E2110 – IFLA,集中管理団体(CMO)報告書でEU著作権指令案に言及する

カレントアウェアネス-E

No.364 2019.02.28

 

 E2110

IFLA,集中管理団体(CMO)報告書でEU著作権指令案に言及する

 

 2018年10月,国際図書館連盟(IFLA)は,集中管理団体(Collective Management Organisations:CMO)による図書館等へのライセンス利用に関する報告書“Why Europe Needs a Fall-Back Exception for Out of Commerce Works: IFLA Study on the Availability of Licenses to Libraries by Collective Management Organisations”(以下「本報告書」)を発表した。欧州連合(EU),スイス,ノルウェー,オーストラリアを対象に調査し,有効な回答が得られなかったポルトガル,リトアニア,ベルギー,フランス,ドイツ,ハンガリーを除く26か国のCMOの状況を報告している。

 本報告書は,EUで審議されてきたDSM著作権指令案(Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on copyright in the Digital Single Market)を念頭に置いたものである。DSM著作権指令案は,欧州委員会(EC)が2015年5月6日に提案したデジタル単一市場(Digital Single Market:DSM)戦略を背景にしたものである。この戦略では16項目の具体的な施策の一つとしてEU域内の著作権制度の統一に関する更なる推進を掲げ,2015年末までに著作権制度の改正案の提案をすることとされた。具体的な内容としては,調和のとれた著作権制限規定により,調査研究,教育,テキスト・データ・マイニングなどのためのコンテンツの国境を越える利用に関する法的安定性の確保などが含まれることとされた。これを受けて,EC及びEU理事会が欧州議会に提案したDSM著作権指令案の7条から9条a項まででは,商業的に利用されない著作物(Out Of Commerce Works:OOCW)の利用を促進するため,EU各加盟国の判断で,拡大集中許諾制度(Extended Collective Licensing:ECL;E2075参照)により,CMOが図書館等の文化遺産保存機関(Cultural Heritage Institutions:CHI)に対してライセンスを付与することなどが規定されている。ECLは法律に基づき,CMOの構成員ではない著作権者の著作物について,相当数の著作権者を代表する「CMO」と著作物の「利用者」との間で締結された,著作物の利用許諾契約と同じ利用条件で利用することを認める制度であるため,図書館,美術館,博物館等の大量の著作物を利用する文化機関にとって,通常の個別の著作権許諾手続に比べて迅速な著作権処理が可能になることが期待される。

 しかし,本報告書ではCMOが多くの国で書籍,雑誌,新聞などの様々な著作物のライセンスを取り扱っているものの,著作物の種類によってはライセンスを全く扱っていない国も多いことを指摘している。また,26か国中,書籍についてCHIに特化したライセンスがある国は13か国しかなく,他の著作物については更に少ないものとなっている。これは,一般利用者や企業と同様にライセンスが付与される国が多いこと,及びライセンスが非商業利用をするCHIのニーズに合わないことを意味すると分析している。さらに,電子図書館に不可欠な著作物のインターネットへの大量アップロードを認めるCMOがある国は,著作物の種類を問わずかなり少ないと指摘している。

 IFLAは本報告書で,少なくとも特定の種類の著作物を取り扱うCMOが存在しない場合には,「代替的な著作権の例外規定」(fall-back exception)によりCHIに対してOOCWのデジタル化や利用提供を,著作権者が反対しない限り可能にすべきであると指摘している。この点,欧州議会は2018年9月12日に,ECLなどのライセンス処理が機能しない分野について,CHIがOOCWをオンライン公開することを可能とするための権利制限規定の導入を内容とするDSM著作権指令案の修正提案7条1a・1b項を採択した。2019年2月13日には,欧州議会,EU理事会及びECがDSM著作権指令案について政治的合意に達した。欧州議会及びEU理事会による正式な承認後,各加盟国が2年以内に自国の法律で制定する見通しである。

 EUにはEuropeanaなどの大規模な電子図書館が多くあり,DSM著作権指令案が成立すればアーカイブの利活用の国際的な動向にも大きな影響を与える。日本においてもECLの導入について文化審議会著作権分科会で検討しているところである。DSM著作権指令案は,今後のCHIによるデジタル資料のオンラインへの発信を促進する鍵を握ることから,審議の行方を見守る必要があるだろう。

関西館文献提供課・鳥澤孝之

Ref:
https://www.ifla.org/node/82013
https://www.ifla.org/files/assets/hq/topics/exceptions-limitations/documents/collective_management_organisation_coverage_survey_draft.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/keyword.html
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52015DC0192&from=EN
http://www.mediacom.keio.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2016/03/5847003fae5ba1717849f525a5c10847.pdf
https://www.consilium.europa.eu/media/35373/st09134-en18.pdf
http://www.eblida.org/Documents/Copyright_Reform/Art.7to9_OOCW.pdf
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h29_03/pdf/shiryo_1.pdf
https://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-%2F%2FEP%2F%2FTEXT+TA+P8-TA-2018-0337+0+DOC+XML+V0%2F%2FEN&fbclid=IwAR1Zwf9xmCxX4G44xm5aE7t5Ovb_0A-rTGDZXYwxOOgcnXwGfxHO4hcVEfM
https://webronza.asahi.com/business/articles/2019011500001.html (WEBRONZA)
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-19-528_en.htm
https://ec.europa.eu/newsroom/dae/document.cfm?doc_id=57363
http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-19-1151_en.htm
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-6637-2019-INIT/en/pdf
https://www.europeana.eu/portal/en
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