カレントアウェアネス-E
No.360 2018.12.20
E2089
ソーシャルメディアの運用ポリシーに関するALAガイドライン
2018年7月5日,米国図書館協会(ALA)の知的自由委員会は,ソーシャルメディアを利用する公共図書館・大学図書館を対象とする,運用ポリシーに関するガイドライン“Social Media Guidelines for Public and Academic Libraries”(以下「本ガイドライン」)を公開した。
ソーシャルメディアはすでに多くの図書館で使われている。なぜこのタイミングでALAが,それも知的自由委員会がガイドラインを発表するのか。その背景には米国のトランプ大統領のTwitterの使い方に関するトラブルがある。
大統領が情報発信にTwitterをよく用いているのは周知のとおりであるが,大統領は自身に批判的な利用者をTwitterのブロック機能(投稿内容を閲覧できなくする機能)を用いて遮断していた。これについて,言論の自由を保障する米国の憲法修正第1条に反するとして訴訟が提起され,2018年5月の連邦地裁判決で原告の主張が認められた。判決では大統領のTwitterアカウント機能の一部(返信等のインタラクティブ・スペース)は「指定的パブリック・フォーラム(a designated public forum)」であると認定されている。政府が表現活動のために指定した「指定的パブリック・フォーラム」では,表現者はやむにやまれぬ政府の利益なく排除されえないとされており,そのような場に政治信条を理由にアクセスできないようにすることは,相手の言論の自由の侵害行為である,というわけである。
大統領のTwitter利用に関する裁判はまだ控訴審の段階にあり,確定されたわけではない。しかし公立の公共図書館や,公立大学の図書館がソーシャルメディアアカウントを開設し,そこで他の利用者とのやり取りを行う場合には,大統領のTwitterアカウント同様,「指定的パブリック・フォーラム」とみなされる可能性がある,と本ガイドラインでは想定している。そうなれば思想や政治的信条を理由に他の利用者をブロックすることは憲法に反する。一方で,図書館のソーシャルメディアはあくまで図書館に関するやり取りをする場であって,広告や関係のない主張など,図書館と無関係のコメントばかりがつけられる,という状態は望ましくない。そこでアカウントの利用目的はなにか,どういった行動を取るアカウントはブロックする可能性があるのか等の内容を,あらかじめ検討し,ソーシャルメディアポリシーとして定めておく必要がある,というのが本ガイドライン策定に至った背景である。問題があると思われる相手であっても,都度対応でブロックしたりしなかったりしたのでは,特定の人物のみを差別したと捉えられかねない。あらかじめ明示してあるポリシーに従って,一貫性のある対処をすることが必要なのである。
本ガイドラインではポリシーに定めるべき項目として,以下の8項目を定めている。ただし,あらゆる図書館が全項目を含んだポリシーを策定せねばならないわけではなく,個々のニーズに応じて省略や追加の余地はあるとされている。
●目的
図書館の使命と,ソーシャルメディアの利用目的,特にソーシャルメディアを通じて利用者とどの程度関与していくつもりなのか(関与レベル)を明示する必要がある。関与レベルについて,具体的には図書館による一方的な発信の場にとどめるのか,必要に応じアンケートやコメント募集を求める程度とするのか,それとも多くのトピックについて利用者と議論する場とするつもりなのか,といった例がありうると本ガイドラインでは述べている。
●想定対象者
想定するソーシャルメディアの対象者の範囲は,例えば大学図書館であれば教職員・学生・卒業生,あるいはその大学以外の研究者,ひいては一般市民まで,さまざまな範囲がありうる。公共図書館であれば,サービス対象エリアで区切るのか否かで範囲が異なる。
●職員の責任
投稿を担当する職員の行動・責任を明記する。職員はあくまで図書館全体を代表する観点から投稿することとし,個人の意見の表明は控えることが望ましい。また,職員はプライバシーへの配慮やサイバーセキュリティに通じている必要がある。
●投稿の見直し・削除
図書館がソーシャルメディアに投稿した内容について,利用者から苦情が寄せられることが考えられる。どのような場合には投稿を見直したり,削除するのか,一連の手順をポリシーで明示し,誰もが確認できるようにする。これは投稿見直しの責任が特定の職員やその上司に課されるわけではないことの明示にもつながる。
●投稿の削除やブロックが容認できる場合
どのような行動をした利用者を,投稿の削除や一時的なブロックの対象とするのか。例えば著作権侵害,猥褻な投稿,児童ポルノ,名誉棄損・中傷等は,修正第1条による言論の自由の保護対象とはならない。そのような投稿に対し,図書館は見過ごすことなく対処する,とポリシーには明示しておくことが望ましい。ただ,実際にはどのような投稿が修正第1条の保護対象外となるのか,図書館が判断することは難しい(通常は司法の判断に委ねられる)。いわゆる「論争的」あるいは「攻撃的」ではあっても,保護対象外ではない発言を,削除・ブロックする方針を定めてしまうと,修正第1条違反として訴えられる可能性がある。
ソーシャルメディアプラットフォーム自体は,そのような発言を禁止・削除するポリシーを定めているかも知れない。しかしプラットフォームの運営者は私企業であり,「指定的パブリック・フォーラム」の要件を満たさないが,公共図書館あるいは公立大学の図書館のアカウントは「指定的パブリック・フォーラム」とみなされる可能性がある。よって,プラットフォーム自体の方針として禁じられているからといって,「図書館が」論争的・攻撃的な発言者をブロックすることは認められない可能性がある。
●ポリシーに反する投稿への対処
ポリシーに反する投稿にどう対処するかはポリシー内に明記する必要がある。これについては法律家と協議して作成する必要がある。例えば,図書館はなぜブロックされているかを利用者に説明し,異議申し立ての手順を伝え,十分な猶予期間を設ける必要がある。過去のコメントに基づいて利用者を永続的にブロックすることは,修正第1条違反となる可能性がある。
●免責事項
ソーシャルメディア上のいかなるコメントも図書館や管理者,図書館員の思想や立場を反映したものではない,と明言する必要がある。
●プライバシー
図書館員は使用するソーシャルメディアプラットフォームのプライバシーに関する取り組みと,それが利用者のプライバシーにとって持つ意味について理解するよう努めなければいけない。ソーシャルメディアを用いて人々の意見を求めることがあるが,プラットフォーム側でのプライバシーの保護を保障できない場合には,そのことをポリシー中に明言する必要がある。例えば,「ソーシャルメディアプラットフォームのプライバシーポリシーについては,そちらを参照いただきたい」等と書くことが考えられる。なお,州や機関によってはデータの保護に関するポリシーが存在する場合があるので,法律家に相談する必要がある。
ガイドラインの結語では,図書館はこのガイドラインをよく検討した上でソーシャルメディアを利用すること,法律家と協議してソーシャルメディアポリシーを策定することを推奨している。本ガイドラインは公的機関のソーシャルメディアアカウントが言論の自由を守るべき「指定的パブリック・フォーラム」である(可能性がある),という米国の事情を反映して策定されたものであり,その背景は日本をはじめ他国にもそのままあてはまるものではない。とはいえ,本ガイドラインに従うことは,ソーシャルメディア上でのいわゆる「炎上」を防ぐ上でも有効である。ソーシャルメディアを現に利用している,あるいは今後の利用を検討している図書館にとっては,国を問わず参考になるものと考えられる。
同志社大学免許資格課程センター・佐藤翔
Ref:
http://www.ala.org/news/member-news/2018/07/new-intellectual-freedom-resources-libraries-social-media-and-controversial
http://www.ala.org/advocacy/intfreedom/socialmediaguidelines
https://www.bbc.com/japanese/44234656
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-05-24/P97TZ76JIJUO01
※本著作(E2089)はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方はhttps://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.jaでご確認ください。