カレントアウェアネス-E
No.367 2019.04.18
E2128
シンポジウム「人文社会系分野における研究評価」<報告>
2019年2月15日に虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区)で,筑波大学URA研究戦略推進室の主催により,筑波大学研究大学強化促進事業シンポジウム「人文社会系分野における研究評価~シーズからニーズへ~」が開催された。
引用(サイテーション)ベースの研究評価は,ある分野においてはニーズに合っているが,この手法をシーズとして人文社会系分野の研究業績に当てはめても,研究の全体像をとらえられるとは言い難い。なぜなら,被引用数は商用データベースを基に算出されるものであること,また,当該商用データベースの収録対象は英語論文が中心であり,かつ英語(時にはアルファベット文字に置き換えられた他言語)の被引用情報のみ数として算出可能なためである。そこで,このシンポジウムでは,人文社会系分野のニーズに合った研究評価指標について「評価を受ける側」「評価をする側」そして「出版・データ提供をする側」という3つの立場から発表が行われた。
はじめに,木越英夫氏(筑波大学副学長・理事(研究担当))から開会挨拶があった。2015年6月の文部科学大臣による通知に人文社会系学部に対する問題提起があり,現在も人文社会系研究の成果発信及び社会との関連付けが強く求められているという,このシンポジウムに至る社会情勢,ならびにそれに呼応した筑波大学の取組説明があった。続いて,春山浩康氏(文部科学省研究振興局振興企画課学術企画室長)による来賓挨拶があり,科学技術・学術審議会学術分科会の「人文学・社会科学振興の在り方に関するワーキンググループ」で審議された内容の紹介があった。審議では,人文社会系では書籍の刊行も論文と同様に重要である点,論文が公表されてから引用のピークを迎えるまでの期間が長い傾向がある点等が指摘されたという。また,春山氏からは,本シンポジウムを通じて人文社会系コミュニティ全体としての議論が一層進展することを期待するとの言葉があった。
続いて,池田潤氏(筑波大学大学執行役員・学長補佐室長・人文社会系教授),後藤真氏(人間文化研究機構国立歴史民俗博物館研究部准教授),カールソン(Anders Karlsson)氏(Vice President of Global Academic Relations of Elsevier),ローレンス(Rebecca Lawrence)氏(Managing Director, F1000 Group),松本美奈氏(読売新聞記者・国立大学法人評価委員会委員)の5氏による講演が行われた。また,スウィニー(David Sweeney)氏(Executive Chair of Research England)からのビデオメッセージも上映された。
池田氏からは,筑波大学で独自に開発した,研究業績の影響度を数値で表すことが難しい分野や使用言語が英語以外の学術誌について著者の所属機関及びその立地国の観点から数値を算出する,人文社会系分野にも適用できる新たな学術誌評価指標iMDについて説明が行われた。後藤氏からは,人文学研究における,論文よりも著書が重視される傾向について,また国際共著書籍や翻訳の重要性について説明が行われた。カールソン氏からは,研究の評価について出版社ができること,そして人文社会系研究においてサイテーションだけでなく多様な視点による評価の重要性について説明が行われた。ローレンス氏からは,より多くの研究者が納得する研究評価方法は何か,論文評価サイトF1000での論文のレビューの可視化状況の紹介,そして,民間企業が算出した定量的評価から専門家による定性的評価への転換について説明が行われた。松本氏からは,社会から見た大学の評価について,大学が考えている自大学の価値について説明が行われた。その中で,ずっと昔から人とは,生命とは,学ぶとは,といった「価値というもの」と向き合ってきた人文社会系から議論を起こしてほしいと結論付けた。
各氏からの講演に続き,松本氏をモデレーターとして,講演者4氏をパネリストに迎え,パネルディスカッションが行われた。研究の評価に関する議論では,研究者が自分で評価することが重要であるといった主張がある一方で,もっと社会が評価に参加するべきだと声を上げることが重要との指摘があった。研究評価の目的に関する議論では,評価の目的が漠然としていることから,評価疲れに陥っている,評価の目的をはっきりさせれば,その目的に沿った評価指標も意味を持つといった意見があった。その後,研究は誰のものなのか,評価の目的は何なのかについて意見交換が行われ,どのように評価するべきか思考停止せずに問い直し続けることが重要であると指摘があった。
閉会挨拶では,筑波大学人文社会系長の青木三郎氏から,人文社会系の研究業績評価の現状と,iMDの学内の活用事例について紹介があった。
開催後のアンケートでは,「F1000などとても新しい動きも知ることが出来,国内の大学の教育面からの評価,評価自体の根本からの再考など,とても刺激的でした」「Evaluation(評価)からAssessment(大学の価値)への移行など色々と考えさせられた」といった,コメントが寄せられた。
筑波大学URA研究戦略推進室・森本行人
Ref:
http://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/17626
https://icrhs.tsukuba.ac.jp/tsukuba-index/