E940 – イタリアの図書館事情

カレントアウェアネス-E

No.152 2009.06.24

 

 E940 

イタリアの図書館事情

 

 2009年8月,第75回世界図書館情報会議(WLIC):国際図書館連盟(IFLA)総会がイタリア・ミラノで開催される。これに先立ち,イタリアの図書館事情を,とりわけ図書館協力に焦点を当てて紹介する記事が,IFLA Journal誌35巻2号に掲載されている。この記事をもとに,イタリアの図書館の現況を紹介したい。

 イタリアには,「国立」の名を冠する図書館が8館存在する。統一国家としてのイタリア王国が成立した1861年以前に各王国の国立図書館であった図書館や,それに準ずるものとして統一後に未設置地域に設立された図書館などである。このうち,「中央」の名を冠し,現代的な意味での国立図書館の機能を有しているのが,フィレンツェとローマの2国立中央図書館である。

 フィレンツェ国立中央図書館(BNCF)は1714年,フィレンツェの学者が市に遺贈したおよそ3万点のコレクションをその起源とする。ローマ国立中央図書館(BNCR)は,正式名称にイタリア王国初代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の名を冠しているとおり,イタリア統一後の1876年に設立された。施設はイエズス会の図書館を再編したものであり,初期の蔵書の多くは接収した女子修道院のものであった。両館は文化遺産・活動省の傘下にあり,ともに納本図書館となっている。BNCFが全国書誌の編纂,BNCRが写本やインキュナブラの索引作成・研究といった文化遺産保存を担う形で役割分担がなされている。BNCFは,デジタル化した蔵書と全国書誌をリンクさせ,インターネットで提供する試みも行っている。

 国内の書誌調整の中心的な役割を果たしているのは,文化財・文化活動省に属するイタリア図書館総合目録・書誌情報中央研究所(ICCU)である。ICCUは,全国図書館サービス(SBN)という名称の図書館ネットワークを運営している(CA940参照)。SBNには両国立中央図書館をはじめ,約3,200の各館種の図書館が参加しており,総合目録の構築,総合目録を基盤としたILL・ドキュメントデリバリー,書誌・目録に関する標準の普及と書誌調整,専門職教育などを行っている。またICCUは図書館のダイレクトリーも作成しており,2008年9月時点での図書館数は16,421館とのことである。

 大学図書館の場合,北部・中部地域では図書館ネットワークがよく整備されているが,南部地域では各地方の歴史的差異を反映してか,それほど整備はされていない。電子情報資源へのアクセスについては,供給者との契約に焦点を当てた国家単位での協力イニシアチブが存在しているが,蔵書収集・保存・ドキュメントデリバリーなどについては,各館のポリシーの差から協力関係を構築するのが困難な状況となっている。SBNに参加している図書館ネットワークも数少ない。オープンアクセス運動に関しても,「自然・人文科学における知識へのオープンアクセスに関するベルリン宣言」 (E144参照)の支持を表明した2004年11月の「メッシーナ宣言」には,国内77大学のうち72大学が署名しているものの,国としての政策を欠いており,期待されたほどには影響が広がっていないという。なお,大学図書館の数は,コスト削減等を目指した再編により,2002年に77大学1,345館あったものが,2007年は73大学1,227館と減少している。

 イタリアの公共図書館4,918館のうち,蔵書数が10万冊を越えている図書館の割合はわずか3.3%であり,58%の図書館が,1万冊に満たない蔵書しかないという。地域間格差も大きく,北部・中部・南部の3地域のうち,北部地域に全体の過半数(51%)を占める図書館がある一方で,南部地域には全体の29%の図書館しかない。最近1年間に図書館を1度でも利用したと回答した11歳以上の人の割合も,北東部で16.1%,北西部で13.5%だったのに対し,南部では7.7%だったという。

 学校図書館は,義務教育課程(小学校・中学校)にはほとんど設置されていないが,かなりの数の高校が,教師・生徒向けの蔵書を備えている。しかし,その多くは目録が未整備で,司書もおらず,学習スペースを提供する役割が主となっている。

 イタリアの図書館界で特徴的なのは,教会図書館の存在である。イタリアには少なくとも5,500の教会があり,1,469の教会図書館が存在するとされている。その設置母体は教区,修道院,神学校などさまざまであり,大学の神学部の図書館など,大学図書館に属するものも含まれている。蔵書構成もまちまちである。なお公共図書館の中にも,かつて教会立だったところが多くある。

 図書館情報学の専門職養成制度としては,文化遺産学の学位を授与する大学院が数多くあり,アーカイブ学・ライブラリアンシップの学位を授与する大学院もいくつかある。しかし,専門職としての司書は法的な制度になっておらず,各図書館が独自の基準でスタッフを採用している状況である。図書館員の職能団体として,およそ4,000名・機関の会員を有するイタリア図書館協会(AIB)が存在し,このような現状を解決すべく,ライブラリアンシップの普及に努めている。

Ref:
http://archive.ifla.org/V/iflaj/IFLA-Journal-2-2009.pdf
http://www.ifla.org/annual-conference/ifla75/
http://www.iccu.sbn.it/genera.jsp?s=5&l=en
http://www.aepic.it/conf/index.php?cf=1
CA940
E144