E1859 – 「旅の図書館」リニューアルオープンへの取り組み

カレントアウェアネス-E

No.315 2016.11.24

 

 E1859

「旅の図書館」リニューアルオープンへの取り組み

 

 旅の図書館は1978(昭和53)年,財団法人日本交通公社が開設した旅・観光をテーマとする数少ない専門図書館の一つである(「観光文化資料館」として開設,1999年に現名称に改称)。長らく旅の下調べをする方から観光に関する研究者まで幅広くご利用をいただいてきたが,2015年10月から1年間の閉館期間を経て東京都港区南青山に移転し,2016年10月3日にリニューアルオープンした。今回のリニューアルは,新社屋への移転を機に,これまで別々の場所にあった当財団本部総務部門・研究部門との一体化を実現したもので,それまでの「テーマある旅を応援する図書館」から「観光の研究と実務に役立つ図書館」をコンセプトとする新たな図書館への転換を図ったものである。構想,収蔵方針の見直し,独自分類の構築と本部資料室資料の統合,図書館を含めた新社屋の建設,書架計画等,構想からリニューアルオープンまでに約2年半の準備期間を要した。

 そうした新たな図書館を実現するための取り組みの一つが,観光分野における独自分類の構築である。旧館では,多くの公共図書館や大学図書館と同様に日本十進分類法(NDC)を用いてきたが,あらゆる学問領域にまたがって観光の諸事象を分析・研究する極めて学際的な性格をもつ観光研究資料を,NDCにおいて第三次区分の一つにすぎない「689(観光事業)」の中にすべて収めることには無理があった。加えて,まだ観光学の体系が十分確立されていない日本においては,そのまま適用できる分類法がない。このため当館では,本部研究員とともに約1年をかけて検討を行い,「T(Tourism)分類」という観光研究資料を分類するための独自分類を構築した。この分類では,観光原論・概論,観光者・観光活動,観光地・観光資源,観光産業,観光計画・開発,観光政策,観光経営・経済,観光と社会・文化・環境に基本分類し体系化している。独自分類を構築したことで観光研究資料の管理は格段に容易になり,独自分類を用いて書架に配架することにより利用者にとっても資料が探しやすくなった。

 当館では現在,「T分類」の他,当財団の刊行物や調査研究報告書,古書・稀覯書など,当館の特徴的な資料(財団コレクション資料)のためのもう一つの独自分類「F(Foundation)分類」,基礎的な文献の分類に用いる「NDC分類」と合わせて三つの分類方法によって蔵書の管理を行っている。

 リニューアルした旅の図書館は,新着図書や雑誌,ガイドブック,地図・パンフレットなど新しい観光情報にふれることのできる1階の「ライブラリープラザ」と,観光に関する専門資料を収蔵する地下1階の「メインライブラリー」の二つのフロアで構成されている。新たな図書館は,単なる資料の収蔵にとどまらず,当財団本部機能と一体的な運営を行うことを通して,学術研究機関としての組織活動の見える化を図るとともに,観光研究・情報のプラットフォームとしての役割を担っている。1階は当財団本部への来訪者を迎える総合受付・フロントとしての機能を合わせ持っており,また地下1階は,図書のある空間の魅力を活かして,様々なテーマでゲストスピーカーを招き参加者が気軽に語り合える場を創出すべく旧館時代から開催している「たびとしょCafe」やシンポジウムなど,観光の研究者や実務者が集まり交流できる場としても活用を図っている。

 蔵書については,当財団の研究員が研究活動の中で収集していた本部資料室資料を統合し,蔵書数は約3万5,000冊から約6万冊へと増加した。これらは可能な限り閲覧可能とした。

 主要な蔵書には,T分類で分類された観光研究資料の他,国内外各地の地域研究資料や観光関連統計資料,戦前を中心とした旅行・観光に関する古書・稀覯書,観光関連学術誌・研究雑誌などがある。また旅・観光の専門図書館ならではの蔵書として,国内外のガイドブックや機内誌,時刻表,旅行商品パンフレットなどがあり,これらのバックナンバーは過去にさかのぼった研究やレビューにも利用することができる。

 「観光研究の種」や「観光の実務のヒント」を見つけるために,また奥深い旅・観光の魅力を味わうためにぜひご来館いただきたい。

公益財団法人日本交通公社旅の図書館・大隅一志

Ref:
https://www.jtb.or.jp/library
https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/tourism-culture/tourism-culture-231renewal-library