。米澤氏の旧蔵書の整理作業を含め、「東京国際マンガ図書館(仮称)」の2014年度の設置にむけて準備を進めているところである。みなさまのご協力をお願い申し上げたい。

 

(1) 明治大学米沢嘉博記念図書館.
http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/index.html, (参照 2012-09-30).

(2) 米澤嘉博(1953-2006)。マンガ評論家・コミックマーケット準備会前代表。1953年3月21日熊本県熊本市生まれ。2006年10月1日肺癌にて逝去。享年53。

“米沢嘉博:人と仕事”. 明治大学米沢嘉博記念図書館.
http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/profile.html, (参照2012-09-30).

(3) “展示・イベント”. 米沢嘉博記念図書館. http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/archives/index.html, (参照 2012-10-16).

(4) コミックマーケット公式サイト. http://www.comiket.co.jp/, (参照2012-09-30).

(5) コミックマーケット77(2009年12月開催)分より開催。2012年12月開催のコミックマーケット83の見本誌の閲覧提供は2013年1月はじめから開始の予定である。

(6) 学術的な利用を主とすること、所蔵資料に成人向けのものが含まれることから18歳以上に制限している。

(7) 明治大学 現代マンガ図書館.
https://sites.google.com/site/naikilib/home, (参照 2012-09-30).

(8) 間宮勇. “明治大学マンガ図書館”. 明治大学.
http://www.meiji.ac.jp/koho/hus/html/dtl_0007078.html, (参照2012-09-30).

(9) 2004年に廃止された旧ゆうパックのダンボール箱(大サイズ)及びその相当品。外寸で長さ390mm×幅290mm×高さ200mm。コミックマーケットの見本誌はこのサイズの箱を使用(CA1672参照)。米澤嘉博氏の蔵書もすべてこのサイズの箱に入れて寄贈されており、米沢嘉博記念図書館でもこのサイズの箱を資料の管理などに活用している。

(10) 岩田次夫(1953-2004)。コミックマーケット準備会の元スタッフ。1953年10月15日生まれ。1986年よりコミックマーケット準備会にスタッフとして本格参加、コミックマーケットの事務システムの基礎を再構築し、以後準備会の活動に係わり続けた。ジャンルを問わず膨大な数の同人誌を購入し続けたコレクターとしても知られ、同人誌やネットでの批評活動なども行った。著書に『同人誌バカ一代』(久保書店、2004年)。

(11) 例外として、閲覧室の複本資料は重複しての保存の必要性が低いと判断し、書籍本体に直接資料番号のバーコードを貼って管理している。

(12) 東京国際マンガ図書館.
http://www.meiji.ac.jp/manga/index.html, (参照 2012-09-30).

(13) COMIC1. http://www.comic1.jp/, (参照2012-09-30).

(14) COMITIA. http://www.comitia.co.jp/, (参照 2012-09-30).

(15) 有志団体アーケードゲーム博物館計画.
http://island.geocities.jp/ugsf_west/, (参照2012-09-30).

(16) 株式会社海洋堂. http://www.kaiyodo.co.jp/, (参照 2012-09-30).

(17) 「まんが王国とっとり」では2012年から2013年にかけて鳥取県内で多数のマンガ関連イベントを開催している。「鳥取県×明治大学連携展示企画 アニメが描く希望と未来展」はそのひとつで、2012年8月24日から9月23日に鳥取県立図書館、10月13日から11月11日に鳥取県立夢みなとタワーの2か所で開催された。米沢嘉博記念図書館で2012年6月から9月にかけて開催した「『孤独のグルメ』谷口ジロー原画展」も鳥取県との連携企画である。これらは明治大学創立者のひとりである岸本辰雄氏が鳥取県の出身だった縁で実施された。
まんが王国とっとり. http://manga-tottori.jp/, (参照 2012-09-30).

(18) “明治大学マンガ図書館北京大学閲覧室の設立に合意しました”. 明治大学. 2010-11-26.
http://www.meiji.ac.jp/koho/hus/html/dtl_0007086.html, (参照 2012-09-30).

[受理:2012-11-05]

 


山田俊幸. 米沢嘉博記念図書館の現在. カレントアウェアネス. 2012, (314), CA1781, p. 6-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1781