E2055 – 納本制度70周年記念国際シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.353 2018.08.30

 

 E2055

納本制度70周年記念国際シンポジウム<報告>

 

 2018年7月11日,国立国会図書館(NDL)は,日本の納本制度が70周年を迎えたことを記念し,東京本館において,国際シンポジウム「納本制度の過去・現在・未来-デジタル化時代における納本制度の在り方について-」を開催した。

 基調講演では,田村俊作氏(慶應義塾大学名誉教授)が,「納本制度の意義とこれから」と題し,納本制度の成立から近年のネットワーク系電子出版物(ウェブサイト,オンライン資料(インターネット上で出版される電子書籍・電子雑誌等)等)への対応に至るまでを概説した。環境の変化の中で,納本制度を活用して国の出版文化を保持し発展させるためには,関係者間の互恵関係を基盤にした合意形成が必要であると述べた。

 基調講演に続き,ドイツ,オーストラリア及び日本における納本制度の歴史と現状,今後の課題が報告された。

 まず,ユンガー(Ulrike Junger)氏(ドイツ国立図書館(DNB)収集書誌部長)が,「ドイツ国立図書館におけるデジタル文化資産の収集及び管理-課題と解決-」をテーマに講演した。ドイツは,2006年にネットワーク系電子出版物を制度収集の対象に加えた(CA1613参照)。オンライン資料については網羅的収集を目指し,2017年は約100万点(電子書籍約22万5,000点,電子新聞約37万点,電子雑誌の記事約38万点等)を収集した。キーワードは「標準化」「自動化」「大量処理」である。本体ファイルと既定の形式・項目に従って記述されたメタデータを一括収集,長期保存の観点から本体ファイルの形式やDRM(技術的制限手段)の有無を自動的にチェックし受入レベル(受入にあたってのリスク評価)を判定,メタデータから目録を自動生成するワークフローを備えている。ウェブサイトについては,これまでに約600万サイトをクロールで,約1万5,000点を選択的に収集した。網羅的収集は困難であり,「ドイツの継承に必要な網羅性」を目指して収集対象を戦略的に特定すべく検討を行っている。未来の利用者のためにデジタル文化遺産を保存するには,収集対象,ワークフロー,インフラ等の「戦略的な計画」が必要であるとした。

 次に,バッテン(Meredith Batten)氏(オーストラリア国立図書館(NLA)資料管理部国内資料課課長補佐(特別コレクション担当))が,「オーストラリアにおける納本制度-紙からデジタルへ-」をテーマに講演した。オーストラリアは,2016年にネットワーク系電子出版物を制度収集の対象に加えた(E1793参照)。オンライン資料については,電子納本システムにより納入から提供までの工程をほぼ自動化し,発行者が付与したメタデータを再利用して目録を作成する。発行者は納入時に本体ファイル(長期保存を可能とするためDRMを付していないもの)へのアクセス条件を選択可能であり,約40%は館外からのアクセスが許可されている。この2年で,電子書籍約1万1,000点,電子雑誌約1,500タイトル,電子地図約2万6,000点等を収集し,最近では,納本制度により収集した図書・雑誌の約40%をオンライン資料が占める。電子納本の成功要因は,図書館による発行者の協力を得るための取組と信頼関係の構築にあるとした。ウェブサイトについては,1996年から選択的収集によるアーカイブを実施,2016年以降は発行者の許諾なしで収集可能となり,計90億ファイル以上を収集している。

 続いて,山地康志(国立国会図書館収集書誌部長)が,「国立国会図書館の収集資料と納本制度」をテーマに講演した。NDLは,2017年度末時点で,納本制度を中心に収集した4,000万点以上の有形資料を所蔵している。あわせて,約1万2,000タイトル・14万件のウェブサイトと100万点以上のオンライン資料を収集しているが,有償又はDRMありのオンライン資料は,長期保存等に係る技術的問題や出版ビジネスへの影響に対する配慮の必要性から,当面,制度収集を保留している(E1464参照)。NDLによる資料の収集と保存は,出版物へのユニバーサルアクセスを保証する公共的な基盤として意義があり,多くのステークホルダーとの連携協力により収集対象の拡充を図っていく必要があるとした。

 質疑応答では,電子出版物の収集と出版ビジネスとの関係,電子出版物のアーカイブにおける国内外の他機関との連携が話題となった。各国とも,商業出版社を含めた発行者との信頼関係構築を重要視しており,国境を越えて膨大な量が流通している電子出版物の性質上,収集・保存に当たっては,関係機関との連携協力が不可欠とした。

 最後に,田村氏がシンポジウムを総括し,デジタル化時代の納本制度の課題として,資料提供者側との関係構築と制度自体の継続性を挙げ,変化に対応する納本制度の仕組みと効果的な運用を常に考え,資料保存の技術的な問題に耐えていく必要があるとした。

 資料や情報のデジタル化に伴い,納本制度は世界的にも大きな転換期を迎えている。本シンポジウムは,出版形態の多様化や時代の変化の中で国立図書館が果たすべき役割とは何か,改めて考える機会となった。

収集書誌部収集・書誌調整課・佐藤菜緒惠

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201807symposium.html
http://www.dnb.de/EN/Wir/Sammelauftrag/sammelauftrag_node.html
http://www.dnb.de/EN/Netzpublikationen/netzpublikationen_node.html
https://doi.org/10.11501/1000388
https://www.nla.gov.au/legal-deposit
http://www.ndl.go.jp/jp/collect/deposit/deposit.html
http://www.ndl.go.jp/jp/collect/internet/index.html
http://www.ndl.go.jp/jp/collect/online/index.html
E1793
E1464
E870
E922
CA1613
CA1894
CA1537