E1998 – 東寺百合文書データミーティング<報告>

カレントアウェアネス-E

No.342 2018.02.22

 

 E1998

東寺百合文書データミーティング<報告>

 

 京都府立京都学・歴彩館(E1906参照)は,2017年10月26日に「東寺百合文書データミーティング」を開催した。当館は日本の中世史研究では著名な古文書である東寺百合文書を所蔵しており,2013年から2014年にかけて1万8,704点の文書すべてをデジタル化,2014年3月にウェブサイト「東寺百合文書WEB」を開設し,およそ8万ファイルのデジタル化した文書画像を公開している(E1561参照)。最近になって,同ウェブサイトの背後にある目録データそのものの公開や,画像ファイルのIIIF化の要望が届き,このうち目録データについては10月10日に公開し,データの加工や配布,ウェブサイトやサービスに組み入れて公開することも可としている。このように当初想定していた「人が操作し,人が見るウェブサイト」とは異なる需要への考慮も必要となってきている。そこで,歴史学など人文学分野の研究とシステムの企画・構築との両方に関わる人から話を聞き,今後のデータ整備やシステム改修に活かしたいと考えてこの「東寺百合文書データミーティング」を企画した。筆者のほか,人文情報学研究所の永崎研宣氏,国立歴史民俗博物館の橋本雄太氏,東京大学史料編纂所の山田太造氏,国立歴史民俗博物館の後藤真氏の5人が報告し,その後に質疑応答を行なった。

●報告1「東寺百合文書,いまあるデータはなぜあるか」

 まず最初に筆者から,東寺百合文書とはどういうものか,東寺百合文書WEBの背後にある目録データ全体を公開するに至ったきっかけ,これらデータの由来や当館のような研究機関ではなく資料の保存および利用者に向けた公開を目的とする組織でできること・難しいことなどについての報告を行なった。

●報告2「東寺百合文書の画像活用―国際的な画像共有の枠組みIIIFを通じて―」

 永崎氏からは,諸機関で多数のデジタルアーカイブが構築されているにもかかわらず,それぞれが孤立しているため,いまひとつデジタルの利点を活かせていない現状への解として,データ提供者と利用者との間をつなぐ「サービス提供者」という中間層が期待されること,IIIFがその牽引役になり得るのではないか,との報告があった。

●報告3「歴史災害史料のオンライン翻刻プラットフォーム『みんなで翻刻』の紹介」

 橋本氏からは自身の属する研究会が運用する,複数の人で史料の翻刻をすすめるためのウェブプラットフォーム「みんなで翻刻」の報告があった。くずし字学習支援アプリKuLAとの連携や,参加者が互いに翻刻文の添削を行なうことで訓練と翻刻作業への参加が合わせてできる,といった設計,参加者の特徴やこれまでの成果が紹介された。

●報告4「古文書データの次の”切り口”を探す―古文書をさらに利活用していくために―」

 山田氏からは,文書に到達するための通常の方法(キーワード検索・箱や巻など文書群ごとの目録体系に沿った検索,和暦・西暦など時間データからの検索など)とは異なる新たな「切り口」についての報告があった。歴史学などの人文学が人工知能やビッグデータ,機械学習といった昨今話題の技術と無縁のままでいられるわけではなく,このようなテクノロジーを古文書データにどう応用し,どういう新しい発見や研究につなげていくか,との話であった。

●報告5「歴史資料の画像と目録オープンデータがもたらすもの―人文学の未来にむけて」

 後藤氏からは,江戸時代の豪商・吉田家編纂の古器物図譜『聆涛閣集古帖』の中に東寺百合文書との比較を試みたいものもあるということから,両者の資料データをIIIF化し,当館が公開している東寺百合文書データを国立歴史民俗博物館の検索システム・ビューアを通じて利用,といったようなあり方の可能性を示された。また,デジタル環境下で人文学研究を進展させるためには,資料所蔵機関から画像データ・目録データがオープンなかたちで安定・継続して提供されることが重要であるとの指摘もあった。

 その後の質疑では,「みんなで翻刻」へ多くの質問が集まった。歴史学の世界では,史料の翻刻は研究者が個人で行なう基礎作業,という認識が強いが,作業の量や質に限界があるのも確かであり,それを解決する何かが必要とされていることの現われであろう。

 今回,いずれの報告でも示されたのは,資料所蔵者サイドが公開するデータをもとに,ユーザーサイドが新たなシステムをつくって利用したり,さらに外に向けて公開したり,といった動きである。当館では技術・コスト・運営に必要な知識などの制約から,多様かつ変化する要求にはなかなか対応しきれない。「必要にして十分」な範囲を見定めて機能を実装し,外部から連携を行ないやすいシンプルなものであることが重要であり,そのようなシステムが期待されていると感じた。

京都府立京都学・歴彩館・岡本隆明

Ref:
http://hyakugo.kyoto.jp/hyakuwa/tjhm_dm
http://hyakugo.kyoto.jp/
http://hyakugo.kyoto.jp/hyakuwa/data_download
https://honkoku.org/
https://www.rekihaku.ac.jp/research/list/joint/2017/reitoukaku.html
E1906
E1561