E870 – オンライン出版物の法定納本制度の行方は?:DNBの試みスタート

カレントアウェアネス-E

No.141 2008.12.24

 

 E870

オンライン出版物の法定納本制度の行方は?:DNBの試みスタート

 

 ドイツ連邦政府のメルケル首相(Angela Dorothea Merkel)は2008年11月17日,ドイツ国立図書館(DNB)へのオンライン出版物(unkorperlichen Medienwerken)の法定納本に関する規定を追加した,新たな納本令を公布した。この納本令は2006年6月29日に公布されたドイツ国立図書館法(CA1613参照)により設けられた,オンライン出版物の納本制度の詳細について規定したものである。またこれを受けてDNBも,オンライン出版物納本制度に関するFAQを公開している。

 FAQによると,オンライン出版物の収集分野は,公衆ネットワーク上で利用可能な全てのテキスト,画像および音声による作品としている。また提出義務が課せられる資料として,オンライン上に存在し,かつ紙の出版物でもそれに相当するものがあるもの,およびウェブに特有のメディアの作品であるとしている。具体例としては,電子ジャーナル,電子書籍,電子学位論文,デジタル化したコンテンツ,音楽ファイル(ドイツ音楽資料館が収集),ウェブサイト,動的なコンテンツを挙げている。フィナンシャル・タイムズ紙によると,法定収集の具体的な対象は,「ドイツ国立図書館が容量や公益性を勘案して規定する」とされている。ただしDNBは現時点では,技術的に未完成であるため試行段階としており,オンライン出版物の大規模な収集・目録化・保存を行う手順の開発に取り組んでいるほか,ウェブサイト上のアプリケーションや動的なファイルの収集(ハーベスティング)についても,テストを進めているところである。試行段階では,電子ジャーナル,電子書籍,電子学位論文の3種類を対象としており,すでに約4万点の電子書籍,6万点の電子学位論文,および1,200タイトルの電子ジャーナルが収集されているという。

 なお今のところ,私的な写真や休日の記録といった個人で楽しむためのコンテンツや,商品やサービスを顧客に紹介するコンテンツなど商業目的のものは対象外となっているが,個人が作成したコンテンツであっても,時事問題を取り扱っていたり,公共の利益があるとされる個人情報を扱うウェブサイトについては,法定納本の対象になりうるとしている。

 フィナンシャル・タイムズ紙やシュピーゲル紙によると,この計画が明らかになった当初は,個人が運営するウェブサイトやブログも納本義務の対象となること,納本義務に敏速に応じなければ最高で1万ユーロ(約124万円)の罰金が科せられる可能性があること,納本に際して行わなければならないコンテンツの変換や圧縮に手間が掛かることから,ブロガーや通信業界団体から反発の声が挙がっていた。また技術的な観点から,大量のコンテンツを収集し,索引を付与したり保存することが可能であろうか,といった声も存在したという。だが現在ではブログコミュニティも,法定納本によってオンライン出版物の収集・保存の実施を認める方向に傾きつつあると報じられている。

Ref:
http://bundesrecht.juris.de/bundesrecht/pflav/gesamt.pdf
http://www.d-nb.de/netzpub/index.htm
http://www.heise.de/newsticker/Verordnung-zur-Pflichtablieferung-von-Netzpublikationen-tritt-in-Kraft–/meldung/117817
http://www.spiegel.de/netzwelt/web/0,1518,586036,00.html
http://www.ft.com/cms/s/0/61e46cee-ba92-11dd-aecd-0000779fd18c.html
CA1613