E2466 – 図書館・博物館のソーシャル・ウェルビーイングへの貢献

カレントアウェアネス-E

No.429 2022.01.27

 

 E2466

図書館・博物館のソーシャル・ウェルビーイングへの貢献

筑波大学大学院人間総合科学学術院・五十嵐智哉(いがらしともや)

 

  新自由主義的価値観が広まり,図書館や博物館のような文化施設も,それまでは暗黙に認められていた自らの社会的意義を示すことを求められるようになった。そのために,機関が社会に与えるインパクトを示すことに近年関心が集まっている。もちろん,インパクト評価は説明責任を果たすのみならず,サービスのさらなる発展にも貢献する。

   2021年10月,米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)は,図書館や博物館がコミュニティのソーシャル・ウェルビーイングに与えるインパクトを調査し,その結果をまとめたレポート“Understanding the Social Wellbeing Impacts of the Nation’s Libraries and Museums”を公開した。ソーシャル・ウェルビーイングは個人が他者との関係を持ち,発展させ,持続させることで幸福に生きることを示す。予備調査として2016年に行われた調査では,図書館と博物館の役割を,ソーシャル・ウェルビーイングの向上としている。そのため,この調査ではソーシャル・ウェルビーイングに注目し,図書館と博物館がそれに与えるインパクトを理解することを試みている。なお予備調査の成果も,2017年にレポート“Strengthening Networks, Sparking Change: Museums and Libraries as Community Catalysts”として公開されている(CA2000参照)。

  この調査では,多変量解析とケーススタディの2種類の手法を用いてソーシャル・ウェルビーイングに与えるインパクトを調査している。本稿では,この2種類の調査手法と主要な結果を概観する。

  まず,米国内の3,090のカウンティ(郡)が1)都市部,2)郊外,3)小都市,4)農村部に分類された。これにより,郡の規模や人口密度によるばらつきをある程度制御している。次に,各カウンティにおいて,IMLSの“Public Libraries Survey”のデータを用い,図書館資源指標(図書館数,スタッフ数,コレクション数など)と利用度指標(貸出数,来館者数,プログラム参加者数など)に基づき因子分析を行い,図書館指数が算出された。博物館においても,IMLSの“Museum Universe Data File”のデータを用いて,同様に博物館指数が算出された。ただし,“Museum Universe Data File”のデータは図書館のものと比較し完全ではなく,その点は調査の限界である。なお,これらの指標は市町村ではなく,カウンティを単位としている点には注意が必要である。これらの指標は調査で一貫して用いられるため,結果の解釈の際にもそれを踏まえる必要がある。

  次に,ソーシャル・ウェルビーイング指数が算出された。ソーシャル・ウェルビーイングには多くの側面が存在するが,この調査では先行研究を踏まえ,研究チームが重要だと判断した経済的ウェルビーイング,学校の効果,コミュニティの健康が注目され,各カウンティでこれら3つの側面の指数が算出されている。

  経済的ウェルビーイングは,学歴,収入,貧困率など,学校の効果は,学力調査の平均点,卒業率など,コミュニティの健康は,健康状態に関するアンケート調査の結果,食環境指数などがデータとして用いられた。図書館・博物館指数と同様に因子分析が行われ,各側面の指数が算出された。ここでは,経済的ウェルビーイングと学校の効果,経済的ウェルビーイングとコミュニティの健康の指数にはそれぞれ正の相関関係があることも明らかとなった。

  次に,ここまで算出した,図書館・博物館指数とソーシャル・ウェルビーイング指数の関係が推定された。ここでは,図書館・博物館指数を予測因子,学校の効果指数,コミュニティの健康指数を結果変数として一般化線形モデリングを行っている。前述のように経済的ウェルビーイング指数は,学校の効果指数,コミュニティの健康指数との相関が高いために,制御因子として用いられた。その他,非ヒスパニック系白人人口割合,地理的規模も制御因子に含められている。結果として,図書館指数と2つのソーシャル・ウェルビーイング指数には有意に正の相関がみられた。博物館指数は有意な相関は見られなかったが,レポート内では,前述のようなデータの不完全性による影響も指摘されている。

  最後に,12の図書館,12の博物館を対象としたケーススタディが行われた。対象館は,図書館・博物館とソーシャル・ウェルビーイングがどのように関わっているかを詳細に説明することを目的として,ここまでの調査結果を踏まえて意図的に選択された。そのため,全ての図書館・博物館に一般化できるものではない点には注意が必要である。ケーススタディでは,対象館において,広範な文書の分析および,対象館の代表者や公務員,地元企業や学校職員など多様なステークホルダーへのインタビュー調査が行われた。それにより,定量的に把握された側面に加え,組織のつながり,文化的な機会の側面からもインパクトを与えていることが明らかとなった。

  これらの調査から,1)図書館・博物館は教育やリテラシー育成による健康の増進など,社会サービスの提供における重要な存在であること,2)個人や組織のネットワークを促進する機関であり,コミュニティの紐帯を強化していること,3)信頼されている機関として,情報や交流の場を提供することにより,ソーシャル・ウェルビーイングにインパクトを与えていることが主要な結果としてあげられている。

  インパクト評価は今後もますます求められるようになっていくと考えられる。本調査は定量・定性両面から図書館・博物館のインパクトを調査することを試みた数少ない事例の一つであり,今後のインパクト評価の発展にも貢献するものである。

Ref:
IMLS. Understanding the Social Wellbeing Impacts of the Nation’s Libraries and Museums. 2021, 109p.
https://www.imls.gov/sites/default/files/2021-10/swi-report.pdf
“New Research Underscores Role Museums, Libraries Play to Create Healthier, More Equitable America”. IMLS. 2021-10-27.
https://www.imls.gov/news/new-research-underscores-role-museums-libraries-play-create-healthier-more-equitable-america
豊田恭子. 米国のIMLSが戦略的5か年計画で描くこれからの図書館像-地域変革における触発機能-. カレントアウェアネス. 2021, (348), CA2000, p. 16-19.
https://doi.org/10.11501/11688292