E2278 – Europeanaの2020年から2025年の戦略:デジタル変革に力を

カレントアウェアネス-E

No.394 2020.07.09

 

 E2278

Europeanaの2020年から2025年の戦略:デジタル変革に力を

関西館図書館協力課・野村明日香(のむらあすか)

 

   2020年3月20日,欧州文化遺産プラットフォームEuropeanaの2020年から2025年にかけての戦略“Europeana strategy 2020-2025: Empowering digital change”が発表された。この戦略では,前5年の戦略(E1620参照)でも示されていたような,文化によって経済的・社会的に発展した欧州が未来像として描かれ,その実現のために,欧州の文化遺産セクターのデジタル変革に対する支援を行うことに焦点が当てられている。ミッションとしては,デジタル変革のための専門知識やツールの開発・改善,方針の立案,イノベーションを促進する連携関係の推進を行い,教育,研究,創作,レクリエーションにおける文化遺産の利用を容易にし,オープンで知識に富み,創造的な社会に寄与することを掲げている。

  デジタル変革におけるEuropeanaの役割は,文化および国の境界や,コレクションの位置づけの垣根を越えて,欧州の文脈の中で主要なアクターをつなぎ,文化遺産セクターが能力を発揮できるよう保証することである。今回の戦略は,文化遺産機関によるオープンで参加型のオンラインサービス提供に対する期待の高まり,文化遺産機関のデジタル変革と連携する民間企業,人工知能(AI)をはじめとした技術革新,文化的多様性の保持に対する国際的視野の変化の4つの動向を踏まえている。取り組むべきとされた優先事項は以下の3点である。

●技術基盤の強化

  技術基盤の非効率性は文化遺産機関にとってオンラインでの効果的なコレクションの共有を妨げている。この状況を打開するべく,Europeanaは技術基盤を最先端の状態に保つ活動の支援にリソースを投じるとしている。具体的目標としては,アグリゲータ用の効率的なプラットフォームの開発による基盤の改善,APIやコンテンツの利用状況および影響度を測る統計ダッシュボード等のデータプロバイダとアグリゲータへ提供するサービスの向上がある。加えて,インデックス作成メカニズムの改善やLinked Open Data(LOD)に基づく多言語対応,コンテンツの関連付けや比較等を行えるようなセマンティック・エンティティを用いた閲覧等,コンテンツの検索と閲覧を容易にすることに触れている。

●データの質の向上

  デジタルコンテンツへのアクセスや閲覧可能性,利活用可能性を担保するためには,コンテンツとメタデータの質が十分に高いことが肝要である。そのため,Europeanaは,アグリゲータおよびデータプロバイダと協力し,コンテンツとメタデータの改善に関する活動に投資するとしている。具体的には,コンテンツの質に関して、各機関のデジタル化やコンテンツ作成の技術レベル向上を挙げている。メタデータの改善については、メタデータの質の評価に関する基準が含まれた新しい“Europeana Publishing Framework”の最終化とその普及,APIにより共有されるデータの活用を奨励し,相互互換性のある汎用的フォーマットの利用を促進することに言及している。その他, AI等を活用しメタデータを自動で改良するツールに関する取組の実施,機械翻訳の結果の評価を通した多言語対応の改良,メタデータを充実させるためのクラウドソーシングプラットフォームの利用促進が記載されている。

●人材育成

  現在,デジタル変革は技術と能力が限られた中小規模の機関にとって特に困難となっている。この状況に対し,Europeanaは,デジタル化の重要性や付加価値,基準への準拠方法,参考となる事例等を紹介し,文化遺産機関を支援するとしている。具体的な支援としては,デジタル変革に関する能力を高めるため、ウェブサイトでのガイドラインや事例の紹介,カンファレンスやワークショップ等での情報共有,関連プロジェクトで開発されたツールや技術の利用促進,国内外の連携機関との協力強化を提示している。また,Europeana Network Association(E2183参照)といったEuropeanaのコミュニティに所属する専門家による支援等のデジタル変革を支えるネットワークの構築,参加国内のデジタル文化遺産施策との協調等による国内外の基盤強化が挙げられている。

  優先事項に表れているように,今回の戦略は,メタデータやデジタルコンテンツの作成をはじめ,デジタル変革の様々な局面における技術支援に重点を置いている。2025年までの間に,どのようなEuropeanaによる技術支援が展開され,各機関のデジタル変革が進められるのか,今後も注目したい。

Ref:
“Europeana strategy 2020-2025: Empowering digital change”. europeana pro. 2020-03-20.
https://pro.europeana.eu/post/europeana-strategy-2020-2025-empowering-digital-change
Europeana. STRATEGY 2020-2025. Publication office of the European Union. 2020, 47p.
https://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Publications/EU2020StrategyDigital_May2020.pdf
“Europeana Strategy 2020-2025: Priority 1 – Strengthen the infrastructure”. europeana pro. 2020-06-11.
https://pro.europeana.eu/post/europeana-strategy-2020-2025-priority-1-strengthen-the-infrastructure
“Europeana Strategy 2020-2025: Priority 2 – Improve data quality”. europeana pro. 2020-06-19.
https://pro.europeana.eu/post/europeana-strategy-2020-2025-priority-2-improve-data-quality
“Publishing Framework”. Europeana.
https://pro.europeana.eu/post/publishing-framework
“Building capacity for digital transformation: how our workshops support the cultural heritage sector”. europeana pro. 2020-06-04.
https://pro.europeana.eu/post/building-capacity-for-digital-transformation-how-our-workshops-support-the-cultural-heritage-sector
篠田麻美. Europeanaの2015-2020年の戦略:文化で世界の変革を. カレントアウェアネス-E. 2014, (269), E1620.
https://current.ndl.go.jp/e1620
高嶋志帆. 公開10年となるEuropeanaの動向:2018年年次報告書を中心に. カレントアウェアネス-E. 2019, (377), E2183.
https://current.ndl.go.jp/e2183