E1899 – オルトメトリクスに関するNISO推奨指針

カレントアウェアネス-E

No.322 2017.03.23

 

 E1899

オルトメトリクスに関するNISO推奨指針

 

 2016年9月22日,米国情報標準化機構(NISO)は,オルトメトリクス(Altmetrics)に関する研究開発プロジェクト“NISO Alternative Assessment Metrics Project”(代替的な評価指標プロジェクト:AAMP)の第2期の成果をまとめた推奨指針(Recommended practice),“Outputs of the NISO Alternative Assessment Metrics Project”を公開した。

 AAMPでは,第1期の活動(E1593参照)で明らかになった課題を受けて,第2期では3つのワーキンググループに分かれて検討を重ねてきた。まとめられた今回の推奨指針は,1. オルトメトリクスの定義と使用例,2. 学術コミュニケーションにおける代替的成果物,3. データメトリクスに関する検討と推奨事項,4. 永続的識別子,5. オルトメトリクスに用いるデータ品質に関する行動規範,という5つのセクションから成り立っている。各セクションの概要は以下のとおりである。

 セクション1ではオルトメトリクスの定義を明確化するとともに,関係者ごとに,どんな用途でオルトメトリクスを使い得るか,具体例を列挙している。まず語の定義について,本指針ではオルトメトリクスとは,学術研究に関する複数のデジタル指標をまとめて扱うための広範な用語であるとしている。ここでいうデジタル指標とは,研究者以外の人々も含む,研究のエコシステムにおける多様な関係者と,研究成果との関わりを指標化したものである。オルトメトリクスはその評価対象とする成果物について,学術論文に限らない様々な形式を含み得るとし,また,人々と成果物との様々な関わり合い(例えばソーシャルメディアからの言及,文献管理サービスへの登録,ニュースメディアでの報道など)の中から何を集計し,評価に用いるかについても多様であり得る点で,学術論文という限られた成果物について,他の学術論文からの引用という関わり合いのみに基づき評価する,従来の評価指標とは区別される,としている。このようなオルトメトリクスの主な用途は「優れた成果を示す」,「研究評価」,「発見(研究成果や研究者の発見を促す)」の3つである。例えば図書館員によるオルトメトリクスの使用例であれば,「機関リポジトリにダウンロード数等の閲覧機能を加えることで,研究者の登録を促す(優れた成果を示す)」,「雑誌や掲載コンテンツの利用統計をモニタリングすることで購読すべきものを決定する(発見,研究評価)」等の活用例が示されている。

 セクション2では学術的な成果にはどんなものがあり得るのか,検証した結果を紹介している。検証の結果そのものは表にまとめられ別のウェブサイトで公開されているが,学術的な成果の中には出版物のほかにも,より基礎的な科学的貢献(新種発見,新たに開発した細胞株など),プログラムやソフトウェア,データ,教育,学会等のイベント開催・貢献など様々な形があり得るとしている。

 セクション3は論文以外の学術的な成果物の中でも,オープンサイエンスの潮流の中で注目が集まっている,データメトリクスに関する検討内容と推奨事項を扱っている。ここではデータメトリクスの対象となるデータとは,アクセス・ダウンロード可能な形で公開されている,管理がなされたデータセットであり,永続的識別子とメタデータが付与されていることが望ましいとしている。データセットの中身は必ずしも数値である必要はなく,インタビューを文字起こししたデータ等も含み得る。また,データの引用(Data Citation)とは学術的な成果物の参照リスト(Reference)の中で引用すること,データの利用(Data Usage)とは公開されたデータセットにアクセスする,またはダウンロードすることである,といった定義もなされている。そしてデータメトリクスに関する主要な推奨事項としては,

  • 研究データに関する指標は可能な限り広く公開されるべきであること
  • データの引用はForce11のデータ引用に関する宣言に則って成すべきこと
  • 研究データの利用統計についてはCOUNTERに準拠した標準が必要であるが,研究データ特有の事項を考慮すべきであること
  • 研究助成機関はデータリポジトリが相互運用性のために標準を導入したり,メトリクスを取り入れたりするのを支援する仕組みを用意すること
  • 研究データプラットフォームはAPIによるデータへのアクセスをサポートし,モニタリングすべきこと
の5点が示されている。

 セクション4は学術コミュニケーションの中で用いられている永続的識別子について,現状を調査し,まとめた結果を紹介するセクションであるが,結果そのものは外部のウェブサイトで公開されている。

 セクション5ではオルトメトリクスのデータの品質に関する行動規範について,推奨事項がまとめられている。具体的にはまず透明性について,

  • どのようにデータを生成,収集,管理しているのか
  • データをどう集計し,指標を導出したのか
  • いつ,どのくらいの頻度でデータを更新したのか
  • データにはどうすればアクセスできるか
  • データの品質はどうチェックしているのか
について,情報を公開すべきであるとされている。また,データの再現性については,

  • 提供するデータは常に同じ方法で生成されるべきこと
  • 生成方法を変えた場合はその内容と影響を記録すること
  • データのエラー修正についても記録すること
  • 同時にアクセスした利用者に提供されるデータは同一であるようにするか,少なくとも,異なる利用者グループに提供したデータが異なる場合には,その違いを記録すること
  • データを独自に検証できるかどうか,またどうすればできるかの情報を提供すること
が必要であるとされている。さらにオルトメトリクスの正確性について,

  • データが何に基づくものか明示されていること
  • 既知のエラーを特定・修正すること
  • 提供しているデータについて,なんらかの制限がある場合は明示すること
が必要である,としている。なお,本指針ではTwitter等のオルトメトリクス集計の元となるデータの提供者(altmetric data providers)と,Altmetric.com等,データを集計してオルトメトリクスを閲覧できるプラットフォームを提供するもの(altmetric data aggregators)を分けており,各推奨事項について,データ提供者は従うことが奨励されるにとどまるが,プラットフォーム提供者は強く期待される,としている。末尾には付録として,これら推奨事項をまとめ,プラットフォーム提供者等が自ら書き込んで自身の状況を公開できる書式が付与されており,幾つかのプラットフォーム提供者・データ提供者が実際に回答したサンプルもあわせて示されている。

 オルトメトリクスの定義については,筆者も含め「学術論文へのソーシャルメディア上での言及数を集計した指標」と範囲を狭めがちであるが,本指針でNISOは図書館員による利用統計の確認や機関リポジトリを対象とする取り組み,データメトリクス等もその範疇に含むという,オルトメトリクスを最大限広く捉える立場を示した。データ引用に関する推奨事項については今後,研究者自身がそれに従うべきであるのはもちろん,機関リポジトリで研究データを扱うことを考える場合には,図書館員等が考慮すべき事項(永続的識別子提供,メタデータ付与,APIによるデータへのアクセス提供等)を含んでいる。データ品質に関する行動規範は,各サービスの準拠状況をチェックすることで,契約する,あるいは研究者に推奨すべきオルトメトリクスサービスを見極める際に有益である。このように,本指針は今後のオルトメトリクスに関する実践のガイドラインとして機能することが期待できる。

同志社大学免許資格課程センター・佐藤翔

Ref:
http://www.niso.org/apps/group_public/download.php/17091/NISO%20RP-25-2016%20Outputs%20of%20the%20NISO%20Alternative%20Assessment%20Project.pdf
http://www.niso.org/news/pr/view?item_key=72abb8f785b18bbe2cdfdb8b6a237c21f75e6a2f
https://sites.google.com/a/niso.org/scholarlyoutputs/home
https://www.force11.org/group/joint-declaration-data-citation-principles-final
https://sites.google.com/site/nisopersistentids/
E1593

 

 

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