E1861 - 文化遺産国際協力コンソーシアム設立10周年

カレントアウェアネス-E

No.315 2016.11.24

 

 E1861

文化遺産国際協力コンソーシアム設立10周年

 

  文化遺産国際協力コンソーシアム(以下,コンソーシアム)は,海外の文化遺産保護に関する日本国内の政府機関・教育研究機関・NGOなどの連携・協力を推進するネットワーク組織で,会員は2016年11月の時点で総勢431名,29団体にのぼり,文化庁の委託事業として運営されている。日本の文化遺産国際協力に資するための(1)会員間のネットワーク構築,(2)調査研究,(3)情報の収集と提供,(4)広報・普及を主なミッションとして活動しており,2016年6月に設立10周年を迎えた。本稿では,これまでのコンソーシアムの取組みと,10周年記念シンポジウムについて報告する。

   2006年の設立以来,コンソーシアムでは事業を統括する運営委員会,具体的な事業計画や地域横断的な議題を扱う企画分科会を毎年複数回開催しているほか,10年の間に充実させてきた地域分科会(西アジア,東南・南アジア,東アジア・中央アジア,アフリカ,欧州,中南米)を定期的に開催し,世界各地域で展開される事業内容や課題の共有,発展のための協議を行っている。運営委員会・分科会委員として総勢70名を超える国内の専門家が参加し,それぞれの会議を相互の情報共有と連携強化の場として活用している。そして会員は,会議やシンポジウム,研究会での報告,調査への参加等コンソーシアム活動の様々な場面に関わっている。

   また,調査研究に関しては,海外の文化遺産の保護状況を調査する協力相手国調査や,支援実施国の国際協力体制を調査する国際協力体制調査,自然災害により破壊された文化遺産の復旧状況を調査する被災文化遺産復旧調査等,これまで25か国以上の調査を行っており,これらの調査から関係機関が実施あるいは出資する事業につながったケースも多くある。こうした調査の成果を報告書としてまとめ広く公開すると同時に,日本の機関が実施してきた(あるいは進行中の)国際協力事業についての情報収集も行い,日本全体の文化遺産国際協力の実態の把握にも努めている。

   これらの活動を通して国内外の専門家や関係者に対し情報の共有,ネットワークの構築を推進してきたが,同時に広く文化遺産国際協力活動の意義を周知する活動も,年1回のシンポジウム,年2回の研究会(E1353参照)という形で,設立当初から継続して行っている。

   本年のシンポジウム(文化遺産国際協力コンソーシアム設立10周年記念「文化遺産からつながる未来」)は,これまでのコンソーシアムのあゆみを振り返るとともに,次の10年に向けた課題と展望を認識する目的のもとに開催された。

   冒頭で,故・平山郁夫初代会長とともにコンソーシアム設立のきっかけとなった,「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」の成立に尽力した古屋圭司衆議院議員からの講演があった。なお,同法律は,文化遺産国際協力の推進を図り,世界における多様な文化の発展に貢献するとともに,日本の国際的地位の向上に資することを目的として議員立法として提出されたものである。次に,石澤良昭会長が過去10年間の取組みを紹介するとともに,日本が積極的に国際協力を展開することの意義を改めて説明し,国内関係者のさらなる連携強化の必要性を呼びかけた。その後,岡田保良副会長より西アジアの紛争地域における日本の国際協力活動のあゆみと人材育成の取組みについて報告があり,東京藝術大学の宮廻正明教授からは,最新復元技術の紹介を通じた今後の文化遺産の保存と公開についての提言が行われ,さらに独立行政法人国際協力機構(JICA)の江島真也企画部長(当時)からは開発と文化遺産保護を有機的に結びつけて国際協力に取り組んでいくことの重要性が論じられた。

   ディスカッションでは,「コンソーシアムの課題と展望」と題し,日本の国際協力の特徴とそれを活かした文化遺産国際協力のありかた,文化遺産保護を担う次世代の育成・教育普及などについて活発に議論し,実現のためにコンソーシアムが担うべき役割について意見交換を行った。日本の文化遺産国際協力事業が抱える課題としては,事業の多くが数年単位の短いスパンでの実施であり継続的でない点や,各ファンドが設ける国際協力事業の枠組みに,文化遺産保護という分野が適用しづらいこと,人材育成の拠点となる施設の不在などが挙げられた。同時に,現地(協力相手国)の人々の防災意識がまだあまり高まっていないこと,研修参加者が後に離職してしまうケースが多いこと,政権交代による政策の転換など,現地側に認められる問題なども提起され,日本としてこういった問題にどのように対応していくかについても議論が行われた。今後の展望に関しては,現地の声を丁寧に聞き取りニーズに合った事業を展開するという日本の国際協力の特徴を伸ばしながら,その地域社会の経済振興戦略の中に文化遺産保護を位置づけた事業を展開していくことが,今後我々が目指すべき協力のひとつのあり方であるとの提言があった。

   今回のシンポジウムでは,日本のこれまでの国際協力の実績が評価されると同時に,今後の課題が示された。この課題解決のため,設立10年を経た文化遺産国際協力コンソーシアムは,様々な人的ネットワークを構築し,活動を提供するという設立以来の使命をより一層推進する必要があることが確認された。今後ますます多くの関係者の協力と,一般の方々の関心を得ることができれば幸いである。

文化遺産国際協力コンソーシアム事務局

Ref:
http://www.jcic-heritage.jp/
http://www.jcic-heritage.jp/about/
http://www.jcic-heritage.jp/jcicheritageinformation20160092901/
http://www.jcic-heritage.jp/publication/
E1353