E2520 – 「図書パン」誕生:学生のための図書館へ,その一つの試み

カレントアウェアネス-E

No.440 2022.08.04

 

 E2520

「図書パン」誕生:学生のための図書館へ,その一つの試み

長崎大学附属図書館経済学部分館・宮脇英俊(みやわきひでとし)

 

  2022年5月,長崎大学附属図書館経済学部分館でオリジナルあんパンの「図書パン」の販売を開始した。企画の経緯と販売後の反応,飲食ポリシー,今後の展開を紹介する。

●反応

  「図書パンば買いに来たバイ」と長崎弁の2人の年配男性がやってきた。続いて,近所の元銀行員の女性も。数日前に地元新聞に掲載された図書パンの記事を見て買い求めに来ていた。これより前にはネットニュースをみて自宅から1時間掛けて買いに来た本学卒業生の親子連れもいた。

  入館者数減少の改善策の一環として,滞在時間の長い学生のために企画した図書パンを売り出したのだが,意外な反応を垣間見た。

  このパンは1日限定30個で,長崎大学附属図書館経済学部分館でのみ販売を開始した。販売開始前は3日に一度の納品予定だったものを毎日納品することに急遽変更したほど順調に売れている。厚み5センチメートルほどのふわふわした生地の中に,ゴマの風味が隠し味の粒あんのバランスが良く,ペロリと平らげもう一つぐらい食べられそうにおいしいと評判である。

●開発経緯

  入館者の減少に対する食い止め策と図書館周辺の飲食店不足,学生からの要望も重なり,館内での食事スペースを設けることにした。入館者減少食い止め策には別の手段としてポイントカード制度を以前より講じている。この制度は入館するたび,本を借りるたび,グループ学習室を利用するたびにポイントが増えるもので,ある程度点数が貯まると,特典として大学生協のプリペイドカードに100円をチャージできる仕組みを生協の協力のもと運用している。その経験と当時の生協担当者との信頼関係が醸成されていたところで,軽食用自動販売機設置を打診したところ快諾され,設置までトントン拍子で進んでいった。その上で,軽食用自動販売機で売る商品の目玉になり得るものとして,オリジナル商品「図書パン」の企画製作を行ったのである。図書館にちなみ「図書パン」と名付け,図書館でそのパンを食べ,良いアイデアが生まれることを期待して,「案」と「餡」をかけてあんパンとした。パンは大学近隣にある社会福祉法人が運営するベーカリーで焼き,図書パンの顔としての焼き印の文字は本学学生の揮毫によるもので,販売を生協が担うという4者のコラボ商品として誕生した。

●飲食ポリシー

  図書館内で食事をすることはマナー違反という風潮が未だにある。そこからの脱却が大事で,スタッフの考えの転換が必要である。「食べ物の包みや食べかすが残されていたら困る。飲み物をこぼしたら大変」確かにそれは一理ある。しかし,利用者のためになんとかならないかと考えてみることも大事である。そこで,食事可能エリアを決めた。当館では,貸出カウンターから目の届く所をその場所とした。貸出カウンターから直線で10メートルのところに自動販売機を置き,その前方の30平方メートルほどを飲食可能エリアとした。滞在型図書館を実現するためには必要なエリアとなる。些細なことであるがゴミ箱を置かないことが肝要である。ゴミは自分で持ち帰るように暗に促すためである。スタッフの存在がいつも目に入ってくる場所にあるため,抑止効果があるのか,これまで食べ物の包みや食べかすが残されていたり,飲み物をこぼしたりして汚された跡は皆無である。

  実はそこは,可動式のテーブルと椅子が8席あり,利用者用の複写機やパソコンもあり,新着雑誌を置く雑誌架が3面を囲っている「情報サロン」と呼んでいるスペースである。「図書館では食べてはいけない」と思っていた人にとっては衝撃に近いことであろう。自動販売機を置くことでより居心地のよい場所を提供することにもなり,学生が行儀良くおいしそうに食べている姿に,図書館の風景も様変わりしたと感慨もひとしおであった。

●今後の展開

  パンがあるなら,ご飯も欲しくなる。おにぎりにして「図書飯(としょはん)」として売り出したいとも考えた。しかしご飯は食品衛生法上厳しいらしい。実に残念である。

  パンについては,既に決まっている販路がある。本学の別のキャンパスにある医学分館に同じタイプの自動販売機があるので,コロナ禍が収束すればパンを置くことにしている(現在はドリンクと文具・衛生用品のみ)。経済学部分館でしか買えないという希少性は若干薄まることにはなるが,学生達の喜ぶ顔を見たいものである。

  図書パンは賞味期間3日の商品で,自動販売機は冷蔵機能があるので数日経っても味は変わらないがふわふわ感は若干だが失われる。生協としては,ふわふわ感を味わってもらいたいことから,焼きたてを自動販売機に毎日セットするように運用を変えたようであるが,そうするとどうしても売れ残りが発生する。廃棄するのはもったいない。SDGsの定めるところの「目標2 飢餓をゼロに」と「目標12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する」を鑑みて,商品の入れ替えにより発生した図書パン(賞味期限はまだ2日残っているもの)を大学生協店舗で販売していくつもりである。

●むすび

  図書館にあるちょっとしたタブーへの挑戦を試みたのが図書パン誕生のきっかけでもある。当館は小規模な図書館であるため,柔軟な取り組みが可能だったことも幸いした。その結果,利用者に喜んでもらえたのではないかと自負している。学生のための図書館を目指したこの試みは<うまい・あん>に仕上がったと思う。今後も学生のために良いアイデアがないかと考えていきたい。

Ref:
“長崎大学図書館オリジナルの「図書パン」を発売”. 長崎大学. 2022-05-18.
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/news/news3619.html
“食品用自動販売機でお買い物!【経済学部分館】”. ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ. 2022-04-01.
https://nulib.hatenablog.jp/entry/2022/04/01/172157
“Library Point Card がリニューアル!【経済学部分館】”. ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ. 2022-04-15.
https://nulib.hatenablog.jp/entry/2022/04/15/160916
“2030アジェンダ”. 国際連合広報センター.
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

 

 

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