カレントアウェアネス-E
No.424 2021.11.11
E2441
ネコ館長ムクニャン就任5周年を迎えて
椋鳩十記念館・記念図書館・塩澤真由美(しおざわまゆみ)
椋鳩十記念館・記念図書館のネコ館長にムクニャンが就任して5周年を迎えた。ネコ館長としての活動は,村内だけでなく県外の方にも知れ渡るようになった。5周年の節目となり,2021年8月に当館で「ネコ館長ムクニャン展」を開催した。
長野県南部の喬木村に位置する当館は,村出身の児童文学者椋鳩十の作品をはじめとする読書活動推進や椋鳩十顕彰のため1992年8月9日に開館した。椋鳩十は多くの作品を書いているが,よく知られているのは小学校の教科書に使われている「大造じいさんとガン」などの動物物語であろう。幼いころから父親と山を歩き,また山の人々の話を聞くなどして過ごし,自身もイヌやネコなど多くの動物を飼っていた。
そんな椋鳩十と所縁のある当館に一匹のネコが迷いこんできたのは2016年1月22日の朝だった。その日はかなり冷え込み,あちこちで水たまりが凍るような朝だった。そんな中,出勤した職員の足元にそのネコは必死の形相と鳴き声でまとわりついてきた。長年勤務している職員でもそんな状況は初めてであるし,公共施設ということもあって建物の中に入れることもためらわれた。しばらく様子を見ることになったのだが,その迷いネコは職員だけでなく外を歩く人を見つけると同じようにまとわりついて鳴いている。外は徐々に雲行きも怪しくなり,小雪がちらつくようになった。しかも迷いネコは前脚をケガしていることも分かったため,当時の館長(現在の飼い主)の判断により保護することとなった。
雄のトラネコはまだ幼さを残しており,推定年齢は1歳ほどと思われた。人を怖がらず人懐っこい性格のため,一時的にでもどこかで飼われていただろうということで,まずは飼い主を探すこととなったのだが,広報などをして探しても飼い主は見つからなかった。そのうちに,椋鳩十も同じトラ柄のネコを飼っていたことや,職員が図書館のキャラクターとして描いていたイラストのネコ「ムクニャン」(2013年のイベント時に子どもに名前を募集して付いた名前)と似ていたこともあり,迷いネコは自然と「ムクニャン」と呼ばれるようになった。当館に迷い込んできたネコの話は少しずつ話題となり,春の陽が温かく感じられる頃には小学生や大人の来館者から「ぜひネコ館長に」という声が上がった。
そして2016年4月1日,奇しくも椋鳩十の誕生日である1月22日に迷い込んできたトラネコは「ネコ館長ムクニャン」として就任する運びとなったのである。ムクニャンの主な仕事は来館者対応,村民読書の日や読書旬間などで行われるスタンプラリー参加者への景品カレンダーなどのモデル,夏の子ども向けイベント「としょかんまつり」への参加やFacebookなどでの広報活動となっている。ネコ館長が当館を知るきっかけとなり,就任以前より記念館や図書館を利用する来館者が増えたように思う。
今年8月の就任5周年のイベント「ネコ館長ムクニャン展」も,コロナ禍で制限がある中開催されたが,大変好評であった。館内ギャラリーに職員が撮ったムクニャンの迷い込んできた当初から現在までの写真150枚や,以前イベント用に作ったアルバムなども飾り,来館者は楽しそうに眺めていた。また,自由に書けるムクニャンへのメッセージカードには,子どもから大人まで「会えてよかった」「元気でいてね」と嬉しい言葉がたくさん並んだ。現在は週2日の出勤となっているが,この5年で常連のファンも付き,勤務の日には来館者に囲まれることも多い。ムクニャンの一日は朝の外のパトロールから始まり,現在は書棚のある図書館のスペース以外の館内外で季節や気温に合わせて好きな場所で過ごして来館者を出迎え,静かな時間はまったりと休憩を取っている。取材を受けることも多いのだが,最初こそ警戒するもののすぐにいつものマイペースな姿を惜しみなく見せている。これほど完璧に仕事をこなすネコも珍しいだろうと,いつも感心している。
椋鳩十の誕生日に迷い込んできたこと,椋鳩十もトラネコを飼っていたこと,図書館のキャラクターに似ていたことなど多くの偶然が重なり,また,ムクニャン自身の人が好きという性格が多くの人に受け入れられた。小さな子どもや元気な来館者に対してもその背中をなでることを許し,時には優しく諭したり少し距離を取るなど臨機応変に対応している姿は私たちも見習いたいところである。職員には時々塩対応なところもあるが,それもまた一緒に働いている仲間として素の姿を見せているのだろうと思っている。2021年4月で任期は6期目に突入しているが,週2日勤務のこの勤務形態は続く予定なので,ネコ館長ムクニャンとしてこれからも変わらず元気な様子を来館者に見せてくれるだろう。Facebookでもその姿を発信していきたいと考えている。
Ref:
椋鳩十記念館・記念図書館. 喬木村.
http://www.vill.takagi.nagano.jp/toshokan/
“ネコ館長「ムクニャン」の勤務について”. 喬木村.
http://www.vill.takagi.nagano.jp/toshokan/kinenDocs/2018121600021/
@takagi.mukutosyo. Facebook.
https://www.facebook.com/takagi.mukutosyo/
渡辺貴子.小さな図書館の挑戦―「猫ノ図書館」開設とねこ館長-.カレントアウェアネス.2017,(333),CA1904, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/10955540