CA1084 – 香港中央図書館建設計画 / 岡村志嘉子

カレントアウェアネス
No.205 1996.09.20


CA1084

香港中央図書館建設計画

香港の公共図書館整備計画の一環として,1999年に香港中央図書館を完成させる計画が,このほど市政局から発表された。

銅鑼湾摩頓台(コーズウェイ・ベイ・モートン・テラス)に建設が予定されている香港中央図書館の総工費は5億3000万香港ドル(約76億円),12階建,延床面積3万3800m2という規模である。完璧なインテリジェントビルとして設計され,OPAC用端末及びパソコン計400台を用いて,利用者に目録検索,マルチメディア資料の利用,インターネットによる外国のデータベースの利用など,さまざまなサービスを提供することになっている。また,市民が自宅のパソコンで図書館の蔵書目録を検索できるようにするシステムも,現在研究されている。24時間使用可能な図書返却ボックス,セルフサービスで貸出手続きをするための端末機も設置される。

主な施設としては,中央参考図書館(60万タイトル),AV資料室(10万タイトル),地図室(1万点),青少年貸出・参考図書館(3万6000タイトル),児童貸出・参考図書館(1万2800冊),成人貸出図書館(図書27万冊,録音テープ1万2000点),新聞雑誌閲覧室(6000タイトル,250席),講堂(300席),展示室(2000m2),その他,マルチメディア資料室,マイクロ資料閲覧室,おもちゃ図書館,香港文学資料室,中央書庫,自習室,研修室,書店などが計画されている。完成後20年間の資料の増加を見越して,建設計画にはかなり余裕を持たせてある。

この香港中央図書館は,完成すると香港の公共図書館ネットワークの頂点に立つ,香港最大の公共図書館になる。市政局では,そのことを踏まえて,香港中央図書館の機能を,1)レファレンスサービスセンター,2)香港の文学活動・文学研究センター,3)市民の余暇活動センター,4)市民の学習センター,という形に集約しようとしている。

建設計画を発表した市政局が,広く市民からの意見を求めたところ,計画に対する批判が続出した。

まず,建物の外観が図書館にふさわしくない,設計が全くオフィスビル風で図書館としての使いやすさが考えられていない,採光や照明にも大きな問題がある,など建築面に強い批判が向けられた。これは,公開設計競技が行われなかったことと関係している。70年代,80年代の香港市民は,公共図書館がどんな建物であろうとさほど気に留めなかったが,今はそうではないのである。

また,香港中央図書館というものの機能や特色が,計画からはっきり見えてこない点にも,批判が向けられた。

20年後を視野に入れて,200万タイトルの図書館資料を子供から大人まで全ての市民に提供し,かつ対外交流センターとしての役割も担う,と図書館側は説明している。しかし,計画を見た限りでは,既存の各地区の公共図書館の規模を一回り大きくしたもの,という以上の特色は出ていない,とする批判意見が多い。一般に中央図書館というものは,情報センターとして地域の図書館とは異なった機能を発揮すべきものであり,香港中央図書館もそのような視点を明確に打ち出して,蔵書構成やサービス方法について,より具体的な方向づけをするべきだ,と多くの市民が考えている。

岡村 志嘉子(おかむらしがこ)

Ref:明報 1996. 5. 16, 6.5