E1852 – 「ウィキペディア・タウン by京都府立南陽高等学校」

カレントアウェアネス-E

No.313 2016.10.20

 

 E1852

「ウィキペディア・タウン by京都府立南陽高等学校」

 

1.はじめに
   近年,Wikipediaを使って,市民参加型で地域の文化資源をデジタルアーカイブする手法として,ウィキペディア・タウンという活動が始まりつつある(CA1847参照)。

   京都府南部では京都府立図書館でのオープンデータ京都実践会による取り組みや,関西学研都市周辺では,精華町立図書館でのCode for 山城による「精華町ウィキペディア・タウン」のほか,国立国会図書館(NDL)関西館でも「ウィキペディア・タウン in 関西館」が行われている(E1701参照)。

2.ウィキペディア・タウン by南陽高校
   これらの活動実績を背景に,NDL関西館の近隣にある府立南陽高等学校サイエンスリサーチ科1年生の平成28年度サイエンス夏季プログラム社会実習「ウィキペディア・タウン by南陽高校」が行われた。実習では,Code for 山城,NDL関西館,精華ふるさと案内人の会の複数の主体が支援して,地域のまちあるきで知った情報を高校生自身がNDL関西館の資料を調べて確認した上で,出典を示しつつ Wikipediaを編集し地域の情報として発信した。これは高校教育にウィキペディア・タウンを活用するという日本初の試みであった。

  実習は2016年7月9日,7月28日の2日間,計20名の生徒に対して行われた。実習の目的は以下のとおりである。

  • 地域のまちあるきを通して,学校周辺の地域理解を深める。
  • 文献検索の方法を学び,自ら文章を構成する練習を通して,研究に必要な方法を知る。
  • Wikipediaを利用することの意義を理解し,それを使ってまちの魅力を発信する。

   事前実習は7月9日にNDL関西館で行われた。事前実習ではNDL関西館による資料の調べ方のレクチャー,Code for 山城によるWikipediaの説明と編集のレクチャーが行われた。誰もが編集できるWikipediaのメリットとデメリットが説明され,内容の信頼度を他者が検証できるよう図書館等の文献資料を確認・引用し,出典を明記して情報発信していく重要性が説明された。その後,Wikipediaの「京都府立南陽高等学校」のページ編集が行われた。『南陽三十年のあゆみ : 南陽高校創立30周年記念誌』や学校発行パンフレット,NDL関西館の新聞記事検索データベースを利用して,グループで「京都府立南陽高等学校」の概要,沿革,放送局の部活動などの項目について加筆した。最後に本実習のまちあるきルートの説明があり,対象地域の資料検索を行い,NDL関西館への資料の複写・出力依頼リストの作成を行った。

   本実習は7月28日に行われた。午前中に地域をガイドする団体である精華町ふるさと案内人の会のガイドで,2つのグループでまちあるきを行った。午後はNDL関西館にて,Wikipedia編集のレクチャーを再度行った上で,各グループでNDL関西館が所蔵する『精華町史』や『京都の地名由来辞典』などの文献資料を読み込み,Wikipediaの新規ページを編集し,アップロードを行った。最後に各グループが編集成果を発表し,実習は終了した。実習に参加した生徒は12月17日に南陽高校で行われる「南陽フォーラム」にて本実習で学んだことについてのポスター発表を行う予定となっている。

   今回作成または編集された記事項目は以下のとおりである。

   ・新規項目 
    乾谷
    柘榴 (精華町)
  ・加筆項目 
    京都府立南陽高等学校
    ※概要,沿革,放送局の部活動などについて加筆した。

3.おわりに
  これまでWikipediaは高校教育において信頼出来ないものであると教えられることも多かった。今回の取組みでは,このWikipediaの位置づけを再考し,図書館の文献による情報収集・確認の手法を学び,出典を示した検証可能性のある情報発信を学んでもらった。その結果,責任ある情報発信の姿勢を身につけ,社会に流布している様々な情報の検証力を高めることを高校教育において実現した。なにより高校生たちが編集内容をアップロードして,「自分たちでWikipediaのページができた!」と目を輝かせていたことが印象的だった。

  高校教育では学校図書室の活用が基本となるが,その資料の充実は厳しい現状がある。一方,地方自治体の公共図書館には地域資料が集められているが,必ずしもそれらの資料が活用されていない現状がある。今後,両者の連携により,公共図書館の地域資料を活用した,高校教育でのウィキペディア・タウンの開催が期待される。さらに,国立国会図書館との連携では,今後,同館の古典籍や歴史的音源などのデジタルコレクションを活用した地域資料の確認や出典とするウィキペディア・タウンも進めていきたい。

  NDL関西館や南陽高校が所在する関西学研都市周辺では,古くからの集落と新興住宅地の人々との交流が課題となっている。今回の取り組みの中で,精華町ふるさと案内人の会の協力によるまちあるきでは,学校の近くにこんな昔からの集落があることを知らなかったという高校生がほとんどであり,地域理解を深めることができた。また,NDL関西館の協力で文献検索の方法を学び,同館が所蔵する地域資料を基に,自ら文章を構成する実践ができた。さらに,Code for 山城の指導のもと,地域の多様な主体が支援して,検証可能性のある地域情報を高校生がWikipediaで発信することができた。ふるさと案内人の会の方からは,「高校生と歩けて楽しかった。」との言葉をいただいた。また,NDL関西館では,図書館利用ガイダンスの一環として今回の実習を実施したものであるが,担当者からは「資料を発見したり情報源を知ったりした時の,高校生の表情がうれしかった。」との感想が寄せられた。

  今後は,このような取組を様々な図書館,地域団体を連携させ,様々な地域で進めることで,公共図書館の地域資料活用の活性化や地域住民によるWikipediaを通じた地域情報の発信を進めていきたいと考えている。

Code for 山城・青木和人

Ref:
https://opendatakyoto.wordpress.com/2015/04/20/wikipedia-arts-parasophia/
https://ujigis.wordpress.com/2015/04/07/01seika-wikipediatown/
https://ujigis.wordpress.com/2016/03/10/2seikawikipediw/
https://ujigis.wordpress.com/2015/07/12/wikipediatown-in-kansaikan/
https://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/GLAM
http://www.sankei.com/region/news/160806/rgn1608060039-n1.html
http://www.sankei.com/column/news/160814/clm1608140007-n1.html
http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/learning/2016/07/28.html
http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/learning/2016/08/28-1.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/乾谷
https://ja.wikipedia.org/wiki/柘榴 (精華町)
https://ja.wikipedia.org/wiki/京都府立南陽高等学校
http://news.mynavi.jp/news/2009/03/17/021/
http://doi.org/10.1241/johokanri.55.2
E1701
CA1847
青木和人. 地域情報拠点としての公共図書館へ市民参加型オープンデータイベントが果たす意義. 第62回日本図書館情報学会研究大会論文集. 2014, p.375-380.