E1980 – 日本のデジタル人文学の国際学会JADH2017<報告>

カレントアウェアネス-E

No.338 2017.12.07

 

 E1980

日本のデジタル人文学の国際学会JADH2017<報告>

 

   2017年9月11日から9月12日にかけて,同志社大学(京都市)にて,日本デジタル・ヒューマニティーズ学会(JADH)年次国際学術大会JADH2017が開催された。この大会は2011年に大阪大学にて開催された人文情報学推進協議会主催の大会を継承し,2012年からはJADHの大会として毎年英語にて開催されているものである。国際的に活躍する10の国・地域のデジタル人文学研究者からなるプログラム委員会と,開催校である同志社大学を中心とした開催実行委員会の下,運営を行った。例年は三日間の開催で初日にワークショップを行っていたが,今回は初めて,二日間のみでワークショップなしでの開催となった。本年は,コラボレーションに焦点をあてた“Creating Data through Collaboration”というテーマの下,基調講演では,3万タイトル,50億字を超える中国古典等の大規模クラウドソーシング翻刻サイトctext.orgのためのシステムの構成,そして,それがなぜ選択されたのか,ということを中心とする講演が,このサイトの主宰者兼開発者スタージョン(Donald Sturgeon)氏(米・ハーバード大学)によって行われた。さらに,マイクロタスク・クラウドソーシングを様々なコンテンツに適用するCrowd4Uプロジェクトによる企画セッションが開催され,国立国会図書館(NDL)におけるL-Crowdによる書誌情報の誤同定のチェックや国デコImage Wallでのデジタル翻刻などの話題が採り上げられた。

   一般申込による査読を経た発表は39件,うち16件はポスター発表であり,口頭発表はすべて一つの発表会場にて実施された。ポスター発表に関しては,例年通りPoster Slamとして,各発表者が壇上にて1分ずつ自分のポスター発表の内容を参加者全員の前で紹介してから,ポスター会場に移動するというスタイルで行われた。いずれも,活発な議論が行われた。特に海外で行われている日本研究に関する発表がいくつかあったことは,そうした研究に対して日本での発表の場を提供できているという点で興味深く,また,意義を感じたところであった。

   他にも,様々な興味深い発表がみられたが,ここでは特に,パネルセッション「変容するデータ:デジタル人文学における学際的な取組のデータ駆動型再構成」(Transformative Data: Data-Driven Reconfigurations of Interdisciplinary Work in the Digital Humanities)におけるKristin Allukian氏(米・南フロリダ大学)の発表「イラスト,イメージ,そしてアーカイブ:アメリカの参政権絵はがきにおける男性風刺画へのフェミニスト・デジタル人文学によるアプローチ 1900-1920」(The Illustration, the Image, and the Archive: Feminist Digital Humanities Approaches to Caricatures of Masculinity in American Suffrage Postcards, 1900-1920)を紹介しておきたい。

   1902年から1915年にかけての絵はがきの黄金時代,絵はがきは現代のSNSのようには速くはないが熱烈にやりとりされ,それはほぼ女性の参政権運動の時期と重なっていた。そこで,Allukian氏はこの時期にやりとりされた女性参政権に関わる絵はがきの画像を学生たちとともにOmekaで構築したウェブサイトに掲載し,様々なタグを付与し,さらにそれらのタグをエクスポートし,デジタルツールを用いて分析した。そして,女性参政権反対の絵はがきにおける無力な父親のイメージは20世紀の大衆文化にも様々に見られるものであり,女性参政権が実現した後には,絵はがきの流行が下火となるとともに,女性参政権に尽力した女性達が様々な媒体で描かれるようになった,と提起した。

   この発表で興味深いのは,その分析に用いられた絵はがきの画像とそこに付与されたタグを,Omekaサイト上で実際に確認できるようになっているという点である。この種の研究においては,タグの選定の仕方が分析結果に直接影響を与えるため,それをどのように選定するか,が極めて重要になるが,誰もがそれを実際に検証できるようになっている。たとえば,「反女性参政権」(ANTI-SUFFRAGE),「家事」(Housework),等のタグが付与された画像を見てみると,それぞれの画像にはどのようなタグが付与されているのかを確認することもできる。デジタル技術に詳しくなくとも簡単に利用できるOmekaを使って学生たちと共同で成果を出しているという点だけでなく,研究倫理の文脈で問題となる研究データの検証性を確保できているという点でも興味深い発表であった。このようにしてデジタル媒体を活かした研究の発表が日本からも様々に出てくることを期待したい。

   2018年の年次国際学術大会は,東京都千代田区の一橋講堂で,9月9日から9月11日の日程で開催予定となっている。そして,この年は,人文学のためのデジタルテクスト構造化のガイドラインを策定するText Encoding Initiative(TEI)コンソーシアムが30年超の歴史の中で初めて非欧米圏で開催する年次会員総会との同時開催となる。海外からの参加者も例年以上に多くなり,また,特にデジタル文献研究に関する深い議論も活発に展開されることが期待される。この方面に関心がある方も,ぜひ参加されたい。

一般財団法人人文情報学研究所・永崎研宣

Ref:
http://conf2017.jadh.org/
http://conf2017.jadh.org/files/Proceedings_of_JADH2017.pdf
https://thesuffragepostcardproject.omeka.net/
https://thesuffragepostcardproject.omeka.net/items/browse?tags=ANTI-SUFFRAGE
https://thesuffragepostcardproject.omeka.net/items/browse?tags=Housework
http://conf2018.jadh.org/

 

 

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