凡例(本文に先立って、テキストファイル版の凡例を記載します。)
注は各節の末尾に記しています。参照文献の表記方法は「科学技術情報流通技術基準 参照文献の書き方」に準拠していますが、テキストファイル版ではダブルコーテーションマークは使用せず、シングルコーテーションマークを使用しています。
本文中で外国語の文献を原綴のまま引用している部分は二重山がた《 》でくくっています。
原綴に音標符号があるものは次のように扱っています。
ウムラウトの付いた’a’は’ae’、ウムラウトの付いた’o’は’oe’に置き換えて表記しています。リングの付いた’a’は、アルファベットの’a’と表記し、本文中に「aはリングの付いたa」と説明を入れています。また、鋭アクセントが付いた’e’は、アルファベットの’e’と表記し、「eには鋭アクセントが付く」と説明を入れています。
以下、本文です。
第1章 総論
第1節 視覚障害者等に対する図書館サービス等の状況に関する2件の調査研究
平成14年度に国立国会図書館では、障害者図書館協力事業の将来計画及び日本における視覚障害者等図書館サービスの全国的な提供体制のあり方を検討するための基礎情報の収集を目的として、「デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制に関する調査研究」及び「視覚障害者等図書館サービスにおける国際協力活動に関する調査研究」の2件の調査を実施した。
両調査の実施において、特に調査の留意点としたのは、次の3点である。
第一に、調査対象である「視覚障害者等」、「視覚障害者等図書館サービス」という範囲は、視覚障害及びその他の障害で伝統的な印刷物を読むことが困難な人々(print disabilities)に対する図書館等のサービスである。すなわち、これらの調査では、対象者を狭い意味での視覚障害者に限定せず、知的障害者、身体障害者、読み書きに障害のある人々(dyslexia)、難聴者など広範な範囲を対象とした各種サービスを対象とした。また、サービス機関を図書館事業に限定せず、広く関係機関の同サービスを調査対象とした。
第二に、視覚障害者等に対するサービス実施との関係を念頭に、著作権法を始めとする法や各種の社会制度、国際的なガイドライン等を可能な範囲で取り上げた。
第三に、インターネットに代表されるネットワークの進展と情報のデジタル化の状況を踏まえて、「デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制に関する調査研究」では、米国、カナダ、スウェーデンの3ヵ国における障害者等図書館サービスの全国的提供体制について、ネットワークやネットワーク上のアプリケーション(WWW、メーリングリスト等)の利用状況、書誌データベース等の公開とその内容、フォーマット、DAISY規格の導入状況などについて調査を進めた。
一方、「視覚障害者等図書館サービスにおける国際協力活動に関する調査研究」においては、国際協力活動について、国際図書館連盟(IFLA)盲人図書館セクションの概要、国際協力活動の現況、今後の課題等を対象とした。併せて、DAISY関連では、DAISYコンソーシアムの概要、DAISY規格の現況、今後の課題と展望について調査を行った。
第2節 デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制に関する調査研究
視覚障害者等に対する図書館サービスは欧米を中心として活発に研究開発が実施されており、着実な技術開発とその上に立った図書館サービスが見られる。同サービスの充実を図っていくためには、全国サービスを提供する中心機関の役割、そのサービス内容が重要である。本調査では欧米における視覚障害者等図書館サービスの全国レベルでの提供体制及びそこにおける全国サービスを提供している中心機関が果たしている役割について、ネットワーク情報資源を含む文献等により調査を行い、国立国会図書館の障害者図書館協力事業の将来計画及び日本における視覚障害者等図書館サービスの全国的な提供体制のあり方を検討する際の基礎情報の収集を目的とした。
本調査の対象とした地域及び機関は次のとおりである。
1.米国及び米国議会図書館盲人・身体障害者全国図書館サービス
2.カナダ及びカナダ国立図書館
3.スウェーデン及びスウェーデン国立録音点字図書館
また、主な調査項目は、次のとおりである。
1.当該国における視覚障害者等を対象とした図書館サービスの全国的な提供体制
(1)当該国の視覚障害者等関連施策の概要を、図書館サービスとの関連を念頭において、著作権法を始めとする法や社会制度を可能な範囲で取り上げる。
(2)当該国の視覚障害者等に対する図書館サービスの提供体制、ネットワークの現状を概観し、必要に応じて図書館以外の視覚障害者等サービス機関の役割・機能も取り上げる。
2.当該機関の視覚障害者等図書館サービス支援機能
(1)当該機関が全国的なサービス提供体制において果たしている役割を明らかにする。
(2)当該機関の視覚障害者等図書館サービスの特徴があれば報告する。
3.当該国における視覚障害者等図書館サービスにおいての最新技術等の導入状況
(1)ネットワークやネットワーク上のツールの利用状況、目録を始めとするデータベースの公開内容や検索機能、DAISY規格の導入状況などの技術的要素の使用側面を調査する。
調査の詳細は第2章を参照されたいが、調査対象の各国において、それぞれの歴史的経緯から各種法制度や政府等のガイドラインなどは多様であり、全国的サービス機関体制、被サービス対象者範囲の相違、技術基盤整備と応用においては、ネットワーク環境下においてデジタル化の過渡期にある姿である。ただし、基本的な体制構築の方向性においては、各国において共通して、全国サービス体制の充実・強化、世界的な標準化への対応のもとでのデジタル化、ネットワーク化の推進の姿勢にある。しかし、一方では全国書誌データベース提供機関・部門と視覚障害者等図書館サービス関係データベース提供機関・部門との連携の一部未整備や、新しいデジタル資料等に対応する検索ツール(finding list)としての書誌レコード項目の未対応など、課題となる点も存在している。
第3節 視覚障害者等図書館サービスにおける国際協力活動に関する調査研究
前記の「デジタル環境下における欧米の視覚障害者等図書館サービスの全国的提供体制に関する調査研究」において、米国、カナダ、スウェーデンの3ヵ国における視覚障害者等図書館サービスの全国的ネットワークの概要とそれを推進している中核的機関の活動内容を明らかにするとともに、同サービス分野の技術的側面において国際的な協力活動が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
そこでこの調査では、世界的な規模でのデジタル・デバイドの拡大危機と、それを防ぎ、デジタル・オポチュニティへと展開する国際的な協力を基礎に、特に視覚障害者等を新たな情報弱者にしないためのデジタル環境構築に当たっての解決すべき課題を、国際的な共同活動について、問題点の現状、課題などについて調査した。
具体的には、視覚障害者等図書館サービス分野における国際協力活動において中心的な役割を果たしている国際団体の活動状況について、国際図書館連盟盲人図書館セクションを中心に国際図書館連盟の組織、活動と関係機関との連携の状況、DAISYコンソーシアムにおけるDAISY規格の開発と普及の現況等を中心に調査を行った。主な調査項目は、国際図書館連盟及び国際図書館連盟盲人図書館セクションについては、その概要、同セクションの国際協力活動の現況、視覚障害者等図書館サービス分野における国際協力活動の課題と展望、そこにおいて推進されている各種プロジェクトや開発されたガイドラインの現状などである。
調査結果から浮かび上がってきた主な点は、視覚障害者等に対する図書館サービスが、資料・情報の利用において社会的に不利益を被っている人々(disadvantage people)に対するサービスが各種先天的・後天的な環境から強いられている状況に対して、特別な資料・情報へのニーズのある人々への図書館サービスという広い文脈の中で位置付けられていること、デジタル環境下において国際的な協力と連携のもとに、全国書誌の重要な役割とそれを作成、提供、流通させていく中心的な全国機関の体制整備の必要性である。
一方、DAISYコンソーシアムについては、コンソーシアムの概要を始めとして、DAISY規格の仕様の開発状況、ソフトウエアの開発と普及、コンソーシアム・メンバーに対する研修・技術支援体制、発展途上国支援の現況などを調査した。また、関連項目としてW3Cのアクセシビリティに関する規格との連携やOpen eBook Forumとの協力動向、DAISYコンソーシアムの現状と今後の展望なども併せて対象とした。
調査結果において特に強調しておきたいことは、DAISY規格の第2世代から第3世代への規格開発・普及の過渡期において、W3C等の国際的な機関のアクセシビリティに関する規格との連携を図りつつ、DAISY規格がマルチメディア・デジタル情報の情報交換フォーマットへと進展しつつある状況であり、また、Open eBook Forum等との協同のもとに、DAISYのための電子コンテンツを視覚障害者等のための特別なフォーマットに閉じ込めるのではなく、デジタル・コンテンツ作成過程において自然に形成される環境を形成しようとする努力の現況である。
現在、ネットワーク環境の普及と資料・情報のデジタル化は、従来のメディア環境に多様性とコンテンツの充実や、コンテンツ選択性の拡大の大きな可能性をもたらしている。視覚障害者等への図書館サービスの確立は、すべての人々に対してこのメディア環境をデジタル・オポチュニティの確立・拡大の機会とするために、サービス対象を視覚障害者に限定するのではなく、広く読みに障害のある人々への図書館等サービスの量的、質的拡大を目的に、それぞれのプロジェクト推進において、企画、立案、実施、評価の各段階から、共同・協力を国際的に進行させていく必要がある。
調査の詳細は第3章を参照されたい。
本調査報告が、国立国会図書館における障害者図書館協力事業の将来計画の進展や、日本における視覚障害者等図書館サービスの全国的な提供体制のあり方を検討する際の基礎資料となり、当該分野の図書館サービス等の質的充実と量的拡大の役割の一石となれば幸いである。