E1825 - ライブラリアンの見た世界の大学と図書館<報告>

カレントアウェアネス-E

No.308 2016.07.28

 

 E1825

ライブラリアンの見た世界の大学と図書館<報告>

 

 2016年6月25日,同志社大学でシンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館 ~図書館利用行動を中心に~」が開催された。このシンポジウムは科学研究費基盤研究(C)プロジェクト(研究代表者は同志社大学の原田隆史氏)「人の真の情報ニーズを汲み取るコンシェルジュ型資料検索システムの構築」主催によるものである。このシンポジウムはUstreamによる中継も行われ,主催者発表によると,来場した参加者は約200名,中継のリアルタイムの視聴者は約100名にのぼり,テーマへの関心の高さが伺えた。

 最初に,原田氏からは,図書館を利用する人々の行動について研究するにあたって,(1)図書館を利用する人々の行動に日米で差があるか,(2)日米の図書館の事情にはどのような違いがあるか,という2点の疑問を解決することがシンポジウムの趣旨であるとの説明があった。

 シンポジウムの前半は,各パネリストからの講演であった。まずパネリスト4名から自身の勤務する大学図書館,自身の業務,自身が北米の大学図書館のライブラリアンとなるまでの経歴などについて自己紹介があった。

 マクヴェイ山田久仁子氏からは,勤務しているハーバード・イェンチン図書館の紹介があった。また,自身の業務が蔵書構築とレファレンスであることや,現在の仕事に就いたきっかけなどについて説明があった。

 続いてピッツバーグ大学図書館のグッド長橋広行氏から,ピッツバーグ大学が2013年,2014年に同学の学生を対象に実施した図書館利用行動に関する調査の報告があった。調査によると,2014年の時点で毎日図書館に来る学生が50%以上であることや,2010年以前は学生の来館が少なかったが近年増えてきたこと,利用のあり方としてはグループ学習よりも個人学習の方が多いこと,よく使われるサービスはデータベース・電子ジャーナルと同館のディスカバリーサービスであり,書誌管理ツールなどそれ以外のサービスは使わない割合が多かったという。

 ハワイ大学マノア校図書館のバゼル山本登紀子氏からは,Ithaka S+Rが3年ごとに実施している調査の2003年から2015年までのデータを基にした,米国研究者の図書館利用状況に関する報告があった。学術研究をする際の出発点を問う調査では「図書館内」という回答の割合は減っているが「図書館のウェブサイトまたは目録」という回答の割合は2009年以降,増加したこと,「自分の大学図書館が印刷体の学術誌購読を中止し,電子版を購読してもかまわないか」という質問に対し,2015年時点で理系研究者の約80%と社会科学研究者の70%強,人文学研究者の60%弱が「かまわない」と回答したこと,「図書館のどの役割・サービスが重要だと思うか」という問いに対し,2015年時点で「学部生のリサーチ等の支援」を挙げる研究者の割合が高いことなどが紹介された。

 ワシントン大学図書館の田中あずさ氏からは,ワシントン大学における日本人留学生の様子と,ワシントン大学の学生たち全体への図書館による支援についての報告があった。この報告では,ライブラリアンたちが日本人留学生たちのレポートのアイデアを一緒に考えたり,資料探しを支援したりしていることが語られた。田中氏が,日本をテーマとした研究を行っている学生を同学の東アジア図書館に学部を問わず集め,研究テーマの共有,レポート発表の練習をするという企画を実施している,ということについて発表があった。

 後半は参加者が当日に記入した質問カードに登壇者が回答を行う形式で質疑応答が行われた。その中で,米国では教育目的であれば資料をスキャンして電子的に送信することも可能であることや,日本のデジタルアーカイブはディスカバリーサービスでの検索が困難であるため見つけにくいという意見があること,ピッツバーグ大学では個人の学習場所としての役割が図書館に対して求められていること等が明らかになった。

 最後に司会をつとめた国際日本文化研究センター図書館の江上敏哲氏から,各パネリストに対し「今後,ライブラリアンと大学図書館はどのような将来像を目指すべきか」という質問が投げかけられた。大学教員同士を繋ぐ役割を果たすライブラリアン,多様性の重視,一次資料のコレクションの充実,学生の情報リテラシーの向上を目指すべきだ,といった回答があがった。今回のシンポジウムで米国の大学図書館の最新事情を知ることができたことは,自身が,今後,どのような図書館を作り上げていくことを理想とするかということを考える一助になった。

京都大学附属図書館・今野創祐

Ref:
http://www.slis.doshisha.ac.jp/topics/
http://www.library.pitt.edu/other/files/pdf/assessment/MyDayAtHillmanSurveyResults.pdf
http://www.sr.ithaka.org/
http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty-survey-2015/
http://www.slideshare.net/hirogood/ss-63590400
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